■Duke's Big 4 (Pablo)
新年度は初っ端から仕事関係のゴタゴタやトラブルが多くて、ちょっと凹んでいます。まあ、意気ごみは大歓迎とはいえ、それだって周囲との協調がなければ迷惑な話……。
う~ん、このあたりはジャズと同じかもしれませんねぇ。個人芸の凄いアドリブがあったとしても、全体の纏まりがなければ独り善がりですし、フリーのデタラメなんて、サイケおやじには全く認められるものではありません。
個人と全体の協調、ヤル気と調和のギリギリのバランスが名演・名盤の必須条件だとすれば、一般社会の仕事だって同じだと思いつつ、本日はこれを出してしまいました。
アルバムには誰がリーダーとは明記されていませんが、タイトルだけで至極当然! デューク・エリントンがピアニストとして、名人揃いのカルテットを率いた演奏集です。
録音は1973年1月8日、メンバーはデューク・エリントン(p) 以下、ジョー・パス(g)、レイ・ブラウン(b)、ルイ・ベルソン(ds) が参集していますから、これで悪い演奏になったら世界は破滅というしかありませんね。演目も所縁の名曲ばかりです。
A-1 Cottontail
デューク・エリントン楽団としてはベン・ウェブスター(ts) をメインに押し出した循環コードのリフ曲とあって、今日でもジャムセッションには欠かせないテーマとなっています。
威勢の良いアンサンブルから各人が、俺に任せろ的な自己主張とバンドとしての纏まりを大切にしたバランス感覚は流石! ジョー・パスの力んだアドリブソロを背後から強力にプッシュするルイ・ベルソンのブラシの冴え! その間で痛快な4ビートウォーキングを聞かせ、さらに短いながらも練達のアドリブを披露するレイ・ブラウン!
そして最後にはルイ・ベルソンの豪快無比、ド迫力のドラムソロが炸裂すれば、そこにはウリだったツインのバスドラも顕在のようです。
気になる御大、デューク・エリントンのピアノは全体をリードしつつ、的確な指示を出す感じに留まっていますが、ここではそれも正解だと思います。まずは小手調べ♪♪~♪
A-2 The Blues
単純明快な曲タイトルですが、歴史的にはデューク・エリントンが早世した天才ベース奏者のジミー・フラントンと1939年にデュオ録音を残している演目とあって、特にレイ・ブラウンが神妙です。
ここでは存在感抜群のパッキング、さらに滋味豊かなアドリブソロと間然することのない匠の技を披露していますが、さらに凄いのがジョー・パスのギター! オクターヴ奏法から小刻みなフレーズの連続美技、しぶといオカズやコード弾きも素晴らしいかぎりです。
そして相当にキワドイ事をやっているデューク・エリントンのピアノも結果オーライでしょう。その直截的なピアノタッチが実に良い感じ♪♪~♪
A-3 The Hawk Talks
ルイ・ベルソンの作曲になっていますが、かつてはデューク・エリントン楽団の看板スタアとして、自らのドラムスが大活躍した名演の再現を狙ったのでしょうか。
しかしここではカルテットの演奏とあって、コード進行を指示する声やジャムセッション的な和みと協調、さらに個人芸の競い合いも鮮やかに楽しいムードです。
肝心のルイ・ベルソンはブラシの至芸と強靭なバスドラ、メリハリの効いたスティックさばきが流石の名人! アドリブに専心する他の3人をがっちりと支えながら、同時に意地悪く煽る部分にもニンマリとさせられます。
そしてここでもジョー・パスが何気なく凄いです!
A-4 Prelude To A Kiss
これはお馴染み、デューク・エリントンの代表作という甘美なバラードの決定版♪♪~♪ 同楽団ではジョニー・ホッジス(as) の名演が歴史になっていますが、ここでは作者本人のピアノが良い味だしまくり♪♪~♪
メロディとコードの魔法を解き明かすかのような味わい深さが最高ですから、ジョー・パスも極みつきのギターを聞かせてくれますし、レイ・ブラウンの小技の冴えも素晴らしいと思います。
B-1 Love You Madly
これもデューク・エリントン的な、如何にもの名曲ですが、小編成の演奏としてはオスカー・ピーターソンの名盤「シェークスピア・フェスティバル (Verve)」に収録のバージョンが決定版だと、私は思います。
ですから、そこで素晴らしいベースを聞かせていたレイ・ブラウンにしても、俺に任せろ!
繊細にして豪胆、歌心とエグイばかりのジャズビートが完全融合のベースワークにはデューク・エリントンも感服したのか、本当に最高のピアノで応えていますし、ジョー・パスやルイ・ベルソンにとっても同じ気持ちなのでしょう、このアルバムの中でも特に良い雰囲気が横溢した、実にハートウォームな演奏か楽しめます。
B-2 Just Squeeze Me
そして前曲の良いムードが見事に継承され、さらにジャズの素晴らしさが徹底的に追求された名演が続きます。
緩やかなジャズのピートはしなやかにして力強く、なんとも怠惰な休日の午後のような主題が、大人のお洒落で演じられていく快感は、まさに至福♪♪~♪
各人のアドリブも流石に名手の証を立派に果たしていますが、それよりも全体のバンドアンサンブルのナチュラルな感性にシビレます。
B-3 Everything But You
あまり有名では無い曲ですが、聴けば一発、まさにデューク・エリントンというリフが耳に馴染んでいることでしょう。なにしろこれは、後に様々にフェイクされてモダンジャズの中核を成したと思われるほどですから!
で、ここではレイ・ブラウンのベースが、実に奔放! ですからデューク・エリントンのピアノも大ハッスルというか、とてもシンプルに正統派ジャズの本領を聞かせてくれますし、ジョー・パスのリラックスしたアドリブやルイ・ベルソンの楽しいドラミングもあって、これがアルバムの締め括りにはジャストミート♪♪~♪
ということで、和みと緊張、自己主張と協調のバランスが実に秀逸な作品だと思います。
参加メンバーの中では、偉大なるデューク・エリントンが雲上人でありながら、やはりカルテットの一員としての役割が皆が平等だったのでしょう。お互いのリスペクトが滲み出た雰囲気が、聴いているだけでジンワリと伝わってきます。
ちなみにデューク・エリントンとレイ・ブラウンは、これに先立つ約1ヵ月ほど前に、やはり同レーベルにデュオの名作を吹きこんでいますから、コンビネーションはさらに鉄壁! ですからジョー・パスが流麗にギターを歌わせ、ルイ・ベルソンがリズムとビートの楽しさを押し出すのもムベなるかなです。
地味なアルバムジャケットですが、中身は超一級品として、末長く愛聴出来る作品だと信じています。