OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

なにがなんでもズート・シムズ

2009-04-11 09:54:40 | Jazz

Choice / Zoot Sims (Pacific Jazz)

音楽の世界には海賊盤というジャンルがあって、それは非公式レコーディングを第三者が勝手に発売して利益を得ている違法なブツですが、もちろんファンにはとっては「お宝」ですから、一概に否定する気にはなれません。実際、サイケおやじは、そんな音源にも手を出しては一喜一憂しています。

そして中には詐欺まがいのブツも確かにあるんですが、そのあたりは立派な表舞台のレコード会社にだってあるわけで、例えば本日ご紹介のアルバムなんか、その最たるもんだと一時は憤慨しつつ、実は存分に楽しめる1枚だと思います。

まずA面はジェリー・マリガンの名盤「California Concerts」と同じ時の録音、またB面には女性歌手のアーニー・ロスが1959年に吹き込んだ歌伴セッションから、そのバンドだけの演奏を収録していますが、結論から言えば元々の録音を編集したり、再収録したりという些かあざとい部分が目立ちます。

しかしアドリブプレイヤーとしてのズート・シムズの実力と名演は存分に楽しめるという、まさにタイトルどおりのチョイスが面映ゆいのです。

ちなみに参加メンバーはズート・シムズ(ts)、ジェリー・マリガン(bs,p)、ボブ・ブルック・マイヤー(v-tb,p)、ジョー・アードレイ(tp)、レッド・ミッチェル(b)、ラリー・バンカー(ds) というセクステットのA面が1954年12月のライブレコーティング♪♪~♪ またB面は1959年3月の録音でズート・シムズ(ts)、ジム・ホール(g)、ラス・フリーマン(p)、モンティ・バドウィグ(b)、メル・ルイス(ds)、ビリー・ビーン(g) という凄い面々ですが、曲毎のバンド編成は原盤裏ジャケットに明記されています。

A-1 I'll Remember April
 既に述べたようにA面は「California Concerts」には未採用となったアウトテイクとはいえ、流石は名盤誕生時の充実度という、これも劣らぬ快演だと思います。
 曲はお馴染みのスタンダードですから、良く知られたメロディがズート・シムズの素晴らしいフェイクとアドリブによって、まさに桃源郷のモダンジャズ♪♪~♪ ちなみに弾みまくったピアノはボブ・ブルックマイヤーで、ジェリー・マリガンとジョー・アードレイが抜けたワンホーン演奏というのも高得点です。
 あぁ、このスイング感と豊かな歌心ばっかりのアドリブフレーズ♪♪~♪ これがズート・シムズの真骨頂でしょうねぇ~♪ グイノリのペースと気持ちの良いビートを刻むドラムスも良い感じで、実はちょいと感じられるテープ編集の疑念も晴れるでしょう。

A-2 Flamingo
 しかしこれは、詐欺じゃねぇ~のかっ!?
 と、思わず絶叫したくなるトラックです。
 演奏に参加しているのは前述の6人組なんですが、せっかくズート・シムズが夢みるようにテーマメロディを吹奏してくれるのに、それだけしか無いんですよ……。
 つまりテーマが終わったところで、残酷にもテープをバッサリと切り捨て、拍手を被せたという無慈悲な編集が??? う~ん……。
 ただし、それゆえにズート・シムズのテーマ演奏が尚更に眩いといえば、自分に言い聞かせる言い訳のようなせつなさです。

A-3 There Will Never Be Another You
 そういうモヤモヤした気分を晴らしてくれるのが、このスタンダード曲のスイングしまくった快演! ここではジョー・アードレイが抜けたクインテットで、ピアノはジェリー・マリガンが弾いていますが、まずはボブ・ブルックマイヤーのバルブトロンボーンがリードするテーマメロディに絡んでいくズート・シムズという素敵な構図、さらに明快にドライブしていくリズムコンビの素晴らしさにシビレます♪♪~♪
 もちろんアドリブパートは歌心がいっぱい♪♪~♪ 特にズート・シムズは全く尽きることのない千変万化のフレーズを乱れ打ちですよ。ノリの良さも抜群ですが、それにしてもラリー・バンカーのブラシの気持ち良さ、そしてレッド・メッチェルの骨太4ビートは、ウエストコーストジャズが最高の瞬間だと思います。
 ちなみにここでもテープの編集が施されているようですが、それほど気にはならないでしょう。

