目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

『御嶽山噴火 生還者の証言』

2016-10-16 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

 『御嶽山噴火 生還者の証言 あれから2年、伝え繋ぐ共生への試み』小川さゆり(ヤマケイ新書)

著者の小川さゆりさんは、山岳ガイド。御嶽山には、ガイドの下見に来ていて噴火に遭遇、九死に一生を得た。御嶽山の噴火はまだ記憶に新しい、2年前の2014年9月27日(土)11:52の発生。なんと著者は、このとき、単独でお鉢めぐりをしていたという。

この本の前半は、生々しい噴火時の体験談となっている。噴石がすさまじい音を立てて高速で飛んでくる描写はすごい。砲弾が飛び交う戦場にいるようなものだ。噴石は、ごく小さなものから、冷蔵庫くらいの大きさ、果ては軽トラックくらいの大きさのものまであったというから驚きだ。硫黄臭のする火山ガスも流れ出して来て、命の危機を感じたほどだという。ちなみに死を招く硫酸ガスは無臭というから怖い。そこへ熱風も押し寄せてくる。

いったん収まったかに見えた噴火、その隙を狙って小川さんは移動するのだが、いつ再び噴火するとも知れない緊迫感が伝わってくる。山頂付近で会った登山者、けがをした人も見たママを描写している。灰が積もって登山靴に付着し、まるでアイゼンについた雪の塊のようになったともいう。読み進めるうちに、よくぞこの未曾有の危機を乗り越え、助かったものだと、感心させられた。

助かった要因は3つあると小川さんはいう。
●噴火時にいた場所
●登山の経験や知識・技術
●運

小川さんは、ちょうど岩陰に逃げ込めて、噴石の直撃を避けられた。場所によっては、噴石を避ける岩や建物など何もなかっただろうから、噴火時にいた場所が運命を左右したといっても過言ではない。2つ目については、小川さん自身、噴火に遭ったのは初めてだが、すぐに身の安全確保に行動を移せたことが大きかったと記している。それは長年の登山経験から来る危険察知の本能だろうか。そしてきちんとした装備で山に登っていたこと。これも経験と山の知識に由来するものだろう。装備は、ツェルトや防寒具、ファーストエイドキットは必携と書いている。怪我をして山頂付近に取り残された遭難者で、低体温症で亡くなった方もいるというから、備えあれば憂いなしと心に留め置くべきだろう。3000m級の山頂付近であれば、下界よりも18℃も低い、朝方零下になったことは予想がつく。日帰り山行だと、どうしても装備を省略しがちだけれども、高い山ほど緊急時のために、きちんとした装備をすることが求めらる。3つ目の運にいたっては、「神のみぞ知る」だろうか。噴火の合間を縫って移動、下山ができた幸運をはじめ、さまざまな幸運があったことを挙げている。

体験記のあとには、遭難の原因についても書いている。登山者が多かった剣ヶ峰などの場所では、正常性バイアス多数派同調バイアスが働いたと指摘している。正常性バイアスとは、目の前の危機的な状態を認めたくないという心理状態。多数派同調バイアスとは、皆と同じ行動をとればだいじょうぶだと信じ込む心理状態だ。遭難者はよくこれらの状態に陥ることで知られているけれども、まさしく今回の噴火も、遭難者に限らず、生還した登山者もこの心理状態になった人が多かったのではないかと推測される。

最初の爆発から、噴石が飛び始めるまで、60秒あったといわれるこの噴火で、まずカメラをもっている登山者で、写真を撮っていない人はいないというくらい、皆カメラを出してしまった。まさしく正常性バイアスと多数派同調バイアスだ。誰かが逃げろと大声を張り上げて、走り出せば、状況はだいぶ変わったかも知れない。災難は自分の身にだけは降りかからない、降りかかるはずがないという思い込みは、誰しもがもつ。ましてや、こんなに大勢の人がいるのだから、何かあってもだいじょうぶだと思い込んでしまう。山岳会であれば、パーティをつくるときは多くても5,6人、しかも経験豊富なリーダーを立てる。それは、こうしたバイアスを避ける意味あいが強い。

今回の噴火による遭難は、上記のような登山の知識ばかりでなく、活火山の知識をももつことを教訓に加えたようだ。この御嶽山噴火を概略しか知らない山好きのみなさん、ぜひこの本を読んで知識として蓄えておくことをお勧めします。

御嶽山噴火 生還者の証言 あれから2年、伝え繋ぐ共生への試み (ヤマケイ新書)
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山と渓谷社
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