OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

こんな時こそ、O.V.ライトの熱い歌

2012-09-01 15:42:06 | Soul

A Nickle And A Nail And Ace Of Spades / O.V. Wright (Back Beat)

この素っ気ないデザインのジャケ写に包まれたLPが、ディープなサザンソウルの名盤と言われれば、それなりに説得力があるのですから、レコード世界の魅力は尽きません。

そして実際に針を落し見れば、ハナからケツまでシビれること請け合いの大傑作!

歌っているO.V.ライトは南部系R&B、所謂サザンソウルの黒人シンガーとしては代表的な存在ながら、特段一般に知られたシングルヒットは出していません。しかし少年時代からゴスペルグループで歌い、鍛え上げられた実力は大衆歌謡の世界に入っても天下一品!

それは業界関係者や黒人音楽愛好者には常識であり、だからこそ本人の些か自堕落な生活の合間に立派なレコーディングが残されたのでしょう。

で、本日ご紹介のアルバムは1970年前後に出していたシングル曲をメインに編集された1枚で、世に出たのは1972年頃とされていますが、それにしてもニューソウルが黒人音楽の流行最先端であった時期に、これほどR&B原理主義の歌と演奏が作られていた現実は、独立的とも思えるサザンソウルの根強い人気と需要があった事に加えて、O.V.ライトの実力がはっきりと認められていたからと思います。

 A-1 Don't Let My Baby Ride
 A-2 Born All Over
 A-3 Ace Of Spades
 A-4 Eight Men - Four Women
 A-5 He Made Woman For Man
 B-1 I Can't Take It
 B-2 Afflicted
 B-3 When You Took Your Love From Me
 B-4 Nickle And A Nail
 B-5 Don't Take It Away

まずA面ド頭「Don't Let My Baby Ride」に針を落した瞬間に迫って来る、何とも思わせぶりなスワンプフィーリング満点のイントロ! そのギターの音色とフレーズの妙に加えて、ピアノもベースもドラムスも粘っこくてヘヴィなピートをナチュラルに表出していますから、主役のO.V.ライトもミディアムテンポで熱いブルース衝動をじっくりと歌ってくれますよ♪♪~♪

怠惰なムードの女性コーラスも良い感じ♪♪~♪

あぁ、もう、この一発だけで、辛抱たまらん状態は必至なんですが、実はこれこそが1972年にシングル発売されたという、今となっては時代錯誤も強烈と思わざるをえない、そのディープなソウル魂が嬉しくも素晴らしすぎるんですよねぇ~~♪

おまけにそのB面に収められていた「He Made Woman For Man」が、これまたブラックミュージック特有のメロウフィーリングを滲ませる情熱のサザンソウルであり、泣きじゃくるが如く歌うO.V.ライトには我知らず、もらい泣きしてしまうですよ♪♪~♪

ちなみに原盤LP裏ジャケに記載された演奏メンバーはティーニー・ホッジス(g)、チャールズ・ホッジス(key)、リロイ・ホッジス(b)、ハワード・グリムス(ds) という、所謂ハイ・リズムですから、その力強く、しなやかなソウルグルーヴは天下一品ですし、ウェイン・ジャクソン(tp)、アンドリュー・ラヴ(ts)、ジェームズ・ミッチェル(ts)、エド・ローガン(ts) 等々が参加したホーンセクションもツボを押さえた良い仕事!

またバックコーラスとしてクレジットされた「Rhodes, Chalmers & Rhodes」は白人のボーカルトリオとされていますが、これには諸説があり、個人的にはイマイチ真相が掴めていません。

しかし、それはそれとして、とにかくここに収められた全曲の真っ黒いソウルフィーリングは過言ではなく、唯一無二の黒光りで、特にスローで粘っこい「I Can't Take It」の魂を揺さぶられるが如き歌唱の物凄さ! 抑えた中にも、こみあげる魂の呻きがリアルな「Afflicted」、同じく力強いリズム隊に煽られつつも、コーラスと一体になって絶唱していく「When You Took Your Love From Me」と続くB面の流れは、ちょい聴きには地味かもしれませんが、絶対に飽きることが無いどころか、完全にサザンソウル中毒に陥る事、必至です!

あぁ~、これが本当に1970年代初頭のサウンドなんでしょうか?

