アジアと小松

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小松基地問題研究会

20180905『竹島問題の起原』(藤井賢二著)について

2018年09月05日 | 歴史観
『竹島問題の起原』(藤井賢二著)について

 2018年4月、『竹島問題の起原 戦後日韓海洋紛争史』(藤井賢二著)という分厚い本が出版された。右派が「起原」を語るなら、読まねばなるまいと、早速図書館で借りてきた。

 序章で、著者は「(独島が)日韓併合の過程において日本の侵略によって最初に奪われた領土という主張への共感…それは韓国による不法占拠が強行される1953~54年に人為的につくられた認識であるというのが筆者の結論である」(16p)と述べている。

 著者の「独島(竹島)問題の起原」は戦後であり、それ以前には何も問題がなかったという認識のようだ。江戸時代のいきさつも、明治時代のいきさつも、「起原」の検討課題にはならず、「独島(竹島)は日本領」ありきで、論が進められている。

 それでも、一切を無視することができなかったようで、「韓国の主張の整理」(233p)で、<1>歴史的根拠(5件)、<2>1905年の竹島の日本領土編入(8件)、<3>1946年の2つの連合国軍最高司令部の覚書と対日平和条約(5件)、<4>その他(33件)をあげている。

 しかし、著者は韓国の51件の主張にたいして本文中では批判を展開せず、脚注で他の研究者の主張で代用している。自らの責任で、対立する主張を正面から批判するという姿勢はない。

江戸期以前の諸地図
 それでも、著者には付き合わねばならないだろう。<1>歴史的根拠では、江戸期以前の領有権について摘記している。脚注では、川上健三、塚本孝、池内敏の文献を引用して、韓国が独島(竹島)としている島嶼は独島(竹島)ではないと主張しているが、江戸期以前の独島(竹島)に関する古地図がその主張を粉砕している。とくに、林子平の「三国通覧図説」(1785年)」中の「三国接壌地図」には、「朝鮮ノ持ニ」と書かれていることに注目して欲しい。

①最も古い地図で、1530年に編纂された「新証東国與地勝覧」の「八道総図(東覧図)」には、位置が東西逆になっているが、欝陵島(松島)と独島(于山島)が描かれている。

②林子平が1785年に「三国通覧図説」を著していて、その中に「三国接壌地図」が描かれている。日本は緑色で、琉球がオレンジ色で、朝鮮半島は黄色に彩色されている。欝陵島と独島は黄色に彩色され、「朝鮮ノ持ニ」と書かれ、朝鮮の領土として認識されている。

③18世紀の日本の「総絵図」である。欝陵島、独島は黄色に彩色され、「朝鮮ノ持ニ」と書かれ、朝鮮領であることを示している。

(左より①,②,③)


④1822年の「海左全図」(李燦所蔵)には、欝陵島の東側に独島が描かれており、朝鮮の領土であることは明確である。

⑤1836年の「竹島方角図」(竹島渡海一件記)には欝陵島と独島は朝鮮半島と同じ赤色に彩色されている。会津屋八右衛門を逮捕し取り調べたときに作成された地図。

⑥19世紀の「東国全図(東国地図)」(湖厳美術館所蔵)には、朝鮮の領海内に欝陵島と独島が描かれている。

⑦19世紀の「東国地図」(ソウル大学図書館所蔵)の写本である。欝陵島の東側に独島が描かれている。

(左より④、⑤、⑥、⑦)


外務省の主張
 ホームページには、「竹島は,歴史的事実に照らしても,かつ国際法上も明らかに日本固有の領土です。韓国による竹島の占拠は,国際法上何ら根拠がないまま行われている不法占拠であり,韓国がこのような不法占拠に基づいて竹島に対して行ういかなる措置も法的な正当性を有するものではありません。日本は竹島の領有権を巡る問題について,国際法にのっとり,冷静かつ平和的に紛争を解決する考えです。(注)韓国側からは,日本が竹島を実効的に支配し,領有権を再確認した1905年より前に,韓国が同島を実効的に支配していたことを示す明確な根拠は提示されていません。」と書かれている。

 外務省は、韓国の主張について、1145年『三国史記』、1454年『世宗実録地理誌』、1531年『新増東国與地勝覧』、1808年『萬機要覧』、1908年『増補文献備考』などを紹介しながら、「記述の混乱」を理由に韓国の領有を否定している。

 『竹島10のポイント』では、1846年の「改正日本輿地路程全図」が取り上げられているが、「日本輿地路程全図」は18世紀末から明治維新後まで幾種類もの版が作成され、独島(竹島)日本領有の決定的証拠とはなりえていない。

 外務省は林子平の②『三国通覧図説』(1785年)、③18世紀の日本の「総絵図」は紹介せず、都合のよい資料に依って、我田引水の解釈をして、「日本固有の領土」と主張している。

