■Oscar Peterson Trio + One (Mercury)
ジャケットをご覧なれば、ここでの「+ One」がクラーク・テリー!
この人は大変な実力者で、デューク・エリントン楽団の看板を務めていたこともありますし、マイルス・デイビスに影響を与えたとか、あるいはセロニアス・モンクと共演レコーディングをやっても圧倒的な存在感を示してしまったか、さらに自己のビックバンドを率いて活動していたこともあるという、そのわりにはイマイチ、我が国では人気がありません。
そのあたりは本国でも同様だったらしく、それを嘆いたオスカー・ピーターソンの熱望によって、この共演アルバムが作られたという真相もあるようです。
録音は1964年8月17日、メンバーはオスカー・ピーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、エド・シグペン(ds) という、ご存じ「黄金のトリオ」にクラーク・テリー(tp,flh,vo) が客演したカルテット♪♪~♪ ちなみにこれは、オスカー・ピーターソンがヴァーヴからマーキュリーへと移籍した最初の作品と言われています。
A-1 Brotherhood Of Man
初っ端からオトボケファンキーなクラーク・テリーのトランペットが印象的ですし、続くオスカー・ピーターソンの唸り声もしぶとい、実に強烈なアドリブが既に最高です。あぁ、このアップテンポでグルーヴィなノリこそが、モダンジャズ最高の楽しみですねっ♪♪~♪
そしていよいよ本領を発揮するクラーク・テリーのラッパの響きも絶好調! 強烈なハイノートからエグイばかりのフレーズ展開は痛烈にファンキーです。
バンドとしての纏まりも素晴らしく、各人の至芸に酔わされてしまいますよ。短い演奏ですが、まさにアルバム冒頭には、これしか無い!
A-2 Jim
小粋な歌物スタンダードをハートウォームに展開していくオスカー・ピーターソンのトリオが実に良い雰囲気を作り出すテーマ部分から、本当に和んでしまいます。適度にファンキーで歌心優先主義のメロディフェイクは、流石は名手の証でしょう。
そしてミュートトランペットとフリューゲルホーンを持ちかえで交互に吹き分けるクラーク・テリーが十八番の妙技には、ジャズを聴く喜びがいっぱい♪♪~♪ これは左右の手に各楽器を持ち、ワンフレーズ毎に瞬時の吹き替えという、なかなかエンタメ系の技なんですが、決してお遊びではなく、リアルファイトです。
それはここでの歌心のあるアドリブを聴けば納得でしょう。ミュートがマイルス・デイビスの元ネタであるという事実にも、嬉しくなりますよ。
A-3 Blues For Smedley
オスカー・ピーターソンのオリジナルというファンキーなブルースには、クラーク・テリーのオトボケミュートがジャストミートの快演です。とにくかテーマアンサンブルからアドリブに入っていくところで、既にジャズの楽しさが横溢ですよ。クラーク・テリーの肉声を活かしたラッパの響きは、決して悪ふざけだとは思いません。
そしてオスカー・ピーターソンのアドリブが、これぞ真髄の「黄金のトリオ」でしょうねっ! 落ち着いたレイ・ブラウンの4ビートウォーキングにタイミングが素晴らしいエド・シグペンのドラミングが、全く素晴らしいと思います。
メンバーの凄い実力がしっかりと記録された、これも名演でしょうねぇ~♪
A-4 Roundalay
ちょっと神妙なイントロからジワジワと滲みだしてくるモダンジャズの濃厚なムードは、ブルーノートあたりの新主流派のイメージさえ漂う隠れ名演です。とにかくクラーク・テリーの温故知新なプレイが最高ですよ。フレディ・ハバードやリー・モーガンでさえ、このファンキーで静謐な表現は、手の届かない世界じゃないでしょうか。
そしてオスカー・ピーターソンがじっくり展開されるバンドのグルーヴに逆らうように、強烈な早弾きと強引なスクランブル! それに呼応して楽々と山場を作ってしまうドラムスとベースのコンビネーションも強い印象を残します。特にレイ・ブラウンのペースワークが強烈に前衛ですよっ!
