やわらかきガーゼの肌着洗いおりみずからの手を洗うごとくに
枇杷いろの灯りともしてバスが来る どこか遠くへ行きそうなバス
お人形みんな寝かせてみずからも眠くなりたる幼子を見つ
たそがれの沼のようなる桜木に呑みこまれたり一羽の鳥は
「里の秋」唄えばいつも涙出るわれの身体のいずこに浸みし
父が書きしバスの時刻が黒板にのこされしまま数年が過ぐ
良い歌をすこしだけ作って暮らしたい今日は桜のふぶき見あげて
忘られているときもっとも自由なり夏蠟梅の花もおわりて
鈴の音を鳴らしてトイレにゆく母を思えり廊下のながさ思えり
移動図書館「そよかぜ号」が目の前にしばし止まれり信号の間を
(関谷啓子 最後の夏 本阿弥書店)
***************************
短歌人の先輩であり友人の第六歌集。歌にも作者にも清潔感がある。ご両親を見送り、実家を処分する一方、孫の世話にたびたび呼ばれる。そんな暮らしを歌が支えている。
枇杷いろの灯りともしてバスが来る どこか遠くへ行きそうなバス
お人形みんな寝かせてみずからも眠くなりたる幼子を見つ
たそがれの沼のようなる桜木に呑みこまれたり一羽の鳥は
「里の秋」唄えばいつも涙出るわれの身体のいずこに浸みし
父が書きしバスの時刻が黒板にのこされしまま数年が過ぐ
良い歌をすこしだけ作って暮らしたい今日は桜のふぶき見あげて
忘られているときもっとも自由なり夏蠟梅の花もおわりて
鈴の音を鳴らしてトイレにゆく母を思えり廊下のながさ思えり
移動図書館「そよかぜ号」が目の前にしばし止まれり信号の間を
(関谷啓子 最後の夏 本阿弥書店)
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短歌人の先輩であり友人の第六歌集。歌にも作者にも清潔感がある。ご両親を見送り、実家を処分する一方、孫の世話にたびたび呼ばれる。そんな暮らしを歌が支えている。