さてさて、「非正規雇用との賃金格差を是正しようと思ったら、正規雇用の手当を削られたでござる」という、何ともな事態が起きた昨今。
まあ、人件費の下げ基調なんてどこもかしこも同じようなもんで、事象自体は珍しいもんでもないけどな。毎年大体の会社や組織で似たようなことが行われてるだろ。非正規と正規の比較、とかで見てるから珍しくも映るけれども、組合が非正規の話を持ち出そうが持ち出すまいが、おそらく似たような案が当局側から示されていたんじゃなかろうか。
とはいえ、上記の話は既に労使で合意した話で、他業種の人間が口をはさむべきことでもない。まわりからなんと言われようと、期日からは実行されるし、給料を払う側も貰う側も、不満はあっても飲まなきゃいけない。それが労使交渉ってもんだ。
で、だ。ぬたりはそこそこの規模の会社に勤めており、労働組合という組織はあるし組合員にもなっている。労働組合というのは組織によってかなり政治的思想的に極端なところもあるので、組合所属、というと、そんな風に誤解されちゃう可能性もあるが、ぬたりは組合活動には全く熱心ではない。労働組合は全国組織においては特定の政党との関係があるが、ぬたりは特定の政党の応援もしくは支持するような活動に参加したことは一度もない。
種明かしをすれば、うちの会社は組合への加入率が異常に高く、優に9割は越えている状態。こんな感じで学校出たての新社会人に加入を勧めれば、まあなんとなく入ってしまうし、加入してる人間が多ければ動員や会議出席のお鉢が回ってくることもそんなになく、組合員費が天引きされるくらいで、メリットを感じづらいかわりにデメリットも感じづらいのね。そんな状況で「辞めます」と行動をわざわざ起こすのもめんどくさいので加入したままになる。そんな状態の社員がとても多く、ぬたりもその一人である。なにしろ組合の中心に行けば行くほど政治色は強くなるしな。いや、うちの組合はそんなに強くないんだけど。
で、そんなぬたりなんだが、なぜか組合の事務局には広く顔を知られていたりするんですな。そしてこの広く顔を知られるようになった出来事こそが、ぬたりが「ああ、組織率が高いってことは、誰かがやってくれるだろ、っていう人ばっかりになっちゃうってことなんだなあ。」という認識を持つに至った契機だったりもするのね。
出来事は二つある。まずは十数年前の話。
うちの会社の数少ない夜勤ありのセクションに人事異動したぬたり。ところが当時新設部署であったこともあり、色々なことが手つかずであり、かなり特殊なセクションであるにもかかわらず、給与体系も「完全夜勤1日でいくら、事項対処1件でいくら」という形であり、生活リズムが崩されることを余儀なくされるにもかかわらず、普通の事務職と基本の給与は変わらない、という形になっていた。
さて、このセクションには技術職もおり、事態対処はむしろこの技術職が中心になるのだが、この技術職連中の当時の反発たるやなかなかのものがあった。せめて、月額いくらなりパーセンテージ上乗せなりをするべきだ、と当然組合に事態が投げられ、給与の団体交渉の際の議題に加わることとなった。対象はうちの所属のみであるため、当局への意見陳述には加わってください、と交渉の日時指定がうちのセクション全員に示された。
そして意見陳述の日、交渉の席に着いたのはなぜかぬたりたった一人だったりするのな。
技術職の奴ら、いざって時には「用事が・・・」「家庭が・・・」となんだかんだと理由をつけて出てきやがらねえのな。ええもう交渉先ではなくて自分の所属に若干の嫌悪感を抱いたわ。お前ら口先ばっかりな、って感じで。
で、そんなであっても意見は述べなければならない。で、その意見陳述がなかなかに感情に訴える口調だったらしく、「ああ、こいつは確かに現状不満なんだな」という事が分かりやすかった、ということで、ぬたりの名前は当時同席した組合事務局の人間に知られることになる。実際その後もそうした席に何度か行ったのだが、みんな言いたいことを紙に書いて棒読みするばっかり。ぬたりの様にアドリブで、しかも時に声を荒げ気味に話す人間なんかいなかった。単純に珍しかっただけかもしれないな。
でまあ、いかに意見陳述の受けがよかろうと、話を聞いてもらえなきゃ意味はないわけでな。交渉の結果、こちらの希望は見事に突っぱねられ、給与体系は去年から件の職場に舞い戻った現在をもってもまったく変わっていない。まあ、交渉の席に該当者が一人しか来ない。しかも仕事の主役たる技術職じゃない単なる下っ端の事務屋一人なんて、あんな体たらくかませば、そら足元を見られるわ。貰えるもんも貰えんだろうよ。