聴くほどに、このメンバーの実力とヤバい世界に圧倒されると思いますが、それは難しさよりも、楽しさが優先されているあたり、特筆物です。
A-5 Mumbies
前曲のシリアスムードから一転、これもクラーク・テリーがウリにしている、言語明瞭なれど意味不明という独特のボーカルが楽しすぎます。
これは文章よりも、とにかく聴いていただくしかない至芸なんですが、しいて言えばタモリのハナモゲラ語の元ネタとでも申しましょうか♪♪~♪ ここでは軽いゴスペル調も心地良い、実にスイングしまくった演奏で、オスカー・ピーターソン以下のトリオもノリノリですよ。
B-1 Mack The Knife
ジャズ者ならば皆、心ウキウキのスタンダード曲ですから、このメンバーの演奏にも抜かりはありません。絶妙のドライヴ感がたまらないオスカー・ピーターソンのイントロから、クラーク・テリーのミュートトランペットが最高のメロディフェイクを聞かせれば、ツボを押さえたレイ・ブラウンのペースワーク、そしてエド・シグペンが素晴らしいドラミングで、がっちり脇を固めていきます。
既に述べたようにクラーク・テリーのミュートはマイルス・デイビスに影響を与えたことが明瞭ですし、途中では十八番の駆け足スタイルも鮮やか♪♪~♪ そして終盤でのオスカー・ピーターソンとのコンビネーションも白眉だと思います。
B-2 They Didn't Believe Me
相当にシブイ雰囲気のスタンダード曲ですが、初っ端から華麗なオスカー・ピーターソンのピアノがスローテンポで美しくメロディをフェイクしてくれるだけで、なんか幸せな気分になりますねぇ~♪
そして途中から寄り添ってくるベースとドラムスに乗っかる感じで、実に素直にメロディを吹いてくれるクラーク・テリーのフリューゲルホーンの美しさ! この感情表現の奥深さには完全降伏です。
決して派手なところが無いのに、これほど秀麗な演奏はないと思えます。
B-3 Squeaky's Blues
これもバンドメンバー各人が秘術を尽くした即興のブルース演奏!
繊細にして躍動的なクラーク・テリーのミュートトランペットが素晴らしく、途中では十八番のマーブルチョコレートのフレーズも出しまくり♪♪~♪
またエド・シグペンのタイトにスイングするドラミングが、もう最高! ですからオスカー・ピーターソンも豪快なドライヴ感に徹した物凄さですし、土台を固めるレイ・ブラウンの奮闘も流石だと思います。
これ、その現場に居たら歓喜悶絶で、失神寸前でしょうね。
B-4 I Want A Little Girl
そして一転、これは私の大好きな演奏で、温故知新の極みつき演じるクラーク・テリーのラッパの響きが、実に琴線にふれまくりのメロディしか吹かないのです。
ゆったりとしたテンポながら、相当に強いグルーヴがファンキーな味わいを醸し出していますし、オスカー・ピーターソンもじっくりと構えて熱い心情吐露!
ですからラストテーマへと繋げていくクラーク・テリーの匠の技もイヤミ無く、大団円のハイノートが痛烈にヒットして、あぁ、良いなぁ~~~♪
B-5 Incoherent Blues
オーラスはA面ラストを飾っていたクラーク・テリー流儀のハナモゲラ語が、スローブルースで楽しめるという、実に味わいのボーカル曲です。
この、オトボケなフィーリングがマジに凄いという世界は、クラーク・テリーを聴く楽しみのひつでしょうねっ♪♪~♪ パックのリズム隊が相当に真剣なのが、かえって不思議な可笑しみなのでした。
ということで、これも名盤の中の大名盤! 特にクラーク・テリーの諸作中では一番に聴き易く、楽しいアルバムだと思います。
もちろんオスカー・ピーターソンにとっても代表作でしょうし、円熟していた「黄金のトリオ」の絶頂期が記録されたセッションでもあります。とにかくゲストを加えても、バンドの一体感が最高のコンビネーションで輝きまくっているのです。
メッチャクチャに不景気の新年度スタートではありますが、こういう屈託のないスイング感こそが、今の世相や仕事には必須だと、心に誓うのでした。