OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

グラント・グリーンの睨み顔

2008-09-04 15:55:57 | Jazz

何時の時代も音楽ファンをワクワクさせるのが、未発表曲の発掘です。特にジャズの場合は瞬間芸という、その音楽的特質から比較的容易に録音セッションが持てる所為でしょうか、そうしたマテリアルに事欠きません。

例えば名門ブルーノートが1970年代後半からスタートさせた発掘事業からは、驚異的な「お宝」がザクザクと掘り出され、それがCD時代になって益々深化したのですから、ジャズ者には嬉しいプレゼントでした。

本日の1枚もそのひとつです――

Sold / Grand Green (Blue Note)

アナログ盤時代に発掘された音源ですが、CD化の際にまたまたボーナストラックが追加された、とても未発表だったのが不思議なほどの熱演盤です。

録音は1964年6月12日、メンバーはグラント・グリーン(g) 以下、ジェームス・スポールディング(as)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ボブ・クランショウ(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という鬼の様な面々です――

01 Minor League
 如何にもデューク・ピアソンという哀愁入りのハード曲♪ エルビン・ジョーンズの威勢の良いドラムスが強烈なイントロとなって始まるテーマ合奏からして、ビンビンにシビレます。
 そして突入するアドリブパートは、まず先発のジェームス・スポールディングが妥協の無いスタイルを貫けば、グラント・グリーンはメリハリの効いた単音弾きで追撃ちです。う~ん、それにしても強い、強すぎるピッキングには脱帽ですねぇ。
 しかしジョー・ヘンダーソンは気合が空回り……。それでもかなり熱いアドリブになっているのですから、流石というか当時のジャズは熱気が違います。
 そのあたりはマッコイ・タイナーが十八番の音符過多症候群を披露し、エルビン・ジョーンズがこれでもかっ! というポリリズムを敲き出しているいるあたりでも楽しい限りです。
 ラストテーマのスリルと纏まりを「予定調和」と言ってはバチが当たりますね。

02 Ezz-Thetic
 これまた怖い演目で、ジョージ・ラッセルが書いた真摯なツッコミの冴えた名曲ですから、ここでの暴虐は「お約束」でしょう。エルビン・ジョーンズが嬉々として叩きまくっているのは、その証だと思います♪
 肝心のアドリブパートも溌剌としたグラント・グリーン、熱血のジェームス・スポールディング、ヒステリックに泣き叫びながらも王道のジョー・ヘンダーソン、スピードに乗ったマッコイ・タイナー、それを煽るドラムスとベースのコンビネーションも痛快ですが、もちろん最後はエルビン・ジョーンズの爆裂ドラムソロという仕掛けが、わかっちゃいるけどやめられない、です♪

03 Grant's Tune
 ヘヴィなアフログループに彩られたグラント・グリーンの自作曲で、現代でも相当に脂っこい演奏と感じられます。
 それはグラント・グリーンが持ち前の黒っぽさを煮詰めていくリズム隊の凄味ゆえかもしれませんが、このメンツなら、さもありなんです。もちろんグラント・グリーン本人のアドリブも濃厚!
 そして熱いのがジョー・ヘンダーソンのテナーサックスで、全く個性的な音色が大きな魅力ですね。またジェームス・スポールディングのアルトサックスも泣きながら……。

04 Solid
 アルバムタイトル曲はソニー・ロリンズが1954年に吹き込んだハードバップへの果敢な挑戦! あぁ、この和んだグルーヴにシビレまくりです。グラント・グリーンも自ら楽しんでいるような快適なフレーズを連発してくれますよ。
 リズム隊のグイノリも気持ち良く、ちょっと投げやりなジェームス・スポールディング、諦めが潔いジョー・ヘンダーソンがそれぞれに納得の一瞬を披露しています。
 また小刻みなオカズを使いながらも全体で大きなウネリを作り出すエルビン・ジョーンズも、これがジャズの楽しさでしょうね。

05 The Kicker
 あまりにも有名なジョー・ヘンダーソンのオリジナル曲で、調子の良いハードバップ王道の楽しみが溢れ出ています。もちろん作者がツボを外さない豪快なアドリブを披露すれば、続くジェームス・スポールディングもエキセントリックな味わいが滲む熱演です。そしてバックで煽るリズム隊の怖さ、キメのリフのカッコ良さも、たまりません。
 さらに満を持して登場するグラント・グリーンの潔さ♪ 十八番の「針とびフレーズ」も交えながら、完全にその場の空気を読みきったあたりは、流石だと思います。
 しかし逆に言えば、あまりにも纏まりすぎたところが物足りなくもあり……。結論を言えば、ジャズロックにも変奏可能な曲調なんですから、勿体ないと……。

06 Wives And Lovers
 これがCD時代となって新たに加えられた演奏で、曲はバート・バカラックのオリジナルとして有名ですが、その良く知られた和みのメロディを、ここではちょいとアフリカ色の強いアレンジで聞かせるという、如何にも当時の新主流派っぽいところが、さもありなんです。
 しかしグラント・グリーンは別に体裁ぶったりせず、メロディを大切にしながら持ち前の黒っぽいスタイルを貫く名演を披露しています。エルビン・ジョーンズが敲き出すポリリズムがジャストミートしているのは、ちょっと意外な気もしますが、ハッとするほど良い感じ♪
 またマッコイ・タイナーが嬉々としたアドリブを演じているのも微笑ましく、このあたりは当時のジョン・コルトレーンのバンドでは如何にストレスが溜まっていたかの心情吐露!? 激しい中にも絶妙の和みが楽しいかぎりです。

ということで、こんなテンションの高い演奏がオクラ入りしていたという贅沢が、ブルーノートの凄いところだと思います。しかし冷静に聴けば、名盤が続出していたリアルタイムでは、平均点というところかもしれません。

その意味でオーラスの「Wives And Lovers」が当時の感覚ではユルフン気味に感じられるでしょう。しかし現代では、これが実に最高で、ラストテーマが緩やかにフェードアウトしていくあたりは、何度聞いても快感なのでした。

ちなみにアメリカプレスのアナログ盤は、つまらない風景写真でしたが、このCDジャケットはアクの強いグラント・グリーンの表情が最高の雰囲気で、これもジャズの魅力でしょうね♪

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