アジアと小松

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小松基地問題研究会

20190102 島田清次郎の幽閉と抹殺

2019年01月02日 | 島田清次郎と石川の作家
島清の幽閉と抹殺

 1919年『地上』第1部発行に、堺利彦は
<私が此書に感心したのは、文章の新しい大胆な技巧と、鋭いそして行届いた心理描写、若しくは心理解剖とではない。…私は特に著者が社会学の観察と批判に於て頗る徹底してゐる点に深く感心したのである。…謂ゆる社会的文芸の代表作家がもうどうしても現はれねばならぬ時だと私は思ってゐるが、此書の著者嶋田清次郎氏は即ち実に其人ではないだらうか>と紹介した。

 生田長江は
<げに、『地上』に見えたる萌芽より云へば、そこにはバルザック、フロオベエルの描写が、生活否定があり、ドストエフスキイ、トルストイの主張が、生活肯定があり、そのほかのなにがありかにがあり、殆どないものがないのである。…げに、本当のロマンティシズムと本当のリアリズムとが、決して別々なものでないと、…>と紹介し、

 徳富蘇峰も
<もし日本に大河(注:『地上』の主人公)のごとき頼もしき青年が10人あったならば、国家の前途は憂うるに足るまい>と評した。

 こうして、『地上』は爆発的に売れ、『地上』第1部発売から1922年までの4年間で、『地上』(全4巻)の売り上げは50万部に達した。大衆に迎え入れられた『地上』は、資本主義批判から革命の必要性を訴えており、政府にとっては頭の痛い問題となった。社会科学文献は一部の先進的労働者やインテリゲンチャにしか影響力はないが、大衆小説となれば、人民大衆のなかに深く入り込む力を持っている。そのなかで、資本主義批判と革命の問題が正面から語られているのである。NHK土曜ドラマ「涙たたえて微笑せよ」のなかで、取り調べの刑事が「革命という言葉が100回も出て来る」と言って、島清を責めるシーンがあったが、まさに島清作品は要警戒だったのである。

 個人的資質から来る文壇や出版社との関係悪化に加え、「舟木事件」というスキャンダルにまみれた島清は、その作品のために、ついに関東大震災の翌年1924年7月30日未明、警戒中の警察官に巣鴨署に連行され、そのまま精神病院「保養院」に強制入院させられた。そしてそのまま6年近く幽閉され、1930年4月29日、31歳で亡くなった。

 日帝は1923年関東大震災直後から朝鮮人を虐殺(6000人)し、社会主義者の一掃・抹殺の挙に出ていた。憲兵大尉甘粕正彦が大杉栄、伊藤野枝ら社会主義者を殺害(甘粕事件)した。島清が「保養院」に強制入院させられたのは、まだ関東大震災から1年もたっておらず、社会主義者らへの警戒がつづいていた最中のことであった。巣鴨警察署は島清の「犯罪」を立件できず(当然!)、釈放すべきところを強制入院によって拘束したのである。日帝は治安維持のために、島清を6年近くも幽閉し、作家生命を絶ちきり、ついには死に至らしめたのである。

 戦前の日帝下では、「反社会的人物」の抹殺はくり返しおこなわれてきた。1910年の大逆事件(幸徳事件)がある。明治天皇暗殺計画があったとして幸徳秋水ら26人が逮捕、起訴され、翌年1月18日に死刑24人、有期刑2人の判決が言い渡され、1月24日に幸徳秋水、森近運平、宮下太吉、新村忠雄、古河力作、奥宮健之、大石誠之助、成石平四郎、松尾卯一太、新美卯一郎、内山愚童ら、翌25日に管野須賀子の死刑が執行された。

 この大逆事件は明治政府が主導したフレームアップ事件だった。1928年9月、小松松吉検事総長の「思想係検事会で講演した秘密速記録」には、「証拠は薄弱だが、関係ないはずがない」、「不逞の共産主義者を尽(ことごと)く検挙しようと云ふことに決定した」、「邪推と云へば邪推の認定…有史以来の大事件であるから、法律を超越して処分しなければならぬ、司法官たる者は此の際区々たる訴訟手続などに拘泥すべきでないと云ふ意見が政府部内にあった」と書かれている。(参考:鎌田慧著『残夢 大逆事件を生き抜いた坂本清馬の生涯』)

 そして1923年関東大震災での大杉栄らの虐殺、島清の「1924年強制入院―1930年病死」、1933年小林多喜二獄中死、1938年鶴彬獄中死へと、資本主義批判の矛を収めない作家たちは次々と殺されていったのである。島清ブームの火を消すために、「舟木事件」をスキャンダラスに宣伝し、島清を強制入院させ、長期幽閉し、「殺してしまいたい」という日本帝国主義の階級意思を否定することができるだろうか。

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