そして二つ目の話は数年前になる。
係の持ち回りで地区の組合の役員がたまたま回ってきてしまったぬたり。そしてこれもまたセクション間の持ち回りにより役員の中ではトップの地区代表なんてものを押しつけられてしまいましてね。やる気のないぬたりにそんな役押し付けていいんかいな? という思いもひとしおのそんな時に、給与に関しての一つの大きな事案が持ち上がってしまったのである。扶養手当関係の削減である。
給与体系を細かく説明する必要があり、詳しい話をするのが難しいので、まあ手当が劇的に下がると話を単純化して考えてもらえるとありがたいが、人によっては年間相当な額の影響が出かねない案件が、よりにもよってぬたりが役やってる時に出てきちゃったんである。地域の代表は、当然代表として意見陳述の場に行かなきゃいけないわけでな。
実際、この意見陳述前の組合代表者の打ち合わせでも議論は噴出。意見も多く出たわけだが、ぬたりは実はこれを冷めた目で見ていた。
だってぬたりは扶養手当関係は一切もらってないもの。
おかあちゃん働いてるしさ。扶養なんか入れないし、子供作るかどうかも微妙な頃で、正直対岸の火事だったんだもん。でも手当貰ってる人は多いからそういう人の舌鋒は厳しかった。
組合事務局がその意見の噴出を快く思ったことは間違いない。「こちらが水を向けますので、その時にはそういった意見をぶつけていきましょう!」と声掛けを合図に、一団は交渉会場の会議室に入る。お互いの意見の表明、それぞれの所属の固有案件の意見陳述(前の案件でぬたりはこれをやったわけね)、そして「それではみなさん他に意見がありますでしょうか?」と事務局が水を向けた。さあ、不満噴出の始まりだ!
・・・誰も手を挙げねえ。
事務局員の「どういうこっちゃ?」という戸惑いが手に取るようにわかった。んで、ぬたりとすれば苦笑をかみ殺すのに必死だった。お前らさっきまであんなに威勢良かったじゃねえか。今やすっかり借りてきた猫だぜ。
なんとかならんか、という事務局員の視線がぬたりを横切る。またこの事務局員、かつてぬたりと一緒に仕事してたことあるんだよな。仕方ない、とばかりに手を挙げたぬたりは、またも感情に訴える口調で「今まで是としたものをある日突然、これは非だ、取り上げられることに素直に納得できる人間は少ない。この話を聞いたのはつい先日で、我々代表ですら寝耳に水の話であるなら、一般社員の戸惑いは察するに余りある。地方の疲弊が叫ばれる中、未来を作る子供を中心とした家族優遇を薄くするのはいかがなものか。」とか何とかを切々と訴えさせていただいた。扶養手当なんて欠片も貰ってねえのにな。大きな案件で何とか意見が出た、ということで、事務局員もほっと一息、といったところの様子だった。
だが、話にはオチがつきもの。その意見陳述を受けた数時間後、会社側は「手当の削減は影響の大きさを考え、今後数年間段階的に減らすものとする」という、ぬたりの「話が急すぎる」という意見の揚げ足を取ったかのような形での案を出し、結局はこれが通った形になった。まあ、会社側は明らかに妥協案として段階的削減案を持っていたはずで、要はぬたりの意見はそこへの着地に良いように使われた、ってことなんだろうけどな。
ま、労働組合というとなにやら抵抗もあるんだろうが、うまく使えれば有効な組織ではあるわけですよ。上記のエピソードだと、ぬたりはうまく使うというより、会社、組合事務局、やる気のない組合員それぞれにうまく使われたというだけのような気もするがね。ただ、うまく使われているような気がするからこそ、いざなんか言えと言われたら言いたい放題言って楽しんでましたんですけどね。あとのことなんか知ったこっちゃない。好き勝手やっちゃえ、最終的な責任は俺に言えと言った事務局と、俺にその場所を押し付けた他の組合員にあるんだから。そう考えりゃ、ああいう場も結構楽しかったですな。今後、自分からやりたいとは絶対に言わないが、やれと言われたら断る気はないな。
ただし、ぬたりはあくまで、そういうその場をいかに切り抜けるか、なんかうまい事の一つでもある演説をいかに打つか、という思考ゲームを楽しんでるのであって、組合活動や、ましてやそれに付随しての政治なんてものに全く興味はないので、政治や選挙関係についてぬたりに協力を求めるのは厳に慎んでいただきたいと思う今日この頃。
なにしろほれ、労働組合が推す某党は、幾度か離合集散して、しかもたった数か月前に別れた連中とまた合流しようという、その感覚が信じられない&お前ら経験から学ぶという事をしないのか、という感覚の持ち主ですから、ちょっとぬたりが応援することは考えられないですからね。