既に述べたように、極東の島国でニューソウルに浸っていたサイケおやじには、その時代錯誤性が眩しくも強烈に感じられましたですねぇ~♪

その意味で続く「Nickle And A Nail」のリズム&ピートにスワンプロックと同質のグルーヴを発見したり、オーラスの「Don't Take It Away」へ至っては、思わずチキショーって叫びたくなるほどの高揚感に満たされてしまうんですから、O.V.ライト、そしてディープソウルは不滅!!

実は告白すると、このLPをゲットしたのはオーティス・クレイの「愛なき世界で」を聴いてからの次の行動でありまして、その頃の我国では完全にマイナーな領域であったサザンソウルの奥の細道に歩み出さざるを得ない心境になりましたですねぇ~~。

しかし、その道は険しく、厳しく、平たく言えば、日本国内での再発状況の活性化は少しずつ活発になってはいましたが、情報そのものが極端に少ないのでは、何を聴いていいのか、まさに手探りというか、耳探りでした。

そこで、このアルバムで凄いバックを担当していた前述のハイ・リズムが入っているレコードをひとつの基準に設定したわけですが、それにしても、この4人組はアブナイほどの力量がありますですねぇ~♪

それはここでも「Born All Over」の淡々としたグルーヴの奥深さ、ドスの効いたピートを堪能させてくれる「Ace Of Spades」、それが常に主役であるO.V.ライトを鼓舞し、裏に表に見事なサポートを演じているんですから、流石と思います。

で、このリズム隊が何時頃から一緒にやっているのかは勉強不足で知る由も無いながら、このアルバムで一番に古い録音とされる1967年頃の「Eight Men - Four Women」でさえも、既に確固たるソウルのエモーションを煽ってくれるのですから、好きになったら命がけというか、生涯ついていくのがサイケおやじの生きる道なんでしょうかねぇ~♪

と、まあ、そこまで追いつめられてしまうのが、O.V.ライトの魅力というわけです。

ちなみに最初に買った私有盤は当然ながらアメリカプレスのアナログ盤LPだったんですが、後の1978年頃に国内盤が出た時には、なんとっ!? 「Ace Of Spades」が別人の歌うテイクだったという真相があったというんですねぇ~~!?

実はサイケおやじが、この問題を知ったのは以前にご紹介したO.V.ライトの「壱萬参千円箱」に付属の解説書を読んだ時だったんですが、詳しくはそこに譲るとして、結論から言えば件の「Ace Of Spades」には現在まで以下の4バージョンが残されているとの事です――

 1970年シングルバージョン (オリジナルヒットバージョン = MONO)
 アメリカ盤LPバージョン (フェイドアウトのショートバージョン = Rimix)
 1973年シングルバージョン (再発別テイクバージョン)
 作者のメルヴィン・カーターが自演のバージョン (STEREO)

以上のような分類なんですが、これは実際、前述の「壱萬参千円箱」にきっちり分類収録された同曲4バージョンを聴いてみれば、その違いに驚きを隠せません。

例えば再発の「1973年シングルバージョン」には、イントロから歌い始める前の「ヘイッ!」という掛け声がありませんし、サイケおやじが慣れ親しんでいた「アメリカ盤LPバージョン」は「1970年シングルバージョン」に比べると、最後のパートが短くフェードアウトしてあった事が歴然でした。

また問題となる、1978年の国内盤に入っていたとされる「メルヴィン・カーターの自演バージョン」が、どういう経緯でマスターの取り違えが行われたのかは不明ながら、これだけがステレオミックスになっている事が、その一因かもしれません。

ということで、このアルバムはディープ&サザンソウル永遠の名盤なんですが、何故か単体としては少し前まで品切れ状態だったものが、いよいよ近々、紙ジャケット仕様のCDとして再発されるようです。

気になる「Ace Of Spades」の別テイク&バージョンが現時点で、どのように収録されるかは不明なんですが、ひとりでも大勢の皆様に楽しんでいただきたい傑作集であることは断言して後悔しないのが、サイケおやじの姿勢です。

こんな世相と残暑が続く毎日、これほど熱い歌と演奏は……、と躊躇されるご気分も、いえいえ、だからこそのO.V.ライト!

鬱陶しさには本物が絶対に効きますよ。

魂を揺さぶられる快感は決して悪いものではありません。それは真実だと思います。

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