目指せ! 標高1122メートル

山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

8000メートル峰14座の登頂後に焦点を当てた『下山の哲学』

2021-04-10 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

この本は、登山の記録で省略しがちな「下山」にスポットライトを当てている。山岳系のテレビ番組では、なぜ省略するかというくらい不自然な下山とばしが横行しているが、登ったら必ず下りるのが当たり前。

昔の登山家で命を落とす人が多かったのは、下山を度外視したことから来ているのではないか。どうしても山頂を極めたいという欲求にあらがえずに、自らの体力や天候を顧みず、無謀にも山頂を踏むことにこだわる。次のチャンスが一体いつになるのかという焦燥もあっただろう。しかし無謀な登山はそれだけ代償も大きい。

登山の行程で下山は重要なのだ。本書で指摘されているように、登山は登って下りてでひと行程なのだから。イッテQのイモトのようにヘリで下山なんてことは例外なのだ。

この本で個人的に読みでがあったのは3つ。まずはエベレストで高山病になった顛末。竹内氏の山仲間としてはおなじみのラルフ(ドイツ初の8000メートル14サミッター)と、ガリンダ(女性初の14サミッター)が同行していた。竹内氏は体調の異変を感じつつも登高を続け、突然頭痛を覚え、挙句意識を失う。けれど天の配剤か、なんとラルフは元薬剤師で、ガリンダは元看護士。高山病の薬を吐いてしまう竹内氏に、対処してもらうために衛星電話でドクターの指示をあおいだ。ステロイド系の抗炎症薬を注射し、命の危険を脱する。高度順化をないがしろにしたのが原因だった。

2つめは、日本でもだいぶ報道されたガッシャ―Ⅱで雪崩にのまれた事故だ。14サミッターを目指す日本人登山家が10座めで遭難死するというジンクスができつつあったときで、竹内氏もかと。このときは背骨や肋骨が折れ、肺にもダメージを受けて、車いすの生活を余儀なくされるのではと危ぶまれたが、奇跡の復活を遂げている。

この時治療にあたった医師が竹内氏の体を調べ、驚くべき数値を見出した。それはヘモグロビンの値。普段から普通の人の値13.8~16.9g/dLよりも高く、高所順応がまだ残っている状態だと20に迫る値になるという。何を意味するかといえば、ヘモグロビンは酸素を運ぶはたらきをしていて、値が高いということは、高所でも効率よく酸素を運んでいるということだ。常人よりも高所で早く歩けるのは、こうした身体能力によるものなのだ。

3つめは、チョ・オユー。消耗と疲労で幻覚を見ながらの下山をした記録はすごい。実際にはそこにない、テントを見たり、人を見ているけれども、それを自らこれは現実ではないと自覚していたという。そんなことが可能なのか。下山路がわからなくなり登り返していくのは、これだけの高所では信じられない選択だ。そのまま死に向かっていくとしか思えないが、それだけ体力を温存していたということなのだろう。幻覚を見ているけど、、、

読了して思うのは、ヒマラヤの山は下山も用意周到にプランニングしないと、いとも簡単に遭難してしまうという厳然たる事実が横たわっているということだ。身近なことに引き寄せていえば、われわれのハイキング程度の登山でも、下山のプランニングを軽視すると、手痛いしっぺ返しをいずれ受けることになるだろう。

参考:チョー・オユーの顛末『登頂 竹内洋岳』

 


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