A-4 Red Door
 しかし、またまたこれも詐欺的なトラックで、なんと前述した名盤「」からの再収録という演奏なんですねぇ。まあ、名演には違いないのですが、なんだかなぁ……。
 という苦言や嘆きは一先ず棚上げにして、ズート・シムズのテナーサックスとジェリー・マリガンのバリトンサックスが、まさに歌心の競演、というよりも饗宴と書くべきでしょうか、そのアドリブの最高な雰囲気はジャズを聴く喜びに他になりません♪♪~♪
 浮かれたリズムとビートの楽しさも天下逸品です。

B-1 You're Driving Me Crazy
 ここからのB面は既に述べたように、アーニー・ロスの歌伴セッションて集まったバンドだけによる演奏で、基本はズート・シムズのワンホーンですから、歌心と快適なジャズビートは言わずもがな♪♪~♪
 まず、この曲にだけ参加したギタリストのビリー・ビーンがイブシ銀のイントロから、ズート・シムズが名人芸のメロディフェイクというテーマ部分だけで、気分がジャズにどっぶり惹きこまれます。ラス・フリーマンのピアノとビリー・ビーンのリズムギターのコンビネーションも絶妙の素晴らしさですし、ドラムスとベースのリラックスしたスイング感も最高の極みじゃないでしょうか。
 そしてズート・シムズのアドリブが絶品の歌を演じれば、ラス・フリーマンがファンキー味をヒタ隠しというピアノで、憎めません♪♪~♪
 いゃ~、ジャズって、本当にイカシていますねぇ~♪

B-2 Brushes
 タイトルどおり、メル・ルイスの素晴らしいブラシをメインにしたミディアムテンポのブルースということで、全員のリラックスした至芸がたまりません。ちなみにここでのギターはジム・ホールが弾いています。
 気になるズート・シムズは思わせぶりなスタートからブルースな味わいが深く、またラス・フリーマンのピアノがファンキー道を歩んで行きますから、ジワジワと黒っぽさが滲む演奏になっています。
 そして主役のメル・ルイスがブラシによるドラムソロ♪♪~♪ これが地味ながら滋味豊という、ほとんど洒落になっていない生真面目な雰囲気です。つまり賛否両論だと思うのですが、しかしジャズの王道には違いないと思います。
 
B-3 Choice Blues
 オーラスは、これも即興的なブルースのハードにドライヴしたモダンスイングの大快演! 初っ端から快調にブッ飛ばすズート・シムズのテナーサックスからは、こちらが望むフレーズとノリが連続射出され、またラス・フリーマンの白人ファンキーなピアノが全開です。明瞭にして懐の深い、実におおらかに4ビートを作り出すバンド全体の雰囲気も楽しいですねぇ。
 ちなみにギターは原盤解説によればジム・ホールになっていますが、アドリブソロのペラペラな音色は??? 何時もの膨らみのある個性が聞かれませんが、これ如何に!?

ということで、些かの苦言や我儘も書いてしまいましたが、ズート・シムズの素晴らしい個性を楽しむには最適のアルバムかもしれません。実はこんな内部事情を書いてしまったことを後悔するほどです。何も知らずに初めて聴けば、ズート・シムズというテナーサックス奏者の魅力に完全KOされること請け合いだと思います。

そして、こういう窮余の一策っぽいアルバムを作ってまでもズート・シムズを自社のカタログに入れたかった制作者側の熱意といっていいのでしょうか? そういう心意気も強く感じるところです。

それがジャズの魅力のひとつかもしれませんね。

コメント
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