OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

モブレーの心霊ジャケット

2009-04-16 11:36:15 | Jazz

Soul Station / Hank Mobley (Blue Note)

ハンク・モブレーの代表作にして、ハートバップの大名盤の、これは別ジャケデザインの再発盤です。

なんとなく心霊写真みたいですが、なんでこれか? と言えば、今では簡単に入手出来る環境も、一時の我が国では手の届かない高嶺の花でした。

それはレーベル主催者のアルフレッド・ライオンが、他国でのプレスを許さなかった事情によるものですから、常態的に出回っているのはアメリカプレスがほとんどだった所為です。しかも1970年代に入ってはレーベルの権利そのものが、リバティへと移行していた事もあり、今では歴史という名盤も時代の流れで廃盤状態……。超有名盤、あるいはロングセラー商品以外は中古市場での流通になっていたのです。

この人気盤にしても、我が国ではジャズ喫茶という素晴らしい文化が存在していたゆえに、その命脈を繋いでいたようなものでしょう。そしてジャズ者が現実的に気楽に聴ける場所は、そこしか無かったのが、1970年代前半までの状況でした。

もちろん私も大好きなアルバムです。そしてなんとか欲しいと焦るほどに、廃盤価格は当時の私には手の届かないところへといくのです。

で、そんな中で私がこのアルバムをゲット出来たのは、もちろん再発盤ゆえのことです。

それは昨日も書いた、1974年の初渡米の時の事、ロスの学生街にあった中古盤屋で、10枚4ドル98セントの山の中に発見したものです。

ただし盤はピカピカだったのに、裏ジャケットが謄写版インクのローラー押しみたいに汚れがベッタリ……。う~ん、このジャケットを下敷きにして、なんか印刷でもやってたんか!? もちろん中身のレコードを聴きながらなんでしょうけどねぇ……。

それでも私は嬉しかったですよ。当時はこの再発盤でさえ、我が国では見かけることがありませんでしたから!? しかも超安値ですから、速攻でゲット♪♪~♪

ちなみに当然ながらステレオ仕様ですが、やはりアメリカ盤特有のカッティングレベルの高さは魅力ですし、左にテナーサックス、真ん中にベースとピアノ、右にドラムスという、バッチリ別れたミックスも潔いかぎりだと思います。

録音は1960年2月7日、リーダーのハンク・モブレー(ts) 以下、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・ブレイキー(ds) という最高のバンドで、これぞハードバップの真髄が楽しめます。

A-1 Remember
 穏やかなムードが印象的なスタンダード曲の名演で、いきなり何の力みも感じせないハンク・モブレーのテーマ吹奏がスタートした瞬間から、素敵なハードバップの楽しみが広がっていきます。
 あぁ、このメロディフェイクの軽さと黒っぽさは、まさにハンク・モブレーだけが演じることの出来る世界でしょうねぇ~♪ テーマ部分では控え目なリズム隊の伴奏も、ハンク・モブレーのアドリブが進むにつれ、力強いビート感を打ち出していく気の合い方も絶妙だと思います。
 そしてハンク・モブレーのテナーサックスからは、間合いの名人芸と流れるようなフレーズの気持ち良さが続けざまに放出されるのですから、たまりません。さらにウイントン・ケリーのファンキーに弾みまくったピアノが、これまた最高の決定版!
 アート・ブレイキーの強いバックピートを上手く中和させるポール・チェンバースの物分かりの良さも、なかなか侮れません。ズバリ、名演の条件が全て揃っているんじゃないでしょうか。

A-2 This I Dig Of You
 そしてこれが、ハンク・モブレー畢生の名曲にして大名演!
 爽やかにして未来志向のイントロは、ウイントン・ケリーしても生涯の傑作フレーズかもしれませんが、いや、それさえもハンク・モブレーの作曲のうちかもしれません。ベースとドラムスのアンサンブルも素晴らしすぎますから、それに続くテーマメロディの雰囲気の良さに至っては、モブレーマニアの桃源郷♪♪~♪
 一瞬の間を挟んで始まるウイントン・ケリーの颯爽したファンキーピアノのアドリブもシビレが止まらないほどですよっ! アート・プレイキーのハイハットとリムショットのコンビネーション、ポール・チェンバースの新しい感じの4ビートウォーキングも強い印象を残します。
 肝心のハンク・モブレーは、もう言うこと無しの大快演! 十八番のタメとモタレを効果的に使いながらも、実に前向きなフレーズを滑らかに吹きまくりですし、もちろん歌心も新感覚でありながら、こちらが思い通りの「モブレー節」がどこまでも止まりません♪♪~♪
 あぁ、アップテンポでこの軽やかに飛翔していく雰囲気の良さは、唯一無二でしょうねぇ~♪ ロリンズやコルトレーンなんて、どこの国の人!?
 なぁ~んて、そんな不遜な事が頭を過った次の瞬間、ズバッと炸裂するのがアート・ブレイキーの魂のドラムソロ! アフロでラテンでハードバップがゴッタ煮となった強烈なグルーヴには歓喜悶絶させられます。

