突然だが、ぬたりはヒッチハイクという行為をあまり良くは見ていない。基本人の好意に頼り切ったシステムだし、乗せる側は素性も知らない人間を車に同乗させるという不必要のリスクを抱え込む事になる。このため、見かけてもまず止まる事はない。
とは言えまあ、ぬたりはかつて距離にして100キロ以上、時間にして1時間以上もヒッチハイクの人間を乗せた事があるのだがな。2012年、車で長崎に行った帰りのことだ。
朝長崎を発ったぬたりが駆るミニコンバーチブルは、風光明媚な九州を走る。様々な景色が映る中、クライマックスは関門海峡である。ドラマチックな風景のドライブである。
ここからが本当の地獄だ(おい)。
下関から大阪へ、最短距離は山陽自動車道である。長距離ドライブ(しかもこの日は夕方にSinさんちにお邪魔する予定)となればそれ以外のルートは選べない。
で、この山陽自動車道、下関から大阪まではノンストップで5時間強ってところだが、
風景が全く変わらないのだ。
山がちな地形を縫うようにたまにトンネルを交えて走る。見える範囲に大規模な都市もなく(広島市も岡山市も神戸市も繁華街は視認できない)、海も厳島近辺数キロしか見る事はできない。
発狂するわマジで。
そんな苦痛で限界に達しそうになったぬたりは、兵庫県の三木サービスエリアにて昼食休憩を取る事にした。もう精神的にいっぱいいっぱいである。車から這々の体で転がり出る。
その直後に若いお兄ちゃんに声をかけられたのである。「大阪方面」のスケッチブックと共に。
ただ、申し訳ないがとてもとてもそんな話題について行ける精神状態ではなく、いやあ、ちょっと・・・、と言葉を濁し断るのが精々だった。彼が
「そうですか、すみません」と背を向けた瞬間に、彼がギターを背負っているのに気がついた。が、まあ、二の句を継ぐ余裕はなし。とにかく一息つきたいしか考えられなかった。
で、軽くうどんでも食うと精神も落ち着いてくるものである。やはり西のうどん汁は東と味が違って、たまに食べるとうまいのう、とかと言いながら食べる。腹もふくれると余裕も出てくるもんである。入ってまださほど来ていないとは言えここは兵庫県。あと一踏ん張りで大阪である。大阪まで行けば風景も変わるから運転してても気が紛れるな。などと考えも余裕が出てくる。
余裕が出てくると先ほどのヒッチハイクのお兄ちゃんの事が思い浮かぶ。普通にヒッチハイクしてたら「甘えんな、旅費くらい稼いでから旅に出やがれ」とも思うのだが、経験者とすると、ギターという重さも大きさも運ぶのに確実に体力を奪う物体を運んでいる事に同情を覚える。いや、やった事ない人は分かんないと思うけど、ギターってのは手で運ぶとホントデカくて重くて邪魔なのよ。
まあ、あんながさばるもん担いでヒッチハイクを利用した悪事を行う馬鹿もおるまい、とは判断。30分ほども休憩したろうから、流石にもういないんじゃないかと思いつつ外に出たら、あら? まだいた。しかも大型の運ちゃんに断られてるわ。とりあえずハイウェイウォーカー(NEXCOの情報誌)ひっつかんで声をかける。おーい、まだ車見つかんないのか。大阪方面ったって、最終的にはどこ行くのさ。
「目的地は富山県なんです。」
うーん、俺の行き先は名古屋方面なんだよなあ(ハイウェイウォーカーの地図ページを開く)。俺はこの先、大阪越えて、新名神で名古屋に抜ける予定なのさ。だから北陸道方面までは行かないんだよなあ。多賀サービスエリアは・・・新名神の分岐の向こうか。その手前は草津パーキング? 寄った事ねえなあ。ここまでなら行けるけど?
「草津パーキングは行った事あります。そこそこ大きいですし、そこまで行っていただけるのはありがたいです! お願いします!」
とまあ、人生唯一のヒッチハイクの人間を乗せて1時間ちょっと走ったわけだが。
聞けば山陽道の場合、流れは一度大阪で途切れ、サービスエリアやパーキングエリアでのヒッチハイクの場合は手前で降ろされるので、そこで新たに東へ向かう車を捕まえるのは少々骨なんだそうだ。その点ぬたりは大阪を越えて滋賀まで走ったために、そこまで行けば車の流れは確実に東に向かうので見つけるのは比較的簡単になるそうだ。つーかお前ヒッチハイク玄人かよ。
まあギターという共通の話題があるので話題に詰まる事がなかったのは幸い。ただぬたりは横好きの部類。お兄ちゃんは音楽活動やってるという事で、ぬたりの方が年上なのにアドバイスする事は一つもない、という歪な会話になったがな。まあ、長距離ドライブの良い気分転換になったわい。
お兄ちゃんはその後もかなりヒッチハイクを重ねているようで、ぬたりのことはもう忘れていると思うが、ふと思い出して彼の事をググったら、まだ音楽はやってて、地元広島ローカルながらも、テレビにレギュラー出演したりとかCMに歌が使われたりとかしたみたいで、今でも頑張ってるのな。彼のサイト見て改めてびっくりしたのは、彼当時19才だったのな。その割にはしっかりしてたなあ。
せっかくだから彼のホームページのリンクも貼っておこう。今アメリカにいるのかいな。
This is Life 十輝 official Home Page
さて、なんでいきなりヒッチハイクの話題になったか? 実は先日仕事帰りに見かけたのよ。暗い中だったし、十輝君の時のような事情もなく、乗せる事はなかったんだけどね。問題は、掲げられた行き先である。目的地までの距離はどのくらいだったと思う?
なんと1キロ。
・・・歩け。