目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

テレ朝「天空のヒマラヤ部族」を辛口評価してみる

2020-03-15 | テレビ・映画


Squirrel_photosによるPixabayからのイメージ画像 

テレビ朝日開局60周年記念「氷と雪に閉ざされた秘境の地 天空のヒマラヤ部族 決死の密着取材150日間」(3/8放送)の録画を見た。

この手のドキュメント番組は、やはりNHKが一枚上手(うわて)だ。一枚どころか何枚もか。民放の番組だけに視聴率をかせごうという意識が優先してしまい、ドラマティックな展開にするためのいらぬ映像の挿入、必要な映像や情報を端折っているというアラばかりが目立った。それをカバーするためか、一ディレクターにすぎない「ナスD」をタレントのように起用し、彼を軸に映像は編集されていた。いっぽうでサポート、アドバイザーとして元テレビ朝日の大谷映芳氏がでんと構えているのは一行の安全面では有効だったろう。じっくりと視聴者に見せるもっと長尺で重厚なものが見たかった。とはいえ私はこの番組を完全否定しているわけではなく、ドキュメンタリーとしてそれなりに楽しめたし情報も得られたので評価したい。

番組では、ネパールのドルポ地方、最奥のティンギュー集落への行程を克明にたどっていく。2018年10月にカトマンズ入りし、スタート地点のドゥネイへ移動。そこで荷運び用のカッツァル(ラバだったか)を調達し、1頭あたり最大70Kgの荷をくくりつけ、現地雇用のポーターらと出発する。

スリガド川沿いの長く険しい、ときには断崖絶壁にやっと刻み付けたような細い道を進む。道々、ヒマラヤが原種であるとする珍しい動植物を紹介しつつ、ヒンズー教徒の村チェプカ、ドルポとチベットで古代信仰されていたというボン教の里リンモ村やトッキュー村などの集落を通過していく。途中で登場した真っ青な湖面を輝かせるポクスンド湖は圧巻の眺めだった。なぜ青く見えるのかの解説がなかったのは残念だったが。

ポクスンド湖より上は高所で活動するのに適したヤクに荷を積め替え、カッツァルはお役御免となる。高所になると酸素濃度は下がり、高山病やそれに似た症状が起きやすくなる。途中カメラマンが歩行困難となり、さらには呼吸にまで障害が出て、その様子を他のカメラマンがとらえたことも。ほかのスタッフたちは、荷物をポーターやヤクに運ばせているから比較的身軽だけれども、カメラマンは撮影しながらの行程で、自らカメラ機材を持ち運ばなければならないから、それだけ過酷さを増すのだ。

峠、峠ではルンタと呼ばれるチベットの祈祷旗が強風でバタバタと音を立てていたのが印象的だった。過酷な道行を象徴してはいるが、そこからの眺望がまたいい。聖山クーラ・マウンテンやダウラギリなどの冠雪した真っ白い峰々はヒマラヤを実感させるものだ。

そしてドゥネイから13日目にして目的地ティンギューに到着する。しかしこれは、厳冬期にこの地に入るための予行練習にすぎなかったことがすぐにわかる。一行はいったん帰国し、翌2019年1月末に再びネパール、ドゥネイに入る。

厳冬期にティンギューに入れるのか。でも番組がこうして成り立っているのだから、事故や死人が出ることなく、取材は完了したはずだとみていると、現地のポーターたちからの雪が多くてたいへんという悲鳴が聞こえてくる。日本人はだいじょうぶとナレーションが入るが、日本人スタッフはそもそも運ぶ荷物が少ないからポーターほどの負荷はかかっていない。

ときには吹雪のなかを突き進んでいく映像を見て無謀と思えたが、やがて全員無事にティンギューに到着する。事故が起きなかったのはたんなる僥倖ではないのかと思えてしまう。それはさておき、この時点からようやく本来の取材目的であったティンギューのチベット暦で行われる、おおみそかと新年の行事の取材がスタートする。

世界で初めての映像として、新年の仮面祭りが始まる。集落から少し登った丘に舞台が設けられていて、そこに参加する老若男女が参集する。集落の全員が参加するのであれば、500人となるわけだが、映像からそれほどの人数がいるようには見えない。丘にいない人たちは、どうしているのかの情報はなかった。

新年を迎えたお祝い、今年も幸あれと祈り、ごちそうを食べたあとには、過酷な日常に戻らなければならない。あるものは断食の儀(4日間のソージュン、8日間のニュンネ、16日間のものもある)に臨み、あるものは集落の家畜の放牧場所を求めて移動を余儀なくされる。

取材をした2019年の新年は雪が多く、家畜に食べさせる草を探すのが困難であったと番組では報告した。ヤクやヤギの移動を繰り返すうちにヤクは3000頭のうち2000頭が、ヤギも多数死んだという。たしかに映像では積雪が多く、いったん深みにはまれば、いかに大きなヤクであれ身動きがとれなくなるだろうと感じた。そうなると少人数の人力ではどうにもならない。映像はあえて流さなかったのか、なかった。

ここまで見て番組は終わりだと思った。しかしなんとこの後に付け足したように、120年前にこの地へ来た河口慧海を登場させ、慧海がたどったルートをたどるとして、ジョムソンから再びドキュメンタリーが始まった。また別の回に改めるべき内容とボリュームだと思った。

三たびティンギューに入り、女たちの牧畜生活をとり上げるいっぽうで、男たちは交易でチベットへ赴いているとナレーションが入るが、映像はない。彼らの生活にとって欠かすことのできない重要なものなのに省略とは。

番組の最後のころには、またポクスンド湖が出てきて鼻白む。さらにはナスDが番宣用として足元の悪い岩場の突端にあがってどうでもいいメイキング話をするのはどうか。河口慧海編は明らかな尻切れトンボで終わった。

参考:当ブログ日本の偉大な探検家、河口慧海


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