OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

デクスターの上り調子

2009-04-21 14:39:16 | Jazz

The Chase / Dexter Gordon (Dial / Spotlite)

元祖モダンジャズのビバップは、一部の尖鋭的な黒人ミュージシャンによって、ニューヨークのクラブで、それも営業時間外に生み出されたそうですから、所謂アングラの黒人音楽ということで、そんなものをリアルタイムで楽しむファンなんてものは、相当にスノッブな人達だったと思います。

もちろんそれは白人が中心だったでしょう。なにしろ前述したクラブには黒人なんて入れないのが当時の世相でしたし、そもそも音楽産業が白人によって主導されていたのです。

そんな事情ですから、ビバップが新しくて凄いと気がついた業界にあっても、それを積極的にレコーディングしていく会社は、やっぱりインディーズでしたし、中でも中心人物のチャーリー・パーカーと逸早く契約し、その全盛期を記録したダイアルレコードの功績は計り知れないものがあります。

そして付随して記録されたビバップど真ん中の演奏もまた、素晴らしいものばかり!

本日ご紹介のアルバムは、そうした中からデクスター・ゴードンの当時のSP音源を復刻したアナログLPですが、これが編纂された当時のジャズ業界はモダンジャズがフリーやクロスオーバーに毒され、まさに混迷を極めていた1970年代ということで、実はその頃から活発になっていたネオバップと呼ばれるハードバップリバイバルを根底から支えた良い仕事でもありました。

で、このアルバムは当然ながら短いSP音源を纏めたものですから、様々なバンドによる演奏が集められています。

 A-1 The Chase (1947年6月12日録音)
 A-2 The Chase (1947年6月12日録音)
 A-3 Mischievous Lady (1947年6月5日録音)
 A-4 Lullaby In Rhythm (1947年6月5日録音)
 A-5 Horning In (1947年12月4日録音)
 B-1 Chromatic Aberration (1947年6月12日録音)
 B-2 It's The Talk Of Town (1947年6月12日録音)
 B-3 Blues Bikini (1947年6月12日録音)
 B-4 Ghost Of A Chance (1947年12月4日録音)
 B-5 Sweet And Lovely (1947年12月4日録音)
 B-6 The Duel (1947年12月4日録音)

1947年6月5日 / Dexter Gordon Quintet
 A-3 Mischievous Lady
 A-4 Lullaby In Rhythm

 メンバーはデクスター・ゴードン(ts)、メルバ・リストン(tb)、チャールズ・フォックス(p)、レッド・カレンダー(b)、チャック・トンプソン(ds) という、なかなか素敵なバンドになっています。特にトロンボーンのメルバ・リストンは当時から注目されていた女性プレイヤーであり、またドラマーのチャック・トンプソンは後にハンプトン・ホーズが全盛期のレギュラートリオで有名になるわけですが、すでにこの当時から西海岸ではトップの存在だったと思われます。
 そしてデクスター・ゴードンは既に様々なバンドに加入し、全米各地で高い評価を得ていた新進気鋭であり、その頃にはチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスビー、パド・パウエルという超一流メンバーとのレコーティングも残していましたから、ようやく出身地のロスに戻ってきたところを西海岸が拠点のダイアルレコードが契約したのも当然が必然でした。つまりレーベルオーナーの長年の願いが叶ったセッションということで、バンドも気合いが入った大熱演!
 と書きたいところですが、実はこの頃からデクスター・ゴードンは悪いクスリにどっぷり……。この日の調子も決して良くなかったと言われているとおり、通常は4曲を録音するのが当時の慣習だったところを、わずか2曲でセッションを終了させているのは、その所為だと思われます。
 しかし如何にもデクスター・ゴードンらしいオリジナル曲の「Mischievous Lady」では、堂々としたテナーサックスの存在感が圧倒的に素晴らしく、ここで聞かれるミディアムテンポのグルーヴは永遠に不滅でしょう。またメルバ・リストンのトロンボーンは、知らなければ女性だとは思えない力強さがあります。ちなみに曲タイトルからして、この「Mischievous Lady」はメルバ・リストンへ捧げられているのでしょうか?
 そしてスタンダード曲の「Lullaby In Rhythm」は対位法を使ったテーマアンサンブルのアレンジが、ビバップから一歩先んじた雰囲気で感度良好♪♪~♪ デクスター・ゴードンのアドリブも有名曲メロディの引用という得意技が頻出していますし、ノリノリの楽しさが最高です。

1947年6月12日 / Dexter Gordon & Wardell Gray Quintet
 A-1 The Chase (false start)
 A-2 The Chase

