目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

新田次郎『小説に書けなかった自伝』

2012-09-23 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

01 『小説に書けなかった自伝』新田次郎(新潮文庫)

新田次郎の苦悩が赤裸々に書かれている。とくに気象庁の仕事と作家の仕事という2足のわらじをはいていたので、職場の人間関係には悩まされたようだ。作家として売れてくれば、収入や名声に対してのやっかみが生まれる。役人としての仕事をおろそかにしているんだろうと、後ろ指を差される。でも何事にも真摯に取り組むのが新田次郎流で、自分自身や職場で言い訳をしないために原稿書きは深夜まではやらない。翌日職場で居眠りしていては、ダメだと自分に言い聞かせるという姿勢をもっていた。すごいね!

そのうち仕事ぶりが評価されて、富士山山頂にレーダーを設置する担当課長になる。仕事の鬼と化し、技術屋としての能力もフルに発揮するし、理詰めで業者選定をして管理能力をも発揮する。いっぽうでは原稿の執筆量は減ったとはいえ、短編を書き上げるという恐るべき執念を見せる。

いわゆる役所の課長職というのは、現場の長で、現場で起こること一切合財を取り仕切るという絶大な権限をもっていて、重要なポジションであり花形ポストである。しかし、富士山頂にレーダーを設置し終えてみると、一転して早くポストを後輩に明け渡せと、圧力がかかるんだね。結局職を辞すことになるのだけれど、よせばいいのに、職場の中をぐるりと後任とともにあいさつ回りをする。そのときの人間模様は面白い。最初から嫌な思いをしそうだと、うすうすは感じていただろうに。

この人間模様や職を辞したことが、しばらく尾を引いて、小説の邪魔をする。しかし、そんなことは、時の移ろいとともに、きれいさっぱりと、人生の後景に去っていくものだ。新田次郎もその例外ではなく、再び精力的に仕事をこなしていくことになる。

年賦を見ると、驚くほどの作品数だ。仕事が来なくなる、あるいは書けなくなるという、作家が少なくとも一度は経験する恐怖感が人一倍強く、書かなければという使命感からひたすら構想を練り、書いて書いて書きまくった結果がこれなのだろう。

でも、それを表す象徴的なエピソードとして、こんなことが紹介されている。夕飯を食べて、いざ原稿を書くために2階の書斎へ上がっていくときに、毎日「たたかいだ。たたかいだ」と声にだして自分を叱咤していたとある。あるとき娘がその言葉を真似したのを聞いて、自制したらしいが、それだけ、自分に活を入れていたということなんだろう。

小説に書けなかった自伝 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社
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武尊(ほたか)山~武尊牧場コース

2012-09-16 | 山行~上州

000img_6054標高 2158.3m 群馬県

2012年8月26日(日) 晴れ

メンバー 私だけの単独行

コースタイム 6:18武尊牧場スキー場臨時駐車場--武尊牧場登山口6:34--7:29武尊牧場キャンプ場分岐より入った東屋7:36--(三合平)--8:35武尊避難小屋8:40--(小湿原上部で小休止)--10:00分岐--10:30武尊山山頂(昼食)11:05--12:25避難小屋手前12:33--13:25映画ロケ地の看板前13:30--13:55リフト乗り場14:05--(リフト)--14:30頃 武尊牧場スキー場臨時駐車場

山の神は、嵐が司会をする日テレの「24時間テレビ」を見るためにお留守番となった。そこまでして見たいとは思わなんだ。

朝方5時間に設定していたタイマーが切れて冷房が止まり、暑くて目が覚めた。まだ3時くらいだった。もう一眠りと思ったが、目が冴えてしまって、そのまま出発することにした。時計を見ると3:30。今までの出発時間でもっとも早い。おかげで道路はガラガラで、快適に走れた。関越を移動し、一度赤城高原SAで軽く休憩をとっただけで、沼田ICを降りる。川場スキー場方向へいったん曲がり、ひたすら直進。山道を抜けていくと集落が出てきて、いつぞやに寄った日帰り温泉施花咲の湯が出てくる。その先の武尊牧場スキー場の案内板を見て、左折した。

