
十八坂七曲の遠景。相向かいの崖の真ん中あたりの沢になってるあたりが七曲。こうして見てみると実際地形の険しさが分かる・・・と言いたいところだが逆行気味で詳しくは分かんないのよね。
と言うわけで、現在の道路地図には載らない沼田市の「十八坂七曲」を歩いてきた。
率直な感想とすれば案外ちゃんとした道だった、と言う印象。廃道ではあるし藪化や落石、土砂の流入はあるけれども、路盤の決壊とかはほとんどないからちゃんと整備すればまだまだ使える。歩道として見ればむしろ立派な道になるくらいだと思う。
それにしても道を作る人の地形を見る目は実際確かで、この道は崖の上と下を行き来できるピンポイントの位置に開削されている。ここ以外は道など開削が出来ないほどの険しい崖となっている。ただ、道を通せたとは言え実際険しい地形であることに変わりはなく、自動車を通せる規模の道を通すのはかなり大変だってのは実際歩いてみてよく分かった。現在の道をいくら改良しても自動車が走れるようにはならないと思われ、このルートを車道昇格させるには新規に道を作るくらいの規模で莫大な費用をかけなきゃならない。そこまでしても通行量はさして多くならないだろうから、どう考えてもここが車道になる事はないだろう。
モータリゼーションの浸透は道づくりをがらりと変えたと言ってよく、どんなに歴史がある道でも自動車が走れないとなれば容赦なく淘汰され、逆に自動車を通したいというニーズがたくさんあれば、多額の費用をかけたとしても地形を克服して道を作ってしまう。それは良い悪いの話ではなく、道というのは人に使われ、人の役に立つためだけにそこに存在するわけであるから、多くの人の役に立つ道、使いやすい道は「正義」という単純なことなのである。
閑話休題
ともかく発端とすれば「江戸時代まで使われていた街道をルーツにする歴史ある道なのに今は使われていない道」という形で、いわば古道を巡る気持ちで歩いたわけだが、現地を歩いてどうしても一つ気になることが出てきた。
この道の今現在の法律の位置づけはどうなんだ?
道にも種類がある。有名なのは国道、県道、市町村道だが、他にも林道、農道、港湾道なんてのもあり、それぞれ法律で管理される道。また、市町村道からすらも漏れた集落道を里道と呼び、現在では市町村が管理を行うもの(これも法律に規定がある)と集落が独自に管理をするものに分けられる。道といっても種類は多いのだ。
とは言え、この道が属する道として可能性のあるものは多くない。道路的に国道と県道、港湾道はあり得ないし、立地的に農道もない。可能性があるのは沼田市道、林道、里道のいずれかである。
現在顧みられていない点を考慮すれば里道が一番可能性が高いのかなとも思ったが、アスファルト舗装や落石覆いなど、ある程度の規模の管理がなされており、一集落の管理だとするとやや規模が大きいような気もする。では沼田市道かと言えば放置されてる現状もあるし・・・。
で、多くの市町村では道路の情報も検索できたりするのだが、沼田市役所のホームページには市道を調べられるページはなかった。うーん、どうしよこれ。
と言うわけでバカの振りして沼田市役所にメールで問い合わせしてみました(振りではなく正真正銘のバカでは?)
そして担当者さんから丁寧なメールの返事が届き、あの道は沼田市道5018号線(十八坂線)であり、帳簿上は現役の市道であることが確定しました。メールでは道の整備目的も「地区の住民が岩本駅へ行くため」と教えてくださっていた。そして現在は車道ではないので利用者皆無となり廃道状態となっていると言うことも教えてくださった。沼田市役所の担当者さん丁寧でホント感謝。
実際この道があるのとないのでは地区の住民が岩本駅まで歩く距離は段違い。道しるべのあたりで道は最終的に3つに分かれたが、それぞれ地区の南部、中部、北部に通じる形であり、地区の住民を徒歩で岩本駅に導くには非常に理にかなった道の作りになっている。今回の探索地点のスタートは尋常小学校の跡だったが、子供達が学校に通うにもこの道は無くてはならないものだったろう。
とは言えこれらはすべて「徒歩なら」の話。例えば子供が学校に通うとしても(地区に子供がいるかどうかはともかくとして)、今は学校の位置が違うからここは通らない。前述のようにモータリゼーション全盛の今では駅に行くにしても自動車なら多少遠回りしても問題はなく無理して短絡する意味がない。更には現在地区にはバス便も存在している。

定期では1日1本7時半のみ(しかも平日のみ)という形ではあるが、基本はデマンドバスなので地域住民は予約さえすればバスの利用は可能である。
以上のような状態では歩いて岩本駅近辺に向かう地域住民はほとんどおらず、地域住民も納得している形の廃道状態というわけである。ぬたりは確かに廃道状態の道を探索気分で歩いたんだが、実は市役所にちゃんと登録されている(しかも通行止めですらない)公道を歩いただけ、という探索になったわけさ。
ちなみに法律に定められた市町村道がそんなでいいのかと言う突っ込みもあろうが、市町村道の世界ではこのあたりの話は珍しくもないことで、ニーズがなくなり廃道化した道なんて珍しい存在ではない。歩行者しか通れない所なんてのも国道では「階段国道」なんつって観光地になったりするけど、市町村道では割と当たり前の話。
ともあれ十八坂七曲の話はこれでおしまい。つくづく思ったのは生まれて50年。あそこの近くは数え切れないほど通ったけど、よもやあんな所に道があるとは、そしてその道がかつて人の往来の主役であったとは、夢にも思わなかったですよ。
ホント案外身近に面白いスポットって隠れてるもんです。