■恋のマジック・アイ / The Who (Track / 日本グラモフォン)
我国で洋楽を売る場合、その曲名に邦題をつけるのは当時の常識のひとつでしたが、その中には噴飯物のトホホもあれば、なるほど! と思わず唸る素敵なものもありました。
本日ご紹介するザ・フーの名曲ヒットの原題は「I Can See For Miles」、つまり「俺はどこまでも遠くを見ることが出来る」なんですが、これを「恋のマジック・アイ」とした意図は、主人公の目を盗んで浮気をする彼女に嫉妬する男の歌ですから、これで正解なんでしょうね。そして実際、歌詞の中には「俺の眼は魔法の眼」という一節があります。
そのあたりを上手く解釈する面白さが、日本で洋楽を愛好する楽しみのひとつになっていたのが、昭和の味わいでもありました。
肝心の歌と演奏に関しては、イギリスで制作・発売された1967年というサイケデリック時代にどっぷりのハードロックがど真ん中!
ヘヴィなベースを主軸にダビングされたエレキギターが鮮烈なアクセントになっていますし、時に激しく炸裂するドラムスが、ますます強烈です。そしておそらくは意図的に引き気味のミックスにされたボーカルに被さるモヤモヤとしたコーラスも良い感じ♪♪~♪
ご存じのようにザ・フーは4人編成で、しかも演奏パートはピート・タウンゼントのギターよりも、ジョン・エントウィッスルの爆裂エレキベース、そしてポリリズムのロックビートを終始敲きまくるキース・ムーンが中心でしたから、必然的にスタジオ録音ではダビングが多用されていても、実際のステージではバンドだけで演奏出来るスタイルが守られていました。
しかし、この「恋のマジック・アイ」だけは、流石にリアルタイムのライプでは演奏が不可能だったという逸話のとおり、本来はポップな持ち味を大切にしていたザ・フーにしては、些か凝りすぎの感が無きにしもあらずです。
そうした所為もあって、ザ・フーの歴史の中では名曲名演の決定版なんですが、それほどのヒットにはなっていなかったようです。
ただし、これが欧米よりは約半年遅れで発売された昭和43(1968)年春の日本では、かなりの勢いでラジオから流れていました。そしてサイケおやじにしても、以前から好きになっていたバンドでしたから、速攻でゲットさせられたのは言わずもがな♪♪~♪
とにかくヘヴィでハード、そしてサイケデリックなムードが横溢した歌と演奏には完全にKOされました。とりわけ強烈に蠢くジョン・エントウィッスルのエレキベース、そしてドカドカビシバシに弾けるキース・ムーンのドラミングには、それこそトランジスタラジオが軋むほどの迫力が確かにあったのです。
ところが後に聴いたアルバム収録のステレオバージョンが、完全に気抜けのビール……。それはミックスが大きく変えられ、エレキベースが極端に小さな音と言うよりも、ほとんど「音圧」だけの存在に成り下がり、またドラムスもカラ騒ぎ状態ですし、反面、ボーカルとコーラスが大きくなっているという、これにはシングル盤で馴染んでいた私の様な者には違和感がいっぱいだったと思います。
ですから、決してシングル盤を手放せないのは、ファンならば当然の仕儀でしょう。
このあたりがCD再発で、どのようになっているのかは、全てを検証していないので一概には断定出来ませんが、少なくとも今日まで、私を満足させてくれたものには出会っていません。
う~ん、ザ・フーって、けっこう罪作りなバンドなんですよ、いろんな意味で……。
でも、それゆえにいろんな楽しみが深~いのも、また事実!
そして最初の邦題の話に戻ってみれば、他にも例えば「恋のピンチヒッター」とか「俺の指図で」、あるいは「恋のサークル」や「ボリスのくも野郎」といった、相当に傑作なものがあるんですねぇ~♪ 原曲タイトルは、あえて省略致しますが、とにかく当時の我国レコード会社の担当者各位には、あらためて敬意を表したくなるほどです。
最後になりましたが、日本でレコードが初めて出た時には「ザ・フゥー」なんて表記されていたバンド名が、ポリドールに権利が移動して以降は、ようやく「ザ・フー」になったことを追記しておきます。