その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

鈴木智彦『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』(小学館文庫、2021)

2024-06-16 09:02:10 | 

平成25年(2013)から平成30年の取材を中心に、アワビ、ナマコ、ウナギ(+シラス)を題材に密猟がどれだけ幅を利かせていて、密猟と暴力団の関係といった裏事情をレポートする。(2018年に単行本が出ているのだが、21年に2章が追加されて文庫化された)

読んでいて怖いのは、日々の食材が裏流通で成り立っているところもあること(平成15年7月の雑誌『養殖』における多屋勝雄の記事だと日本で流通しているあわびの45%は密猟の計算になるという(p15))。そして、我々もその価値連鎖の末端において消費者として加担しているということだ。

章によっては歴史的な背景の解説で、決して現在がそうであるわけではないこと(例えば、第4章の千葉県銚子市についての記事)、ジャーナリスティックな文体から来る事実と推測の区別がつきにくいことなどはある。また、この状況が日本の漁業の全体像を示しているわけではないだろう。なので、注意深く読むことは必要だが、こういう世界があって、我々も当事者であるということは、知っておいたほうがよい。

本書に記載とは別だが、歴史的に魚に多くの我々の栄養取得を頼ってきたにも関わらず、日本は世界的にも数少ない漁獲量が減り続けている国である(90年13万トン→19年5万トン)。先日、会社のSDGsの研修で知ったのだが、国連が定める目標持続可能な開発目標(SDGs)の目標14に「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」という目標があるが、日本はこの目標については赤信号との評価を受けている。日本の漁業には、漁業資源の乱獲など、多くの問題に目が向けられていない、乱獲しすぎで漁業の生産性が悪化しているといったことが背景にあるとのことだ。

自分たちが日々口にしているもの、お世話になっているものであるが故になおさら、それらの社会的背景は知っておいた方が良いと思う。

 

〈 目次 〉

第一章 宮城・岩手 三陸アワビ密漁団VS海保の頂上作戦
第二章 東京 築地市場に潜入労働4ヶ月
第三章 北海道 “黒いダイヤ”ナマコ密漁バブル
第四章 千葉 暴力の港・銚子の支配者、高寅
第五章 再び北海道 東西冷戦に翻弄されたカニの戦後史
第六章 九州・台湾・香港 追跡!ウナギ国際密輸シンジケート
新章一 再び東京 “魚河岸の守護神”佃政の数奇な人生
新章二 三たび北海道 密漁社会のマラドーナは生きていた


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