メチャクチャに暑い1日でした。仕事も様々にハードな局面が多く、甲子園球場の高校野球も乱打戦ばかりの荒れ模様でしたねっ! 若さって素晴らしいです。
なんか台風も接近中らしいですし、明日からは、またまた厳しい日が続きそうということで、本日はハードな1枚を――
■Stan Getz Live At The Left Bank (Hyene)
発掘音源には、何時も心躍らされてしまいます。特に主役が故人の場合は、もう心から手を合わせたくなるようなブツが出てきたりしますから、ちょっと複雑な心境でもあるんですが……。
この音源はアメリカはボルチモアの有名ライブハウス=レフトバンクに残されていたライブテープからの発掘です。ちなみにこの店からの同趣向のブツとしては、過去にもリー・モーガン(tp)、ウィントン・ケリー(p)、フレディ・ハバード(tp) 等々の優良音源が出ていますので、このスタン・ゲッツ盤にも大いに期待したところです。
録音は1975年5月20日、メンバーはスタン・ゲッツ(ts) 以下、リッチー・バイラーク(p)、デイプ・ホランド(b)、ジャック・ディジョネット(ds) という、イケイケのリズム隊が参加しています――
01 Invitation
何ともジャズ者の琴線にふれる哀愁のテーマが魅力のスタンドード曲で、ジョン・コルトレーン(ts) やアル・ヘイグ(p)、そしてジョー・ヘンダーソン(ts) 等々の名演が残されていますので、スタン・ゲッツにも大いに期待してしまいます。
それはズバリ、天才による歌心の発露にですが、ここでは幾分テンポを速めながら、まずテーマのサビで思いっきり泣きます!
しかしアドリブパートでは暗中模索というか、モヤモヤしたものを膨らませつつ、何と自らのゲッツ節を封印するかのような歌心放棄の一本道です……。
なんとウェイン・ショーター(ts) 的なアプローチなんですねぇ……。
それでも少しずつ天才の片鱗というか、真髄を聞かせていくのは流石と言えば、そのとおり!
リズム隊も全く調子が出ておらず、スタン・ゲッツの一人舞台に終始した演奏です。
02 Untitled
モード全開! ノッケからアップテンポでブッ飛ばしですが、完全にアドリブ真っ向勝負の演奏です。そしてこういうハードな展開になると、自らもそれにノメリこんでいくスタン・ゲッツの物凄さが! もう地獄のようなフレーズの連続で、流石のイケイケ・リズム隊も押され気味です。
それでもリッチー・バイラークのソロパートになると、イキイキと自分達だけのノリを聞かせてくれるんですねぇ~♪ ジャック・ディジョネットはステックにブラシに千変万化の大活躍ですし、デイブ・ホランドは唯我独尊の一人旅ながら、ツッコミ所は心得たもので、このあたりは完全に1970年代ジャズの真髄です。
そういえば、この3人にデイヴ・リーブマン(ts,ss,fl) を加えた「ファースト・ヴィジット(Philips)」なんていう日本製作の名盤もありましたですねっ!
03 Spring Is Here
前曲の熱演で鳴り止まぬ拍手の中、スゥ~と始まる会心のバラード演奏です。もちろん主役のスタン・ゲッツは、もう天才の名を思うがままというメロディ展開の至芸を聞かせてくれます。
それは単に歌心なんてものでは無く、幻想的でありながらシャープな素直さという素晴らしさです。等と自分でも上手く表現出来ないもどかしさが、本当に情けないほどの名演だと思います。
そしてこれが本当に凄いのは、こんな名演が日常茶飯事という雰囲気ですねっ!
04 Litha
昔の子分だったチック・コリア(p) が書いた名曲です。
オリジナルは「スウィート・レイン(Verve)」というスタン・ゲッツ自身の名盤に入っていますが、複雑なリズムパターンを鮮やかにきり抜けていくアドリブがウリだったこの曲が、ここではどう料理されているかが聞き所と覚悟を決めていると、何とこれがウルトラ級の激しさでした!
なにしろリズム隊が容赦無い雰囲気で襲い掛かってきますから、スタン・ゲッツも油断ならない強烈なフレーズの連発です。甘さなんぞは、微塵もありません。あぁ、怖ろしや!
そしてフワッと突然の余韻を残してリズム隊に受け渡されるアドリブパートでは、まずリッチー・バイラークがチック・コリアも真っ青のモード節♪ デイブ・ホランド&ジャック・ディジョネットも鬼神のビートで波状攻撃です。
演奏はこの後、スタン・ゲッツが再び変幻自在の名人芸を聞かせつつ、テーマの変奏に移るのでした。最後のラテングルーヴも楽しいですねっ♪
05 Lucifer's Fall
ミディアムテンポのモード曲で、これもウェイン・ショーター風の曲調&展開になっています。
しかし中盤からテンポを上げての高速4ビートにしていますから、最後にはスタン・ゲッツだけのアドリブ地獄に落とされるという仕掛けです。つまりここでも甘さが無いのですねぇ……。凄いんですが、ちょっと疲れてきます。
06 My Foolish Heart
と嘆いていると、思わず唸るこの演奏が始まります。
原曲はビル・エバンス(p) の名演があまりにも有名なスタンダードですが、ここでのスタン・ゲッツは、当にビル・エバンスのテナーサックス的展開とでも申しましょうか、まず素晴らしいイントロをつけているリッチー・バイラークがビル・エバンスどっぷりで、憎めません。
肝心のスタン・ゲッツのテナーサックスはどこまでもディープに歌心を綴り、テーマに含まれている美旋律を徹底的に解明していくのですから、最高です♪
告白すれば、最近の私は朝の一番に、この演奏を鳴らしているほどです。
07 Fiesta
こうしてライブの現場をゲッツ色に染上げた後に演奏されるこの曲は、タイトルどおりに楽しいラテンジャズです。もちろん作曲はチック・コリアということで、スタン・ゲッツにも余裕というか安心感に浸りきって吹奏しているところがあり、それゆえに、やや気抜け気味ですが……。
リズム隊もルーズな雰囲気でレイドバックしており、これはこれで楽しいんですが、ここまでが緊張感と厳しさに満ちた演奏の連続でしたからねぇ……。
それでも所々にウェザー・リポートみたいなる瞬間があったりして、それなり発見と楽しさがあるのでした。
ということで、これはスタン・ゲッツの終りなき日常のひとコマ♪ まさか自分の没後に陽の目をみるなんてことは、考えていなかったと思われます。それゆえに自然体の演奏が楽しめるわけですが、この頃のスタン・ゲッツは何故かボサノバをやっていなかったというガチンコぶりが、嬉しいような哀しいような……。
録音もプライベート・レコーディングにしてはライン録りの優れものですし、演奏も厳しさがいっぱいですから、ハードなスタン・ゲッツがお気に入りの皆様ならば、聴いてみて下さいませ。