まあ、人件費の下げ基調なんてどこもかしこも同じようなもんで、事象自体は珍しいもんでもないけどな。毎年大体の会社や組織で似たようなことが行われてるだろ。非正規と正規の比較、とかで見てるから珍しくも映るけれども、組合が非正規の話を持ち出そうが持ち出すまいが、おそらく似たような案が当局側から示されていたんじゃなかろうか。
とはいえ、上記の話は既に労使で合意した話で、他業種の人間が口をはさむべきことでもない。まわりからなんと言われようと、期日からは実行されるし、給料を払う側も貰う側も、不満はあっても飲まなきゃいけない。それが労使交渉ってもんだ。
で、だ。ぬたりはそこそこの規模の会社に勤めており、労働組合という組織はあるし組合員にもなっている。労働組合というのは組織によってかなり政治的思想的に極端なところもあるので、組合所属、というと、そんな風に誤解されちゃう可能性もあるが、ぬたりは組合活動には全く熱心ではない。労働組合は全国組織においては特定の政党との関係があるが、ぬたりは特定の政党の応援もしくは支持するような活動に参加したことは一度もない。
種明かしをすれば、うちの会社は組合への加入率が異常に高く、優に9割は越えている状態。こんな感じで学校出たての新社会人に加入を勧めれば、まあなんとなく入ってしまうし、加入してる人間が多ければ動員や会議出席のお鉢が回ってくることもそんなになく、組合員費が天引きされるくらいで、メリットを感じづらいかわりにデメリットも感じづらいのね。そんな状況で「辞めます」と行動をわざわざ起こすのもめんどくさいので加入したままになる。そんな状態の社員がとても多く、ぬたりもその一人である。なにしろ組合の中心に行けば行くほど政治色は強くなるしな。いや、うちの組合はそんなに強くないんだけど。
で、そんなぬたりなんだが、なぜか組合の事務局には広く顔を知られていたりするんですな。そしてこの広く顔を知られるようになった出来事こそが、ぬたりが「ああ、組織率が高いってことは、誰かがやってくれるだろ、っていう人ばっかりになっちゃうってことなんだなあ。」という認識を持つに至った契機だったりもするのね。
出来事は二つある。まずは十数年前の話。
うちの会社の数少ない夜勤ありのセクションに人事異動したぬたり。ところが当時新設部署であったこともあり、色々なことが手つかずであり、かなり特殊なセクションであるにもかかわらず、給与体系も「完全夜勤1日でいくら、事項対処1件でいくら」という形であり、生活リズムが崩されることを余儀なくされるにもかかわらず、普通の事務職と基本の給与は変わらない、という形になっていた。
さて、このセクションには技術職もおり、事態対処はむしろこの技術職が中心になるのだが、この技術職連中の当時の反発たるやなかなかのものがあった。せめて、月額いくらなりパーセンテージ上乗せなりをするべきだ、と当然組合に事態が投げられ、給与の団体交渉の際の議題に加わることとなった。対象はうちの所属のみであるため、当局への意見陳述には加わってください、と交渉の日時指定がうちのセクション全員に示された。
そして意見陳述の日、交渉の席に着いたのはなぜかぬたりたった一人だったりするのな。
技術職の奴ら、いざって時には「用事が・・・」「家庭が・・・」となんだかんだと理由をつけて出てきやがらねえのな。ええもう交渉先ではなくて自分の所属に若干の嫌悪感を抱いたわ。お前ら口先ばっかりな、って感じで。
で、そんなであっても意見は述べなければならない。で、その意見陳述がなかなかに感情に訴える口調だったらしく、「ああ、こいつは確かに現状不満なんだな」という事が分かりやすかった、ということで、ぬたりの名前は当時同席した組合事務局の人間に知られることになる。実際その後もそうした席に何度か行ったのだが、みんな言いたいことを紙に書いて棒読みするばっかり。ぬたりの様にアドリブで、しかも時に声を荒げ気味に話す人間なんかいなかった。単純に珍しかっただけかもしれないな。
でまあ、いかに意見陳述の受けがよかろうと、話を聞いてもらえなきゃ意味はないわけでな。交渉の結果、こちらの希望は見事に突っぱねられ、給与体系は去年から件の職場に舞い戻った現在をもってもまったく変わっていない。まあ、交渉の席に該当者が一人しか来ない。しかも仕事の主役たる技術職じゃない単なる下っ端の事務屋一人なんて、あんな体たらくかませば、そら足元を見られるわ。貰えるもんも貰えんだろうよ。
そして二つ目の話は数年前になる。