A-3 Dig Dis
 前曲の興奮が冷めやらぬ中、グッと重心の低いウイントン・ケリーのピアノがグルーヴィなイントロを弾きながら、実に良い雰囲気を作り出す短いアドリブ♪♪~♪ もうここだけで絶頂感がいっぱい♪♪~♪
 続くハンク・モブレーも、シンプルにして真っ黒なブルースリフを吹きながら、ジワジワともうひとつの絶頂へ向けてのお膳立てなんですから、グッと気持ちが高揚していきます。
 もちろんアドリブパートがミディアムテンポのゴスペルムードになるのは、美しき「お約束」でしょう。タメとモタレの芸術を聞かせてくれるハンク・モブレー万歳! 続くウイントン・ケリーのダークなファンキーフィーリングも、誰の真似でもない至芸だと思います。
 そして粘っこいフレーズの隙間を埋めていくポール・チェンバースのウォーキングベースも、実に味わい深いと思います。

B-1 Split Feein's
 これまたハンク・モブレーの優れた作曲能力が実証された素敵なテーマメロディとアンサンブル♪♪~♪ 軽いラテンビートとヘヴィな4ビートが交錯するあたりは、明らかに新時代のハードバップを志向しているようです。それを支えるアート・ブレイキーも流石!
 そしてアドリブパートの活きの良さは絶品です。アップテンポの4ビートに煽られながら、決して自分の個性を見失わないハンク・モブレーの魅力が存分に楽しめると思いますが、やはりハンク・モブレーにはアート・ブレイキーのドラミングがジャストミートですねぇ~~~♪ 同時期に所属していたマイルス・デイビスのレギュラーバンドでの不当評価をブッ飛ばすのは、つまりそこでのドラマーだったジミー・コブとの相性の悪さだったと思うのですが、いかがなもんでしょう。ハンク・モブレーのような内側からの自己表現を得意とするプレイヤーには、ジミー・コブのようなクールビートよりも、アート・ブレイキーの燃え上がるような煽りが最適だと、私は常々感じております。

B-2 Soul Station
 そのあたりの感をさらに強くするのが、このミディアムスローなファンキー演奏で、リズム隊のゴスペルグルーヴを上手く使いこなしたハンク・モブレーの決定的なスタイルが、徹頭徹尾、楽しめます。
 あぁ、この重心の低さ、そこからグイグイ、ジワジワと盛り上げていこうとしてファンキーな泥沼でもがき、味わいを濃くしていくハンク・モブレーのアドリブは、全く独自の境地でしょうねぇ~♪ マイルドな音色、ソフトで真っ黒なフレーズ展開の妙、十八番のタメとモタレ♪♪~♪ こういうスタイルは1960年代後半からは、完全なる時代遅れの象徴となったわけですが、しかしこれこそがモダンジャズのひとつの真実として、時代性という束縛から逃れた現代では、かけがえのない宝物だと確信出来ます!
 それはウイントン・ケリーにしても同様ですが、この人の場合、スタイルに汎用性があった所為でしょうか、比較的ストレートにその魅力が長続きしたのは幸いでしたから、ここでも良い味を出しまくりですよ。ファ~ン、キ~~~♪

B-3 If I Should Lose You
 オーラスは、再び穏やかなスタンダード曲のハードバップ的な展開、その典型が楽しめます。ハンク・モブレーが中心となった、まずはストレートなテーマメロディの吹奏が良い感じ♪♪~♪
 そしてアドリブが、これまた「モブレー節」の「歌」で満たされています♪♪~♪
 このあたりは、アルバム全体の中では当たり前すぎる感じも強いのですが、こういう安心感こそがモブレーマニアの求めるところであり、全てのモダンジャズファンを納得させるものじゃないでしょうか?
 それはウイントン・ケリーのリラックスしたアドリブにも同様の味わいが強く、尽きることのない「ケリー節」の典型が楽しめるのでした。

ということで、やはり人気盤の魅力は絶大という感想しかありません。もちろんハンク・モブレーには、他に多くの傑作がありますから、決してこれが一番ではないでしょう。

しかしリラックスした中にも確かに感じられる新しい息吹、そしてセッション全体の雰囲気の良さ、バンドメンバー間の気の合い方が素晴らしいのは間違いないところだと思います。特にアート・ブレイキーは常日頃はリーダーとしての活動が多い中、以前の子分の為に一肌脱いだというような懐の深いサポートが存在感抜群! ここぞで炸裂させるナイアガラロールの強靭なアクセント、ハイハットでの強いバックピート、シンバルとリムショットも冴えまくりながら、実は控え目なところがシブイという流石の親分だと思います。

ちなみにこのアルバムは、1970年代後半から再発が当然となり、CD時代に入っても早い時期から店頭に並んでいましたが、近年になって世に出たヴァン・ゲルダーのリマスター盤は???

これは紙ジャケット仕様ということもあり、即ゲットしてみましたが、モノラルに近いミックスもアート・ブレイキーのドラムスが引っ込み、ハンク・モブレーのテナーサックスも硬い音にされていたのは、なんだかなぁ……。

もちろんオリジナル盤は持っていないので、比較は出来ませんし、アナログ時代に度々再発された日本盤も所有しておりませんので、またまた独断と偏見ではありますが、この心霊ジャケット盤の音は、ハンク・モブレーのマイルドなテナーサックスの音色、そして強く全面に出ているアート・ブレイキーのドラムスゆえに、ステレオミックスとはいえ、私は愛着が深いのです。

そして何時か願いが叶うなら、オリジナル盤を入手して、聴き比べてみたいものです。

コメント (2)
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