■太陽がくれた季節 / 青い三角定規 (コロムビア)
全ての人がそうだとは言いませんが、ギターを弾くようになると必ず気になるのが、「12弦ギター」じゃないでしょうか。
特にサイケおやじの場合はザ・バーズの大ファンでしたから、このグループのサウンドを決定づけていたロジャー・マッギンやディヴィッド・クロスビーが弾くエレクトリックな12弦ギターの響きには、強い憧れを抱いていました。
またビートルズにしても、ジョージ・ハリスンが1964年頃からリッケンバッカーの12弦ギターを用いてレコーディングしているとか、ジョン・マクラフリンやゼップのジミー・ペイジがダブルネックのギブソンで12弦のエレクトリックサウンドを存分に披露していたこともありましたから、ぜひとも自分で弾いてみたいという欲望は高まるばかりだったのですが……。
当然ながら、普通のギターに比べて高価な12弦ギターは、高校生だったサイケおやじには買えるはずもありません。
ところが救いの神というか、それはエレクトリックではなく、アコースティックではありましたが、とにかく12弦ギターを自分の物として弾けるチャンスが到来したのは、ラッキーでした。
それは昭和47(1972)年のことで、ただし、ひとつの条件があり、なんとっ! 本日ご紹介のシングル曲「太陽がくれた季節」を演奏する事! なんですから、これには正直、些か目眩がしました。
というのも、サイケおやじは基本的に歌謡フォークは嫌いではありませんが、何かしら面映ゆいというか、とにかく当時はそれを軟弱と決めつける言動を周囲に言い放っていたのですから、自分なりに苦しい決断を迫られたというわけです。
しかし結局は承諾したのも、「12弦ギターの魔法」に負けたという言い訳が成り立つからであって、他意は無いと言い張ったのですが、それはそれとして、ここまでの経緯は以降、今日まで何かとお世話になっている先輩からの誘いというのが真相です。
実は、この先輩は同じ高校の上級生であり、サイケおやじが入れてもらっていたバンド組メンバーの親友として、同好会にも頻繁に顔を出していたんですが、何故か正式に加わることはなく、それでも何かと役に立つ仕事の手伝いはしっかりとやってくれた、なかなか奇特な人でありました。
なにしろバンド組の練習用に自宅の倉庫を提供してくれましたから、学校内ではちょいと不可能な大音量のエレクトリックサウンドは、そこで演じることが出来ましたし、楽器やアンプの運搬にもトラックやライトバンを用立ててくれるほどだったのですが、それが出来たのも件の先輩が大金持ちの御曹司だった事に他なりません。
ですから、この先輩が夏休み前、「太陽がくれた季節、やれないかなぁ~」と言い出した時は無碍に排斥する事も出来ない雰囲気があったというわけです。
しかしサイケおやじは、そんなのフォーク組に言えばいいじゃないか!?
という疑問が打ち消せず、実際、フォーク組はウキウキとギターを弾きながら、グループで件の曲を歌っていた事も度々でしたから、不思議に思うばかり……。
で、そのあたりをバンド組の先輩に尋ねたところ、その時は曖昧な説明だったんですが、後に知ったところでは、ちょいと納得するしかない、青春の懊悩とも言うべき事情が……。
ということで、とにかくやる事になった「太陽がくれた季節」を大ヒットさせた青い三角定規というグループは西口久美子(vo)、岩久茂(g,vo)、高田真理(g,vo) という3人組で、ブロデューサーには作曲家のいずみたくが付いていたこともあり、レコードで聴くかぎりでも、当時としては最先端のスマートな音作りを隠し味にした胸キュンフォークがウリだったように思います。
ちなみに岩久茂は後に秋吉久美子と結婚し、夥しい彼女のファンから嫉妬と羨望を集めた事を忘れていない皆様も大勢いらっしゃると思いますが、グループとしての魅力は西口久美子の溌剌としたボーカルスタイルとアコースティックギターがメインで作られるビートの効いた軽快なリズムパターンに集約されています。
ただしオリジナルのシングルバージョンは、青春テレビドラマ「飛び出せ!青春」の主題歌ゆえにオーケストラが導入された歌謡ポップス的な作りですから、そこでコピーする時に有用なのが前述した12弦ギターであり、実は当時、所謂フォークギターを持っていなかったサイケおやじに、御曹司の先輩は自らが買ったアコースティックの12弦ギターを貸与してくれたのですから、渡りに船!
もう、その提案だけで頑なに反対の気持があったサイケおやじは前向きに変心、むしろ嬉々として「太陽がくれた季節」のコードを探りましたですねぇ~♪
さて、そこで気になる結果は……。
なんとギターがほとんど弾けない御曹司の先輩が6弦、サイケおやじが12弦というアコースティックな伴奏に、リードボーカルが他校の女子という、一応は三角定規編成となって、前述した倉庫で練習を重ねましたが、それなりというところでしょうか。
ただし、これがきっかけとなって件の先輩とは懇意になり、ジェームス・テイラー来日公演のチケットを貰った事もありましたし、今日までも公私共々お世話になり続けているのは既に述べたとおりです。
また、その時に使った12弦ギターも、事が終った時には返したんですが、数年を経て再び永久貸与という形でサイケおやじのところへやって来ています。
う~ん、何時かは返さないとなぁ……。
とは思いつつ、時折に鳴らす12弦ギターの膨らみのある響きは、やっぱり最高♪♪~♪ と、独り悦に入っているのでした。