途中コンビにで買出しをしたが、最終コンビには、川場スキー場手前のセブンイレブンなので、気をつけたい。

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左:武尊牧場スキー場の臨時駐車場 右:スキー場上部にあったヤナギランの群落

どんづまりに武尊牧場スキー場はあった。この牧場は、春と秋には牛が放牧され、草を食んでいるようだが、夏場は暑すぎるせいか牛はいない。

トイレに寄って、6:34牧場横の登山道を歩き始める。すぐに車道にあがり、単調な舗装路をずっと歩くことになる。「牧場内歩行禁止」と看板が出ていて、牛の脱走よけの有刺鉄線が、まるで人の立ち入りを拒むために設けられているように錯覚する。

車道歩きにうんざりしてスキー場の深奥部までいくと、キャンプ場になっていた。テントが1、2張りあって、子どもが走り回っていたが、東俣駐車場への道は、一般車両通行止めになっている。どうやってキャンプ道具を持って上がってきたのか不思議だ。キャンパーだけ特別に通行許可が出るのだろうか。

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左:東屋付近(三合平) 右:武尊山への分岐

7:29キャンプ場から左に折れ進んでいくと、白樺の森の中に東屋がある。どうぞ休んでくださいと手招きされたように、そこへ吸い寄せられて休憩する。サクサクと進んできたようなつもりでいたが、時計をみるとそうでもない。もってきたお茶を飲んで、つかの間の休憩をとる。

白樺の道を抜けていくと、そのまま東俣駐車場へ通じるが、途中武尊山への分岐が左手に出てきた。そこから木道をしばらく歩くと、気持ちのいいブナ林だ。カラスが大量に棲みついている恐ろしい箇所があったが、トレッキングコース(トレール4Kmと書かれていた)が新たにつくられていて、人が食べ物を落としたり、捨てたりした影響なんだろう。ほとんど逃げないカラスもいて、かなり人馴れしているようにも見受けられた。

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左:武尊避難小屋 右:セビオス岳近辺の小湿原

そのうち薄暗いオオシラビソの森になり、笹地帯を何度か通過する。8:35避難小屋に到着。小屋の横に置かれていた丸太を輪切りにした即席椅子に腰掛けて休憩。

ここから先には、さらに笹が元気よく繁茂して藪状になっているところも出てくる。高度をかせいでいくと、パッと開けて小ぶりな湿原が現れた。そして、樹木がない分展望がよくなる。近所の燧ヶ岳や至仏山、笠ヶ岳がよく見える。

002img_6038 燧ヶ岳

003img_6039 笠ヶ岳と至仏山

樹木がほとんどなくなり、強い日差しに悩まされていると、今度は鎖場が登場する。ほとんど垂直みたいなところに鎖が垂れ下がっているが、距離は大してないので、普通の体力があればまず上れないことはない。ただお子さんはどうなんだろう。復路で小さいお子さんを連れていた家族連れが上ってきたので、この先に鎖場がありますけど、だいじょうぶですかと思わず声をかけてしまった。だいじょうぶですといって、そのまま彼らは突き進んでいったが、鎖場をそのまま強引に進んだのだろうか。

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左:中ノ岳の岩峰 右:鎖場

中ノ岳を回りこんで前武尊からの稜線に出る。そこからほどなくして、菩薩界の水が出てくる。ちょろちょろと申し訳程度に水がしたたり落ちている。手のひらにためてちょっと口に含んでみると、なかなかおいしい水だった。

この稜線はよく踏まれているようだ。次から次へと登山者とすれ違う。牧場からの道では、年配の方一人にしか会わなかったのだが。

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左:菩薩界の水 右:三ツ池のひとつ(冒頭の赤とんぼもこのあたりで撮影)

いったん三ツ池のあたりで下り、よどんで汚い三ツ目の池を一顧だにせず上っていくと、お不動様がいて、すぐそこに山頂が見えている。

10:30武尊山山頂に到着。大勢の登山者でにぎわっていた。メシを食べようと思っても、スペースなし状態だ。しかし写真を撮っていると、タイミングよく2人組がちょうど立ち上がって下山していった。そのスペースをいち早く確保して、メシにした。

