気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

百万遍界隈 永田和宏歌集

2006-03-30 23:55:12 | つれづれ
降る雪を容れていっそう暗くなる深泥池を見て帰るなり

ひと呼吸ごとに螢は光るものほたるに同調する闇の量(かさ)

捨てに行く捨てて帰り来(く) どちらともわからぬ夢の坂のなかほど

廂(ひさし)まで樽積まれおり四つ辻の小杉醤油店西日の烈(はげ)し

なに切りて来し妻なるや鋸(のこぎり)と大(おお)釘抜きを下げて入り来(く)

(永田和宏 百万遍界隈 青磁社)

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永田和宏の第九歌集『百万遍界隈』を読みはじめる。
馴染みのある地名がつぎつぎ出て来る。表紙の絵もまた私にはうれしい。

一首目。三月末なのにこちらは雪がふり、いまの気分にぴったりの歌。深泥池は雪も容れてしまう闇の世界。
二首目。蛍と闇が対で、同調しているということに納得する。同調という言葉は、歌にはあまり使われないのじゃないか。情緒的でない作りにしてあるのか。
三首目。坂というのは、上っているようでもあり下っているようでもある。また捨てるという行為も、逆に言えば、空間を拾っているとも言い得る。物事の二面性を思う。
四首目。小杉醤油店、知ってるんです。最近あの辺りへは行っていないが。
五首目。何らやおそろしい気配を感じる歌。庭木や竹というのが妥当な想像だが、もっと凄いものを思ってしまう。

雪の果て深泥池に背な見するバス停の椅子 亡者が座る
(近藤かすみ)