係の持ち回りで地区の組合の役員がたまたま回ってきてしまったぬたり。そしてこれもまたセクション間の持ち回りにより役員の中ではトップの地区代表なんてものを押しつけられてしまいましてね。やる気のないぬたりにそんな役押し付けていいんかいな? という思いもひとしおのそんな時に、給与に関しての一つの大きな事案が持ち上がってしまったのである。扶養手当関係の削減である。
給与体系を細かく説明する必要があり、詳しい話をするのが難しいので、まあ手当が劇的に下がると話を単純化して考えてもらえるとありがたいが、人によっては年間相当な額の影響が出かねない案件が、よりにもよってぬたりが役やってる時に出てきちゃったんである。地域の代表は、当然代表として意見陳述の場に行かなきゃいけないわけでな。
実際、この意見陳述前の組合代表者の打ち合わせでも議論は噴出。意見も多く出たわけだが、ぬたりは実はこれを冷めた目で見ていた。
だってぬたりは扶養手当関係は一切もらってないもの。
おかあちゃん働いてるしさ。扶養なんか入れないし、子供作るかどうかも微妙な頃で、正直対岸の火事だったんだもん。でも手当貰ってる人は多いからそういう人の舌鋒は厳しかった。
組合事務局がその意見の噴出を快く思ったことは間違いない。「こちらが水を向けますので、その時にはそういった意見をぶつけていきましょう!」と声掛けを合図に、一団は交渉会場の会議室に入る。お互いの意見の表明、それぞれの所属の固有案件の意見陳述(前の案件でぬたりはこれをやったわけね)、そして「それではみなさん他に意見がありますでしょうか?」と事務局が水を向けた。さあ、不満噴出の始まりだ!
・・・誰も手を挙げねえ。
事務局員の「どういうこっちゃ?」という戸惑いが手に取るようにわかった。んで、ぬたりとすれば苦笑をかみ殺すのに必死だった。お前らさっきまであんなに威勢良かったじゃねえか。今やすっかり借りてきた猫だぜ。
なんとかならんか、という事務局員の視線がぬたりを横切る。またこの事務局員、かつてぬたりと一緒に仕事してたことあるんだよな。仕方ない、とばかりに手を挙げたぬたりは、またも感情に訴える口調で「今まで是としたものをある日突然、これは非だ、取り上げられることに素直に納得できる人間は少ない。この話を聞いたのはつい先日で、我々代表ですら寝耳に水の話であるなら、一般社員の戸惑いは察するに余りある。地方の疲弊が叫ばれる中、未来を作る子供を中心とした家族優遇を薄くするのはいかがなものか。」とか何とかを切々と訴えさせていただいた。扶養手当なんて欠片も貰ってねえのにな。大きな案件で何とか意見が出た、ということで、事務局員もほっと一息、といったところの様子だった。
だが、話にはオチがつきもの。その意見陳述を受けた数時間後、会社側は「手当の削減は影響の大きさを考え、今後数年間段階的に減らすものとする」という、ぬたりの「話が急すぎる」という意見の揚げ足を取ったかのような形での案を出し、結局はこれが通った形になった。まあ、会社側は明らかに妥協案として段階的削減案を持っていたはずで、要はぬたりの意見はそこへの着地に良いように使われた、ってことなんだろうけどな。
ま、労働組合というとなにやら抵抗もあるんだろうが、うまく使えれば有効な組織ではあるわけですよ。上記のエピソードだと、ぬたりはうまく使うというより、会社、組合事務局、やる気のない組合員それぞれにうまく使われたというだけのような気もするがね。ただ、うまく使われているような気がするからこそ、いざなんか言えと言われたら言いたい放題言って楽しんでましたんですけどね。あとのことなんか知ったこっちゃない。好き勝手やっちゃえ、最終的な責任は俺に言えと言った事務局と、俺にその場所を押し付けた他の組合員にあるんだから。そう考えりゃ、ああいう場も結構楽しかったですな。今後、自分からやりたいとは絶対に言わないが、やれと言われたら断る気はないな。
ただし、ぬたりはあくまで、そういうその場をいかに切り抜けるか、なんかうまい事の一つでもある演説をいかに打つか、という思考ゲームを楽しんでるのであって、組合活動や、ましてやそれに付随しての政治なんてものに全く興味はないので、政治や選挙関係についてぬたりに協力を求めるのは厳に慎んでいただきたいと思う今日この頃。
なにしろほれ、労働組合が推す某党は、幾度か離合集散して、しかもたった数か月前に別れた連中とまた合流しようという、その感覚が信じられない&お前ら経験から学ぶという事をしないのか、という感覚の持ち主ですから、ちょっとぬたりが応援することは考えられないですからね。