前々回のブログの続きです。
この項、故郷自慢に満ち満ちているので、 適当に読み飛ばしてくださいね。
まずは、お笑い芸人・ピース 又吉の文庫本
この方は今年 「火花」 という小説で芥川賞の候補にもなっている実力派。 (本日芥川賞発表、どうなるでしょう?)
読書好きで、彼自身の若い頃からの体験を語りつつ、彼の心に残った本を紹介している。
目次を見ると60代の私にはおなじみの本もあり、全く知らない本も沢山。
今回内容は触れませんが、彼のキャラクターにより、独特な本となっている。
この本の中の 「昔日の客」 という項を読んだ娘が
「大森に、山王書房という古本屋があったらしいけど、どこだか知っている?」とlineしてきた。
「 三島由紀夫とか、有名な文学者が通っていた本屋らしい」 と。
そう言えば・・・・・・あの本屋ね。
大森の実家のごく近くに静かな佇まいの古本屋があった。
ここには良い本が沢山置いてあるという噂を中学時代に聞いた。
けれど、まだ子供の中学生はお呼びでない感じ。いつも素通りしていた。
高校生になって意を決して入ってみたが、古い本が並んでいるけど、良さが全く分からず、すぐに店を出てきた。
そうそう、その古本屋の名前は確か 「山王書房」 だった。
我が大森の、特に馬込地区には、大正時代から昭和の初めにかけて、数多くの文士たちが住んでいた。
川端康成、尾崎士郎、室生犀星、宇野千代、三島由紀夫、その他数多く。
文士が多く住んだ地域は馬込文士村と言われ、わが実家のそば。
文士村は有名なのだけれど、私にとっては、まぁ地域の歴史ぐらいの遠い存在と考えていた。
ところが古本屋の話がきっかけで、いろいろ思い出してみると、
母の実家の3軒隣には有名な文学者が住んでいたり、
中学の2年先輩には尾崎士郎の息子がいて、文集に立派で面白い文章を載せたりしてした。
村岡花子の家は、通った小学校の近所だったし、
川端康成も新婚時代、実家のすぐそばに住んでいたらしい。
文士村って、遠い存在のように感じていたけど、
実家のすぐそばの古本屋が、文学者達御用達であったとは!!
馬込文士村を身近に感じた瞬間だった。
私の家の近所に、三島由紀夫達が来たのね!! と思うとワクワクしてきた。
その古本屋・関口良雄が書いた本が 「昔日の客」
1977年に発行されたが、2010年に復刻された。
そんな昔の部数も少ない本を、夏葉社という社員ゼロの一人出版社が目にとめ、復刻していた。
買おうかと思ったけど、念のため図書館で調べたら在庫があった!!
初版の時は、手摺の木版画を口絵に入れていたそうだ。
さすがに復刻版は印刷だった。 (銀杏子とは作者の俳号)
古本屋の親父さんの書いた本というと、偏屈で、独りよがりで、屁理屈をこねたものを想像してしまう.
けれどこの随筆集は全く違う。
正宗白鳥、尾崎士郎、尾崎一雄、三島由紀夫達との交流も書いてあるけれど、自慢げではなく、へりくだりもせず、
あくまでも自然体で、人対人の交流を楽しんでいる感じ。
一言でいうと、日本語が綺麗。
本への愛情、家族への愛情、文士たちへの尊敬が無駄のないシンプルな美しい文章で語られ、情緒豊かな気分にさせる。
例えば最初の項目
正宗白鳥の著作が好きで、状態の良い初版本をたくさん集め、
作者に 「たくさん集めたね」 と褒めてもらいたいばかりに、自宅を訪問する。
でも、出てきたのは 「粗末な身なりの老婆」。
白鳥は留守で、粗末な身なりの老婆が奥さんと分かる。
その奥さんと夕暮れまで、鶏小屋の横であれこれ話し込む。
何のことはない描写だが、正宗白鳥が留守で残念な気持ちと、
尊敬する白鳥の事を 奥さんと一緒に話しあえる喜びが静かに感じられて、とても良い文章だった。
店には 月替わりで毛筆の色紙を書いて貼っていたそうだ。
ちなみにこんな詩を
年齢を重ねた今、行ってみたい本屋だった。
図書館から借りた本だが、手元に置いて、何回も読み直したい本だ。
この古い本の素晴しさに目をとめ、復刻した若い出版人に、敬意を表したい。
最後に 大森ツァーご一緒したnao♪さんのブログから拝借した写真です。
大森に住んだ文士達のレリーフと説明が駅前にある。
追伸・・・・ 又吉さん、芥川賞受賞おめでとう♪