■Bad Boy and 3 other songs / The Beatles (東芝オデオン = 7吋EP)
7吋のEP、我国ではコンパクト盤と称されるレコードは、ちょうどシングル盤とLPの中間に位置する存在として、なかなか重宝された時期がありました。
それは高価なLPが買えないファン向けという事でしょう、主に4曲入りの構成は、既発のアルバムから人気曲を抜粋したり、時にはアルバム未収録のヒット曲だけを寄せ集めたベスト盤的な趣向も企画されていましたから、リアルタイムでは侮れないブツも少なくありませんでした。
また、そういう目論見のひとつとして、1960年代までは普通だった「シングル盤はモノラル仕様」という、当時は弱点と見なされていた部分を補う簡易解決策として、コンパクト盤が有用されていた側面も無視出来ないでしょう。
さて、そこで本日のご紹介は昭和42(1967)年5月頃、我国独自の編集で発売されたビートルズのEPなんですが、今となっては非常に偏向した選曲が興味の対象だと思います。
A-1 Bad Boy
A-2 Strawberry Fields Forever (simulated stereo)
B-1 Penny Lane (simulated stereo)
B-2 Goody Day Sunshine
どうです、まずはA面の落差激しい選曲構成が強烈でしょう。
しかし、実はこれ、まず「Bad Boy」は日本では同年2月に発売となった、ビートルズ初の公式ベスト盤「オールディーズ」のウリとして収録されていたリアルタイムの未発表曲で、ご存じのとおり、黒人R&Bのカパーを熱く熱唱するジョンのボーカルとビートルズならではの真性ロックグルーヴが見事に調和した大名演は、今日でも人気は衰えていないと思います。
もちろん当時も圧倒的に支持されていたわけですが、なにしろ相手は知っているヒット曲ばかりが収められた、高価なLP! その1曲だけを目当てにお金を使うことが出来る青少年は限られていましたからねぇ。
そこで会社側は勇躍、「\500」で販売されるEPのトップに据えたのも見事な企画だったのです。
一方、もうひとつの魅力が「ステレオ仕様」というポイントで、実はこれの直前3月に出ていた「Strawberry Fields Forever」と「Penny Lane」のカップリングシングルは当然ながら「モノラル」でしたから、あの目眩がするほどのサイケデリックワールドがステレオで聴けたならっ!? という魅力的な好奇心を強く刺激する企画もまた強力だったと思われます。
実は告白すると、このEPをサイケおやじが入手したのは昭和46(1971)年の事で、もちろん中古だったんですが、お目当ては「Penny Lane」のステレオバージョンでした。
というのも、「Strawberry Fields Forever」はアメリカで企画編集された12吋LP「マジカル・ミステリー・ツアー=MMT」で一応はステレオバージョンが出ていたものの、そこに同じく収録された「Penny Lane」は疑似ステレオ……。
そこで一縷の望みというか、もしかしたら!?
という気持でゲットした真相も、結論から言うと、ここでもやぱっり疑似ステレオでした。
しかも「Strawberry Fields Forever」までもが立派な(?)疑似ステレオだったんですから、サイケおやじの思い込みは見事にハズレたというわけです。
ただし今となっては負け惜しみかもしれませんが、ここに収録の「Strawberry Fields Forever」も「Penny Lane」も、おそらくは日本独自で作られた疑似ステレオバージョンかもしれません。
まあ、このあたりは世界中のブツを検証したわけではないので、決定的な確証はありませんが、一応の流れは下記のとおりです。
※Strawberry Fields Forever
1967年2月 英・米シングル:mono
1967年3月 日シングル:mono
1967年5月 日EP:simulated stereo (掲載盤)
1967年11月 米LP「MMT / stereo」:stereo
1967年11月 米LP「MMT / mono」:mono
1973年4月 LP「1967-1979」:stereo
※Penny Lane
1967年2月 英・米シングル:mono
1967年3月 日シングル:mono
1967年5月 日EP:simulated stereo (掲載盤)
1967年11月 米LP「MMT / stereo」:simulated stereo
1967年11月 米LP「MMT / mono」:mono
1973年4月 LP「1967-1979」:stereo
と、簡単に分類すれば以上のとおりなんですが、厳密に言えばステレオバージョンには両曲共に更なる違いが数種類、収録レコードやCD毎に散見されるという複雑怪奇が存在しています。
そして多分、このあたりの錯綜する現実的な真相は今後、ますます増大する可能性がありますし、それはメディアの多様化や発売される音源と映像の「不統一な統一」というビートルズ側の巧緻な姦計によるところが大きいという感想は、全人類共通の認識でしょう。
まあ、そのあたりを許容する程度の問題で、ファンそれぞれのマニア度が決まるような気も致しますが、それはそれとして、とにかく世に出されたビートルズの楽曲は何時までも古びることはありません。
その意味で、このEPのA面が強烈なR&Rからサイケデリックロックの完成された極北へと一瞬にして移動する構成というのは、前人未到の極みでしょう!
またB面は、例の不穏な空気に満たされた名盤「リボルヴァー」に収録されていながら、如何にもウキウキと楽しい「Goody Day Sunshine」をオーラスに置くことによって、「Penny Lane」のリアルな非現実感がさらに堪能出来るという仕掛けが!?!?
う~ん、本当に見事ですよねぇ~~♪
つまり、皆様も納得されていらっしゃるように、このEPはA面がジョン・レノン・サイド、B面がポール・マッカートニー・サイドに分類されることにより、殊更に変動が著しかった時期のビートルズを俯瞰的に鑑賞出来るという優れもの!?
そういう結論も導き出せるんじゃないでしょうか?
結果的に、これが日本独自編集のEPとしては最後の1枚になった事実も含め、それはなかなか味わい深いものがあります。
そして個人的には疑似ステレオで聴く「Strawberry Fields Forever」の不思議なエコー感が、如何にもサイケデリックロックがど真ん中というムードで、捨て難く思うばかり♪♪~♪
こういう今日での感想を当時のレコード会社の担当者各位は、どのように意図予測されていたのか? そのあたりも興味深々であります。