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山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

あっけにとられる陳腐な結論「北極探検隊の謎を追って」

2021-09-05 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

 『北極探検隊の謎を追って』ベア・ウースマ著/ヘレンハルメ美穂訳(青土社)

久々にひどい本を読んだ。当然だけれど、面白いんだろうと思って読み始めて次々に裏切られ、最後の著者の探検隊遭難死の原因はこれだという裏付けに乏しい陳腐な推測で、深い失望と怒りすら感じた。

話の概要はこうだ。1897年7月11日スウェーデンとノルウェーの連合王国の3人の探検家、サロモン・アウグスト・アンドレー(42歳)、クヌート・フレンケル(27歳)、ニルス・ストリンドベリ(24歳)が北極点を気球で目指した。まだ北極点は人類にとって未踏の地であったときだ。この時代は探検の時代といってもいいくらい、世界の未踏の地に次々に人類が足跡を残していた。北極点も例外ではなく、列強といわれる国々が国の威信をかけて北極点一番乗りに力を注いでいた。

そんな中、民間で資金を集め極点を目指したのが、このアンドレー隊だ。準備は杜撰、一度も試験飛行をせずにいきなり出発し、気球から水素が抜けて3日と経たず北極圏の氷上に不時着することになる。その後の隊の行動は、彼らが残した日誌によって明らかになっており、なぜ十分な食料や衣類、ボートやソリ、猟銃などの装備があったのに全員死亡という結末に至ったのかその原因を究めようというものだ。

本書では、日誌を判読不能部分を黒くつぶして紹介したり、日誌の全内容を天候、食事、運動、精神状態などの項目をつくって表にまとめたり、遺体の解剖記録を図入りで掲載したりしている。こうしたロウ(生)データを、少し加工はしているものの、読者の前に垂れ流しているのがまず気に入らない。データの羅列でしかなく、退屈な情報がほとんどだからだ。

巻末にもきちんと文章化できなかったのだろうが、3人の死因の可能性についての羅列がある。「プリムス・ストーブによる一酸化炭素中毒」「酸欠のためテント内で窒息死」「海藻スープでの食中毒」「壊血病」「ホッキョクグマ肉を食べたことによる旋毛虫症」「アザラシの肝臓を食べたことによるビタミンA過剰症」……。死因がこれだと特定できる根拠、そして反証が示されている。著者の筆力のなさを如実に物語っている部分である。本来なら、本の核心ともいうべきところで、こんな扱いになっているのは解せない。

一方でこの本のレイアウトは遊び心があって、また当時の写真も多く掲載していいと思うが、困ったことに、私のような年配読者を無視した糸くずのような小さく細い文字を並べた本文ページもある。なぜそうしたのかの意図もあいまいだ。

 

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