上っている途中から川場側からガスが上がってきていたのだが、この時点で山の半分はガスにすっぽり覆われてしまい視界ゼロになってしまった。

09img_6058_6 005img_6059_3 2点とも山頂

三ノ池近辺で山の神から「今どこ?」というメールが届いた。家に残してきた計画書は、1時間後ろにずれているし、しかもバリバリ飛ばして歩いていたから、予定よりもだいぶ早い。山頂到着直後に山の神にメールを送る。「早いねえ」と返信が着た。そりゃそうだ。

10img_6064_3早いついでに、昼メシも早々に済ませて、下山準備。帰りの関越の渋滞予測は、気が萎える長い距離と時間になっていたから、少しでも早く下りておこうと、道を急いだ。

しかし、復路は疲労がだいぶ蓄積していて、クタクタになっていた。とにかく距離を長く感じていて、心の中でまだかまだかとつぶやいていた。

鎖場の上と下で3,4パーティとすれ違う。人気のないコースと思いきや、意外に歩いている人がいる。

リフト乗り場にたどりついて、ひとまず休憩する。とにかくのどが渇いて、自販機でコーラを買う。囲いの中の飼いうさぎを見ながら、日陰でくつろぐ。もう歩くつもりはないから、ここでもう今日の行程は実質終了だ。さすがにここからの車道歩きは、もういやだ。リフトは片道で¥800もとられたが、ゆったりと20分ほどの空中散歩を楽しんで本日の登山を締めくくった。

終点で売店に入り、ソフトクリーム¥300を食べる。今から思えば、ここでのんびりし過ぎたんだろう。関越に乗ったのは15:30頃だったが、家に着いたのは、19:30頃になり、せっかく早い下山も無に帰した。山の神は、「24時間テレビ」のフィナーレを見ていた。

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平標(たいらっぴょう)山

2012-09-09 | 山行~上州

平標山 標高 1983.7m 松手山 1613.6m 新潟・群馬県

2012年8月19日(日) 晴れ

メンバー 山の神と私

コースタイム 7:50火打峠平標山登山口駐車場8:05--(5分休憩)--9:08鉄塔先のシナノキ9:15--9:45松手山9:53--10:40最終上り取り付き(看板あり)10:45--11:05平標山山頂(昼食)11:48--12:20頃 平標山ノ家12:33--13:10平元新道登山口(林道出合)13:15--14:10火打峠駐車場

4:30頃家を出発。関越では渋滞にはまることもなく順調に進む。途中雨がパラつくが、天気予報はまあまあだから、じきに回復するだろうと安穏と車を走らせていた。平標山のもっともポピュラーな登山口である火打峠の駐車場には、7:50に到着。すでにもう何台も駐車していて、出足の早さに驚かされる。最近は暑さのせいか、なるべく早く出発しようとする人が増えているようだ。人によっては夜中に来て、仮眠をとって早朝出発とかね。

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左:火打峠平標山登山口駐車場。右手にも駐車スペースがある 右:駐車場にある立派なトイレ

トイレに寄って、8:05出発。右上写真のトイレの左手に登山口がある。ここから松手山コースにも、上信越自然歩道コースにもつながる。昨日までは、後者のコースをたどって、ぐるりと一周と思っていたのだが、山の神が展望とお花の道を上るほうがいいと言い出して、逆コースをたどることにした。

松手山コースは、かなりの急登の連続になるから、下りに使おうと思っていたのだが、まあ上信越自然歩道は、面白みのない林道歩きが長いから、下山に使ったほうがいいかと妥協する。むしろ展望とお花の道というハイライトを、先にもってきたほうがいいかと思い直す。

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平標山は、高山植物の宝庫

車道から、登山道に入っていくと、すぐさま急な上りが始まった。少しモワっとした空気が気になる、日差しがない道を上がっていく。その日陰の地べたには、見たことのない花(上左端)や、たまに見かけるが名前のわからない花が咲いていた。残念ながら、家にある植物図鑑を眺めてみても、該当するものは見つけられなかった。

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左:1411m付近。鉄塔が目の前にある 右:鉄塔先で枝を伸ばすシナノキ

バテ気味の単独行山ガールを追い越して、鉄塔付近に上がってくると、パッと開けていて、振り返ると苗場スキー場の筍山が見える。強烈な日差しを避けて、鉄塔先の樹林帯に逃げ込んで休憩とした。「シナノキ」のプレートがつけられた大きな樹木の下で、涼みながらお茶を飲む。

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松手山から平標山を望む

絶え間ない急な上りに辟易しながらも、松手山近辺で、平標のおだやかな山容と草原のライトグリーンが目に飛び込んできた。思わず声が出る。おお!