 これが歴史に残るテナーバトルの大熱演!
 メンバーはデクスター・ゴードン(ts) とワーデル・グレイ(ts) の二枚看板にジミー・バン(p)、レッド・カレンダー(b)、チャック・トンプソン(ds) という強靭なリズム隊が参加していますが、彼等は当時、ロスでは人気のバトルチームでした。このアルバムの裏ジャケットの解説では、ダイアルレコードのオーナーだったロス・ラッセルの証言が熱く語られているとおり、それをきちんとスタジオ録音で残してくれた功績は偉業としか言えません。
 しかもマスターテイクとなった「A-2」は、当時の常識外という7分近い演奏時間! これをSPの両面に分けて発売したわけですが、となると当然、レコーディングにはテープが使われていた証となるのでしょうか?
 肝心の演奏は、まず最初の失敗スタートテイクでスタジオの雰囲気が楽しめるというミソがニクイばかり♪♪~♪ 演奏のムードを指示するデクスター・ゴードンらしき人物の声が、なかなかシブイです。
 そしてついに始まるマスターテイクでは、既にイントロからテーマ部分で熱気が充満していて、実に良い感じです。アドリブパートでは先発のデクスター・ゴードンがギスギスした音色のハードなフレーズなのに対し、続くワーデル・グレイは滑らかなフレーズとソフトな音色で応戦するという両者の個性も際立っています♪♪~♪ もちろんそこには演奏が進むにつれ、バトルのアドリブ小節が短くなるという「お約束」が用意されていますから、本当に熱くなりますよっ!
 当時のダイアルレコードでは、これが発売直後から爆発的な人気盤となり、最高の売上を記録したというのも納得出来ます。

同年同日 / Dexter Gordon Quartet
 B-1 Chromatic Aberration
 B-2 It's The Talk Of Town
 B-3 Blues Bikini

 これは「The Chase」と同じ日に行われたセッションですが、前述のメンバーからワーデル・グレイが抜けたワンホーン演奏ということで、絶好調のデクスター・ゴードンが楽しめます。
 まず「Chromatic Aberration」は何とも凄い曲タイトルどおり、相当に複雑なコードを使っているであろう、デクスター・ゴードンのオリジナルですが、作者本人のテナーサックスを筆頭に、なかなかリラックスした仕上がりです。特にラストが素敵ですねぇ~♪
 そして続く「It's The Talk Of Town」は味わい深いスタンダードの歌物曲ということで、デクスター・ゴードンが自身のキャリアの中でも畢生の名演じゃないでしょうか。ふくよかなテナーサックスの鳴り、そして歌詞を知らないバラードは吹かないとされるデクスター・ゴードンの歌心は絶品♪♪~♪ 本当に何時までも聴いていたいです。
 さらに即興的なブルースの「Blues Bikini」では、ハードボイルドなコブシが実に心地良いテナーサックスの名人芸! タフで懐の深い表現が最高だと思います。

1947年12月4日 / Dexter Gordon & Teddy Edwards Quintet
 A-5 Horning In
 B-4 Ghost Of A Chance
 B-5 Sweet And Lovely
 B-6 The Duel

 前述した「The Chase」のヒットから続篇として企画されたのが、このセッション!
 メンバーはデクスター・ゴードン(ts)、ジミー・ロウルズ(p)、レッド・カレンダー(b)、ロイ・ポーター(ds) というカルテットに、ワーデル・グレイの代役として参加したのが、当時の西海岸では注目株だったテティ・エドワーズです。
 そのテナーバトル演奏は2テイクが完成され、7分半にも及ぶ長いテイクが「Horning In」、一方は短いといっても5分半ほどの「The Duel」、その二通りの曲として発売されたようです。
 肝心の仕上がりは、残念ながら名演の「The Chase」には及ばないと個人的には思っていますが、しかし全篇に横溢するガサツな熱気とか、リズム隊の好演は魅力的です。ハードな音色を聞かせるのがデクスター・ゴードン、やや灰色のトーンで遮二無二ブローしていくのがテディ・エドワーズという聞き分けも容易だと思いますが、アドリブの閃きという点ではデクスター・ゴードンに軍配があがるのではないでしょうか。
 その意味で、デクスター・ゴードンがワンホーン演奏の真髄を聞かせてくれる「Ghost Of A Chance」と「Sweet And Lovely」は、歌物スタンダード曲のモダンジャズ的解釈として最高峰! 絶品の歌心と繊細なメロディフェィクは力強くて、さらに優しさが滲み出た決定的なものだと思います。

ということで、何れもSP時代の復刻演奏ですから、元々のノイズが針音と連動して古臭く聞こえるかもしれません。しかし演じられているものは完全なる本物! そう断言して異論は無いと信じています。

残念ながら、これほど素晴らしいジャズを聞かせていたデクスター・ゴードンは、既に述べたように、この頃から違法なクスリの悪癖から逃れられず、1950年代後半のモダンジャズにとっては最高の時代に活躍出来ませんでした。

もちろん復帰後の演奏も唯一無二の素晴らしさで、さらに人生の機微を表現するが如き存在感は偉大だと思います。しかしここで聞かれる上昇期の姿は眩いばかり! それゆえに後の逼塞期が悔やまれるわけですから、なおさらにこのアルバムを私は愛聴しています。

ちなみにここには一応、オリジナルのマスターテイクなるものが収められていますが、後年になって発掘発売された別テイクも、当然ながら素晴らしい世界遺産! おそらくCDには上手く纏められているはずですから、存分にお楽しみくださいませ。

冒頭で述べたネオバップでは、特に人気が高かったデクスター・ゴードンは、最初っから凄い人だったと、聴く度に感動させられます。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする