OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

名盤今昔

2006-08-01 19:25:39 | Weblog

何だか仕事の予定が狂いっぱなしで、地獄になってきました。

アテとフンドシは向うから外れるとは、昔の人の言い伝えではありますが……。

ということで、本日は苦境に咲いた花一輪か――

Something For Lester / Ray Brown (Contemporary)

フュージョンの全盛期=1970年代後半の日本のジャズ喫茶では、逆に闇雲に4ピート物の新譜が歓迎されました。

それが新人であれ、ベテラン勢であれ、とにかく王道の4ビートを演じていれば良かった時代とも言えます。そこには妙な矛盾があるのは確かですが、「ジャズ喫茶」という独自の文化がある日本においては、見事に成立していた論理です。

で、実はその中から、新しい名盤と言うか、今日、新定番とされるアルバムが続々と生まれたのです。それは1980年代からの「新伝承派」ブームによる4ビートの本格的復権前の出来事として、忘れてはならないと思います。

つまりフュージョンがあって、初めて人気を集めた王道ジャズの作品があったという! もう少し具体的に言わせていただければ、モダンジャズ黄金期ならば、それほどの評価も得られなかったのではないか? という疑念がつきまとう……。

まあ、それはそれとして、確かに素晴らしい王道盤が、本日の1枚です。

録音は1977年6月22~24日、メンバーはシダー・ウォルトン(p)、レイ・ブラウン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という本格派ピアノトリオです――

A-1 Ojos De Rojo
 エルビン・ジョーンズのポリリズム入りラテンビートが炸裂する中、レイ・ブラウンが骨太のペースを響かせ、シダー・ウォルトンが哀愁のテーマを弾き綴るという、当に王道路線の演奏です。
 アドリブ先発はこの曲の作者であるシダー・ウォルトンが、流石に曲の構造とキモをしっかり掴んだ好演を聴かせますが、背後で暴れるレイ・ブラウンとエルビン・ジョーンズばかりに耳が行くのも、また事実です。
 実はこのアルバムが出た当時、私は大した期待もしていなかったのですが、それは失礼ながら、シダー・ウォルトンの参加ゆえのことでした。なんとなく、事勿れ主義に走っているのではないか……? という諦めムードが先に立っていたのです。
 ところが、それは完全に私の先入観念でした。グリグリと突っ込んで来るベースとドラムス、必死にそれに対抗するピアノという、理想的なトリオ演奏が現出されていたのですから、私は素直に脱帽する他はありませんでした。
 そして、フッと気がつくと、これはレイ・ブラウンのリーダー盤だったという、いまさらながらのオチがついていたのです。

A-2 Slippery
 グッと重いビートで演じられるゴスペルジャズとでも申しましょうか、ブルースフィーリングやゴスペル味が全開した、黒~い演奏です。
 シダー・ウォルトンのピアノもブロックコードを交えてガンガンやっていますが、不思議なことに、どこかしら淡白な雰囲気が漂うのは???
 こういう曲調ならば、もっとギトギトに演じて欲しいのですがぁ~!
 と嘆いていると、演奏は何時しかレイ・ブラウンの超絶技巧が披露されているのです。う~ん、やっぱり軽さが決め手なのか……? ちなみに作曲はレイ・ブラウンですが……。

A-3 Something In Common
 シダー・ウォルトンが作った不思議系のハードバップです。
 その演奏は、ほとんどがトリオの3者による絡みで進行し、エルビン・ジョーンズはブラシとステックの併用ですが、中盤からはグッとテンポ上げ、シダー・ウォルトンが十八番の展開に入ります。
 それは歌心があるんだか、無いんだか? という妥協しないハードさが特徴です。そしてそこが逆にジャズ者の琴線に触れるのですねぇ~♪

A-4 Love Walked In
 ピアノトリオには付物の有名ジャズスタンダード曲です。
 ここでは軽く演奏しているように見せかけて、内実はハードにスイングしているあたりが、大きな魅力です。とにかくグイグイ演奏を引張るレイ・ブラウンのウォーキングベースが圧巻!

B-1 Georgia On My Mind
 問答無用の有名曲で、とにかく元メロが良いですから、哀愁と泣きを含んだ展開はお約束です。
 もちろんここではスローな出だしから、じっくりとテーマを熟成させていくレイ・ブラウンのベースが驚異的な出来! そしていきなりテンポを上げて突っ走るシダー・ウォルトンにエルビン・ジョーンズが烈しく襲い掛かっていくという、4ビートジャズの醍醐味が味わえますし、クライマックスは長~いドラムソロです。

B-2 Little Girl Blue
 ちょっとオスカー・ピーターソン時代のレイ・ブラウンを彷彿とさせる演奏です。それはアレンジに顕著ですし、シダー・ウォルトンも何とかスケールの大きなプレイをしようと奮闘していますが……。
 あぁ、これがフィニアス・ニューボーンならばなぁ、なんて不遜なことが心を過ぎってしまうのでした。

B-3 Sister Sadie
 オーラスはホレス・シルバーの人気曲に挑戦した大ハードバップ大会です。
 ただしシダー・ウォルトンのピアノに、ややアクがないのが残念……。

ということで、今聴くと、何となく物足りない雰囲気が漂っている作品なのですが、リアルタイムではジャズ喫茶を中心に大ヒット! ここでの演奏展開を模倣したピアノトリオが続々と現れていきます。

特にシダー・ウォルトンは、元々、実力派としてリーダー盤も出していた人なんですが、ここでの演奏で確実にランクが上がったと思います。そのスタイルがコピーされるという認められ方も、ジャズ特有の現象でしょう。

しかし私は、これがシダー・ウォルトンではなく、フィニアス・ニューボーンだったら……? という願望と妄想を消すことが出来ません。このアルバムを製作したコンテンポラリー・レーベルには、レイ・ブラウン&エルビン・ジョーンズが件の天才ピアニストと共演した傑作盤が残されているのですから、もしかしたらレイ・ブラウンは、ここでもその再現を狙ったのでは……?

と、まあ、シダー・ウォルトンには失礼極まりない文章になりましたが、実際、これはフュージョン全盛期だからこそ、持て囃された盤ではないか? という疑念をどうしても払拭出来ない私です。

悪いアルバムではないのですが、今日聴いてみたら、どうしてもリアルタイムでの感動が蘇えらなかったということで、本日は暴言ご容赦下さい。

コメント
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