平標は3回目だが、やはりこの景色は何度見ても、気分を爽快にしてくれる。松手山山頂で、休憩をとる。なぜかもう登山者が続々と下ってくる。トレールランをやっているのか、走っている人までいる。

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気持ちのいい緑の稜線

9:53松手山をあとにする。稜線上はいつの間にか風の通り道になっていて、風速も増しているようだ。

お花畑を堪能しながら、高度を上げていく。登山道に沿って咲き誇るシャジンの放列には驚く。こんなに連なって咲いているのは、すごい! そのうち一輪だけハクサンフウロを見つけ、貴重な花だと写真をパチリと。そこからちょっと上ると、もっと咲いていた。これで見納めだろうとパチリ。さらに上がると、もうたくさん咲いていてお花畑になっていた。あせってシャッターを切っていたが、こんなに咲いているとはね。山の神にもういいでしょといわれ、しばし花を愛でているおばちゃんパーティを横目に先を急ぐ。

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左:シャジンのお出迎え。登山道に沿って盛大に咲き誇る 右:ハクサンフウロ

10:40遠くからも目印になる看板「高山植物や昆虫を自然の姿で残そう」のところで、頂上直前の休憩をとる。

腰をあげて上り始めると、ガスの中に入ってしまった。視界をさえぎられているうちに、上のほうから人の声が聞こえてきて、あれっ、もう平標の山頂かという感じで、11:05登山者でにぎわう山頂に到着した。駐車場にあった車の台数を考えると、まあこのくらい人がいてもおかしくはない。明らかに15人以上はいた。

06img_6005 山頂の周囲はガスで覆われていた

山頂は1,2度ガスがはれ、周囲の山を一望にできたが、瞬時にしてまたガスが流れてきて何も見えなくなってしまった。残念。でも途中の景色で十分満足していたから、このガスもなんのそのか。

あとから来たパーティの年配者の話が隣から聞こえてきたのだが、この山頂あたりは、30年か40年前くらいまでは、ジメジメしていて、湿地だったらしい。今はまったくその面影はないのだが。たしかに下山路にとる平標山ノ家への道は、湿原の端につけられた木道になっているから、以前は山頂まで湿原だったと思えなくもない。ただここの湿原は、だいぶ乾燥化が進んでいるように見える。

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左:平標山から山ノ家に下る木道 右:平標山ノ家

11:48下山開始。延々と続く木道の先に平標山ノ家がポツンと小さく見えている。ときおり、よどんだ生暖かい空気が不快感を催させる。12:20頃山ノ家に到着。以前訪れたときには、かなり老朽化していたのだが、建て直して新しくなっていた。ここに一泊して、縦走するのも楽しそうだ。

腰をおろして休憩していると、地元の方らしきおばちゃんが来て、表に「平標山1984m」と印字され、もみじがパッキングされたブックマーカー(しおり)をどうぞと差し出した。裏には「みどりは友だち国有林」「ポイ捨て禁止 山火事注意」「中越森林管理署」と印字されている。これを一つひとつ作って、山に持ってきて配布する、たいへんな労力だよね。自然と頭が下がる。

12:33山ノ家をあとにし、平元新道を下る。しだいに気温が上がり不快指数も上昇。じっとりと汗が吹き出してくる。なるべく早く下りるだけだ。年配者グループ2パーティを追い越して、岩魚沢林道出合いに出る。お地蔵様が安置されいるところで、しばし休憩する。

林道を下っていくと、別荘地手前から新たに登山道がつけられていた。別荘地を歩かせないようにしたのだろう。林道を歩き続けるよりは、そのほうがいいが、何か感じ悪い。

駐車場には、14:10到着。家路につく人たちが大勢いてザックを片付け、靴を履き替えている。駐車場代は¥500。朝はいなかった管理人さんが手ぐすね引いて待っている。自販機で買ったジュースを山の神とぐびぐびと飲んで、体から失われた水分を多少なりとも取り戻してから、出発となった。

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