 2013年8月2日付「北陸中日新聞」には、「竹島記した最古の地図 1760年代の2枚確認」という大きな記事が掲載されたが、領有を区別する彩色はされていない(「日本図」「改製日本扶桑分里図」)。竹島問題研究会は「鬱陵島よりも本土側の竹島を日本領だという意識で作成したのでは」と、得手勝手な推測で、日本領だと判断している。これでは科学的検証とはいえない。

竹島外一島ヲ版図外ト定ム
 「日本海内竹島外一島ヲ版図外ト定ム」(竹島を日本領外とする)のいきさつについて述べると、1876年10月5日、内務省地理寮係官が島根県の地籍編制係に竹島(鬱陵島)のことを照会した。10月16日、島根県は「日本海内にある竹島外一島の地籍編纂方法に関する伺い書」を出した。内務省は元禄時代の「竹島一件」に関する江戸幕府の記録などを調べ、竹島外一島を本邦に関係ないと判断し、1877年3月17日、「日本海内竹島外一島の地籍編纂方法の伺い書」を右大臣岩倉具視宛に提出した。
 そして、3月20日、「伺ノ趣竹島外一島ノ義 本邦関係無之義ト可相心得事」という指令案が稟議にまわされ、承認・捺印され、3月29日付けで『太政類典』に記録された。

(左より⑧、⑨、⑩)


 「太政類典第2編、明治10年3月29日」には、「三月廿九日(十年) 日本海内竹島外一島ヲ版図外ト定ム」と記され、⑧⑨「明治10年3月 公文録 内務省の部 1」には、「右大臣岩倉具視殿 伺之趣竹島外一島之儀本邦関係無之儀ト可相心得事 明治十年三月廿九日」と朱書されている。

 すなわち、1877年(明治10年)、明治政府は欝陵島と独島(竹島)は朝鮮の領土であり、日本と関係はないと結論づけたのである。

 これまで「外一島」は独島(竹島)ではないという主張があったが、2005年5月20日、漆崎英之さんは『公文録』に添附されている⑩「磯竹島略図」を発見した。大きい島には「磯竹島」(鬱陵島)と記され、小さい島には「松島」と記されており、独島(竹島)のことである。「外一島」が「独島ではない」という主張が崩れた決定的な1枚である。

 しかし、外務省のホームページには、未だにこれらの文書・図画について触れられていないし、反論もされていない。

民族主義・排外主義教育のテコ
 さて、藤井さんは「(独島が)日韓併合の過程において日本の侵略によって最初に奪われた領土という主張(は)…人為的につくられた認識である」と結論しているが、叙上のとおり、1877年(明治10年)の日本政府の認識は「独島(竹島)は日本領外」であり、1905年に軍事力を背景に、「先占」(注)によって、独島(竹島)を日本領土に編入したこと自体が誤りだったのである。(先占:国際法において、いずれの国にも属していない無主の土地を、他の国家に先んじて支配を及ぼすこと)

 『竹島問題の起原』は2018年に発行されているが、藤井さんは30年前に発見された「太政官指令」も、13年前に発見された「公文録」に添附された「磯竹島略図」も検討の対象にはしていない。藤井さんはこれらの資料を正面から批判・粉砕しないかぎり、「竹島問題の起原」には到達出来ず、この点を回避して幾百ページ費やしても、蜂の一刺しにもならないのである。

 独島(竹島)については、2012年10月の「アジアと小松」でも論じたが、その後、安倍政権は領土問題をテコにして、民族主義・排外主義教育を推しすすめている。マスコミ報道を見ると、「尖閣・竹島 領土と明記 指導解説書改定 今日通知」(2014.1.28)、「全小学教科書に竹島・尖閣」(2014.4.5)、「竹島・尖閣は固有の領土 新学習指導要領案」(2017.2.15)という見出しが目に入って来る。

 安倍は戦前の教育のように、小学生を領土問題で洗脳し、侵略戦争を担う「少国民」をつくりだそうとしている。おとなこそがこの攻撃に立ちはだからねばならない。


参考資料:『竹島=独島論争 歴史資料から考える』(内藤正中、パクピョンソピ著)など

(備考)
 2012年9月の金沢市議会で、日本共産党は「領土・領有問題に関する意見書」を提案し、「これまで(竹島の)領有権を主張してきたことには歴史的に根拠があります」と主張している。
 2006年4月21日の記者会見で、社会民主党の又市征治幹事長は「歴史的にみれば、竹島は日本固有の領土であり、17世紀のころから、日本が実効支配してきており、正式には1905年に日本の領土であることを明確にした」と述べている。
 2012年8月27日付『前進』は「韓国イミョンバク政権…も、領土問題をむしろ組織しあおって、支配の危機を排外主義と労働者人民の決起の圧殺でのりきろうとしている」と、韓国に自重を求め、日帝を援護している。何とも様変わりしたものだ。
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