■Wings Over America (MPL / EMI)
天才作曲家のポール・マッカートニーは、同時に優れたベース奏者!
なんてことは言わずもがなですが、それはライプセッションの現場で、尚更に素晴らしく楽しめるのも、当然が必然でしょう。
本日ご紹介のアルバムは、ポールが1970年代に率いていたレギュラーバンドのウイングスが、その絶頂期に残したアナログ盤LP3枚組という超大作ですから、ヒット曲が満載なのは「お約束」ですし、バンドメンバー各々の活躍もあり、実に様々な意味の楽しみがぎっしり詰まっています。
A-1 Venus And Mars - Rock Show - Jet
A-2 Let Me Roll
A-3 Spirits Of Ancient Egypt
A-4 Medicine Jar
B-1 Naybe I'm Amazed
B-2 Call Me Back Again
B-3 Lady Madonna
B-4 The Long And Winding Road
B-5 Live And Let Die / 007死ぬのは奴らだ
C-1 Picasso's Last Words
C-2 Ricard Cory
C-3 Bluebird
C-4 I've Just Seen A Face / 夢の人
C-5 Blackbird
C-6 Yesterday
D-1 You Give Me The Answer
D-2 Magneto And Titanium Man
D-3 Go Now
D-4 My Love
D-5 Listen To What The Man Said / あの娘におせっかい
E-1 Let'em In
E-2 Time To Hide
E-3 Silly Love Song / 心のラブソング
E-4 Beware My Love
F-1 Letting Go
F-2 Band On The Run
F-3 Hi Hi Hi
F-4 Soily
録音はアルバムタイトルどおり、1976年5~6月に行われたアメリカ巡業の各ステージから、そのベストテイクを選んだとされていますが、一説によると、もちろんスタジオでの手直しも入っているようです。
しかし上記演目をご覧になれば、その間然することの無い構成は既に圧巻!
初っ端の、これぞウイングスという、10分を超える「Venus And Mars - Rock Show - Jet」のメドレーでツカミはOK! またポールがビートルズ時代の十八番ネタをライプで演じたという話題性の強さも、当時は大騒ぎに近いものがありました。
ちなみにここでのウイングスは、ポール・マッカートニー(vo,b,g,key)、リンダ・マッカートニー(vo,key)、デニー・レイン(g,vo,b,key)、ジミー・マッカロク(g,b,vo)、ジョー・イングリッシュ(ds,vo) というレギュラー5人組に加え、4~5編成のホーンセクションを従えていましたから、スタジオバージョンを上回る強靭なロックのグルーヴが横溢した新名演も残される好結果♪♪~♪
そして既に述べたように、サイケおやじ的な楽しみとして、ポールの素晴らしいベースプレイが堪能出来ます。
それが特に顕著なのは、「Spirits Of Ancient Egypt」や「Medicine Jar」といったポール以外のバンドメンバーがリードボーカルの演奏で、まさに歌うようにドライヴしまくったエレキベースの醍醐味が強烈! 失礼ながら実際、サイケおやじはポールのペースしか聴いていないのが、この2曲の真相です。本当に、最高♪♪~♪
このあたりはポールがピアノやキーボードを担当した演奏で、例えばデニー・レインやジミー・マッカロクがベースを演じた曲になると、明らかにグルーヴが異質になってしまうという面白さもあるわけで、それがウイングと言われれば、全くそれまでなんですが、「死ぬのは奴らだ」なんかは、ちょっと勿体無い感じです。
その意味でE面以降の終盤で披露されるウイング流儀の怒涛のロック大会で、再びポールがベースに専念する演奏になると、これはもう、唯一無二のグルーヴが炸裂しています。特に弾みまくったベースのリフが単調な曲メロの展開を巧みに彩った「Time To Hide」とか、本当に楽しい「心のラブソング」のベースリフ♪♪~♪
さらに曲調がコロコロ変わる「Band On The Run」での適材適所のプレイから、強靭なR&Rを演出する「Hi Hi Hi」での熱血、そしてトドメの一撃というべきハードロックな「Soily」での意外な軽さまで、まさにベース奏者としてのポールが堪能出来ますよ。
ちなみに、どうしても書いておきたいのが、ビートルズ脱退からソロ活動、そしてウイングスを率いていた頃のポールへの風当たりについて、それはリアルタイムをご存じない皆様には想像も出来ないであろう、厳しさがありました。
なにしろ音楽マスコミの報道と洗脳もあるかもしれませんが、ジョンやジョージはピュアで、しかしポールは拝金主義だとか!? あるいはリンゴは自然体なのに、ポールは計算高いとか!? また、新譜を出せば、必ず言われるのが、ビートルズ時代との比較でした。
確かに私にしても、当時はそうしたことを痛感せずにはいられないほど、ジョンやジョージが発表するアルバムの充実度に比べ、ポールの諸作は「ロック的な純情」に欠けているようにも感じましたし、当時のロックに求められていた反体制な部分が、あまり感じられないのも事実だったと思います。
しかしポールが発表していたシングル&アルバムは、同時代のポップスの中では、確かに抜きん出ていたものがあって、例えばポール&リンダ名義のアルバム「ラム」は個人的にも大好き♪♪~♪ 本当の傑作盤だと思います。そしてウイングスは、あまりにもエンタメな性質は否定しませんが、このライプ盤あたりを境にして、私は以前のアルバムを聴き直し、再発見した気分になったのです。
もちろん、この3枚組を買ったのは、ビートルズ時代の曲を演じていたのが大きな魅力だった事を告白しておきますが、ウイングスというバンドの凄さに感銘を受けたのも、また事実です。
ご存じのとおり、この時の巡業からは同名のロック映画が作られ、そこにはリッケンバッカーのベースを弾いて躍動するポールの勇姿が眩しいほどに映し出されています。またダブルネックを操るデニー・レイン、ギブソンSGを持ったジミー・マッカロクが、如何にもロックミュージシャンの佇まい!
以前はビデオテープやLDで販売もされていましたが、海賊版は出回っているものの、一刻も早い公式DVD化を切望している熱演集として、必見だと思います。
還暦を過ぎたポールが、現在でもライプミュージシャンとして頑張っている姿は、流石に感銘を受けたりしますが、どうもそこでの演奏や歌が全体的に綺麗すぎるのは仕方が無いというには、物足りません。
もう一度、この頃のウイングスのような「ロック」が聴いてみたいもんです。