その二人は共に末期の病状で寝たきりの入院生活を送っていた。
窓側の一人は、「今日は雲ひとつ無い青空だ」「水鳥が華麗に舞っている」「蓮の花が綺麗に咲いたよ」などといつも壁側のもう一人に教えてあげていた。
壁側の一人は、まいにち聞くことを楽しみに、空想で遊び、窓側の一人は一生懸命説明することを喜び、二人には穏やかな時間が流れていた。
ある日、窓側の一人の容態が急変し、緊急ボタンも押せない状態になった。
もう一人はあわてて自分のボタンに手を伸ばした。
が、なぜか押すことは無かった。
窓側の一人は、そのまま息を引き取った。
そして壁側の一人は、空いた窓側に移されることになった。
死ぬまでに一目でもいいから、もう一度外の世界を見たいという欲望は叶えられた。
そこには蓮の花が咲いているはずだ。
歓喜にむせびながら、カーテンをゆっくりと開けていった。
そしてついに見た。
そこは、変色した染みだらけの壁だった。
二人で垣間見た蓮の花は、もうどこにもなかった。