フィヨルドの変人 ~Odd person in fjord~

ぇいらっしゃ~い!!!

精神医学入門

2018年06月04日 22時17分55秒 | 日記
ぬたりが今現在、単行本を買う等で追いかけている漫画家は松本ひで吉さんのみなんだが6月に単行本が2冊出ることが決定。んで、2冊の本を買う形がちと違ったのね。
ツイッターにて毎週日曜日に公開される、飼い猫飼い犬についてのエッセー的マンガ「犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい」は書籍で、なかよしで連載中の「ねこ色保健室」はKindle版で、それぞれ購入予定なのね。世の中の進化には恐ろしく、保守的なぬたりであっても、本は基本電子書籍で、という波は押し寄せてきている。「犬と猫・・・」はおかあちゃんも読むもんで、そうなると書籍版の方が都合がよいのね。
そんなこんなでAmazonを眺めていて、ふと思いついた本があったので検索してみたところ、おお、この本まだ版を重ねているのか。批評社の「彷徨記-狂気を担って」と言う本。著者は西丸四方。
で、実はこの本は普通の人にはちょっと勧めづらい。本の内容とすると著者の自伝なんだが、西丸先生と言えば戦後日本の精神医療界の一角を担う方。専門用語すべてに解説はつかないから知識がない人には少々勧めづらい。
ただ、そういうのを無視して読んでても、結構豪快な筆でちょっと楽しい。現在の日本の精神医学の基本となるアメリカの精神病指標DSMについて、「作った人は頭が分裂しているのではないか」とかと書いちゃったり、一時期少し流行った(今は廃れてるみたいね)治療法に「何をしてよいか分からない場合に用いる」と身も蓋もない注釈入れちゃったりするんだもんな。
著者の西丸四方と言う名前は実際精神医学でも志さない限り知らない名前ではあろうが、この本に記される個々のエピソードは割と一般の人の興味も引く事が多い。そもそも冒頭からして自身の母方の曾祖父が祖父に縛られ座敷牢に閉じ込められるエピソードである。で、この閉じ込められた人物。実は島崎藤村の「夜明け前」の主人公のモデルとなった方。ぬたりの知り合いは割と博学な方が多いので(その割にぬたりは学のないアホであるが)、あの小説は藤村の実夫がモデルになっていることを知る方も多かろう。西丸さんにとって(著者は「先生」と言われるのが嫌いらしいのでさん付けで)島崎藤村は母方の大伯父にあたるわけでな。藤村の娘や小説「新生」でモデルとなった島崎こま子とも交流があったそうで、この本に多少は触れられている。
一般の人の耳目を引きそうなエピソードはまだある。かの草間彌生を見いだしたのは誰あろう西丸さんである。松本の市民館での個展を偶然見かけて「これはすごいぞ」と伝手であちこち紹介したのが草間彌生が有名になっていく第一歩であったそうな。その後もずっと主治医ではないまでも(アトリエも用意できるような相当にお高い個室を持っている病院が主治医)色々と相談には乗っていたそうだ。尤も相談に乗るだけで、芸術作品を特別にもらえるとかそういうことは一切なかったそうで「そんな風を見せれば一切信用されなくなる」とのこと。草間彌生がまだ存命で気を遣ったのか、この本にはエピソードは乗っているが名前は伏せられている。
これでまだ終わらない。極東軍事裁判で東条英機の頭を叩いたことで有名な大川周明が戦後精神病院に入院した際の受け持ちを仰せつかったエピソードもある。エピソードの記述自体そんなに長いものではなく、ほんの一時期受け持ちをしたに過ぎないけれども、当時の病気の状態や発言など、極東軍事裁判や戦後史に興味があればそこそこ面白く読める。
他にも名前だけであれば芦原将軍、アメリカのウォルター・フリーマンなんて人たちも出てくる。芦原将軍は戦前では有名な精神病者で、「自分は天皇である」という妄想を持ち、新聞記者や見物人に「勅語」を売りつけていたというお方で、戦前の「なんちゅうかアレな方向」の歴史エピソードを紐解くと必ず出てくる。フリーマンは精神医学では色々な意味で今でも語られるロボトミーの最大の喧伝家。近年ではNHKの「フランケンシュタインの誘惑」でも取り上げられたりしてましたね。西丸さんはロボトミーをほとんどやらなかったらしいですけども。
本を読む限り結構現場が好きな方のようで、こういう人は得てして学会では名を残せないんだけれども、日本の精神医学界が本格的に立ち上げる時期からその中心となる東大や東京都立松沢病院にいて、多くの経験を積んだことと、最初に精神医学に触れた時に「よくわからん」と思った初心を忘れず、比較的平易な分かりやすい表現を用いて多くの著述を残したことから、今なお日本精神医学界においてその名を残す人になっているわけでね。まあ、そうやって名を残す人が、この本に「私は学会が嫌いで」とか「教授会が嫌いで」とかと書いちゃうんだから、苦笑せざるを得ないが。医学生も読むっつーのに。
流石に誰彼構わずオススメする本じゃないが、精神科医療にちょっと興味があるなら、一冊手元に置いておいて、時折気楽に広げてみて読むとかの付き合い方をすれば結構面白いと思うよ。

まあ、ぬたり個人の話をすれば、最近は本をとんと読まなくなってはいるんだけどね。上記の本にしても購入したのは随分前。最近は文章の本なんか全く買ってないぞ。マンガと雑誌をたまに買うくらいだ。いいんだろうかこんなんで? なんかもう人としてダメダメになってきているような気がする。すごくする。
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2 コメント

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DSMは (もりかげ)
2018-06-05 09:08:47
すっかりIVに慣れてしまっているのでまだVの変化に馴染めずにいますです。
日本評論社の図説精神医学入門はとっつきやすくて好きです。紹介された御本もいっぺん読んでみたいです(お値段ご立派)
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>もりかげさん (ぬたり)
2018-06-05 22:51:57
ろくすっぽ読んでないんですが、DSMはかなり大規模に変わったらしいですね。参考書の斜め読みくらいはしましたけど。
彷徨記は気楽な感じで読むのが良い感じで、なんか東大出身の偉い精神科医の話と思えず、なんか町の老開業医の思い出話聞いてるみたいな感じですわ。値段が安ければなあ…。装丁も信じらんないくらい安っぽいですよ(おい)
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