OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

追悼デューク・ジョーダン

2006-08-17 19:26:58 | Weblog

本日の甲子園も、熱かったですねぇ~!

こんな試合やってたら選手はもちろん、関係者の寿命は間違いなく縮んでいるんじゃないでしょうか。

真剣勝負の成せる業というか、地元の期待を背負っての意地と涙が、美しいものに昇華していますねぇ。

ということで、本日も色々な意味で熱い1枚を――

Barney / Barney Wilrn (仏RCA)

私の大好きなジャズピアニスト、デューク・ジョーダンの訃報に接しました。

この人の後半生は比較的恵まれたものだったと思いますが、若い頃からモダンジャズ創成の現場で第一線の活動をしていた割には、徐々に地味な活動に追いやられ、1960年代にはタクシーの運転手をしていたと言われています。

ご存知ように、それが好転したのが欧州録音の「フライト・トゥ・デンマーク」という大人気名盤の発売で、その寂寥感漂う演奏によって、忽ち多くの新しいファンを獲得したのです。

もちろん私もそのひとりで、すぐさまデューク・ジョーダンが残した録音を追いかけ始めたのですが、その実力に比して、まずリーダー盤が極端に少なく、また他のジャズメンと共演しているアルバムも少ない上に廃盤が多いという……。

ところが日本は素敵ですねっ♪ なにしろジャズ喫茶という文化がありますから、そこでデューク・ジョーダンを聴かせてくれと頼めば、けっこう珍しい盤にも出会うことが出来るのです。

本日の1枚も全くそれで、フランスの人気サックス奏者であるバルネ・ウィランをリーダーにしたジャムセッション物です。

録音は1959年4月24~25日、パリのサンジェルマン・クラプでのライブ盤で、メンバーはケニー・ドーハム(tp)、バルネ・ウィラン(ts)、デューク・ジョーダン(p)、ポール・ロベール(b)、ダニエル・ユメール(ds) という実力者揃い♪ 恐らくデューク・ジョーダンが「危険な関係」という、後に禍根を残す映画音楽の仕事で渡仏した頃の演奏だと思われますが、リアルタイムではそんな揉め事は知る由も無い、強烈なハードバップが展開されています――

A-1 Jordu
 デューク・ジョーダンが書いた代表的なハードバップ曲で、本人以外にも例えばクリフォード・ブラウン(tp) とか、夥しいカバーバージョンの名演が残されていますが、これこそ実は決定版という豪快な演奏になっています。
 黒~いテーマからアドリブ先発は、もちろんデューク・ジョーダンその人で、何とも言えない哀愁のフレーズが連発されます。そして注目すべきはその、うらぶれた様なピアノの音色です。
 実はこの音色は、前述の「フライト・トゥ・デンマーク」でも聞かれるもので、デューク・ジョーダンの特徴のひとつになっているのですが、ここでのライブでは置いてあるピアノがボロくて、こうなったと、私は思いこんでいたのです。
 しかし1970年代後半から続々と発売されるデューク・ジョーダンの録音は、ほとんどがこういう音色を基調にしていたのには、驚きました。ワザとこういう音色を出せるピアニストなんですかねぇ……。今でも疑問です。
 また音色と言えば、バルネ・ウィランの引き締まった逞しいテナーサックスの音も魅力があります。この人の基本スタイルはデクスター・ゴードン~ハンク・モブレー系の正統派ハードバップで、特にブッ飛んだフレーズを吹かなくてもリスナーを納得させてしまうところがウリなんですが、その秘密は「バルネ・ウィランだけの音色」だと思います。
 そしてケニー・ドーハムは、余裕の構えからの歌心とお約束のフレーズで場を盛り上げ、クライマックスはデューク・ジョーダンとダニエル・ユメールのソロ交換となるのでした。 

A-2 Lady Bird
 このアルバムのハイライト演奏です。
 曲はモダンジャズ創成者のひとりである天才作編曲家のタッド・ダメロンが書いたものなので、モダンジャズのアドリブが最高にやり易く出来ているようです。
 ここでもそのルールに素直に則った熱気溢れる演奏が展開されますが、デューク・ジョーダンにしてはアグレッシブなイントロからテーマに入るあたりで、いきなりモダンジャズ王道の楽しさがあります。
 ですからアドリブソロの先陣を切るバルネ・ウィランも油断がならない雰囲気で、慎重にフレーズを積み重ねていきますが、それが徐々に熱気を帯び、ハードパップのお手本のようなフレーズを連続放出してくれるのは楽しい限り♪ リズム隊の煽りもツボを外していません。
 そして続くケニー・ドーハムは、もちろん名手の本領発揮です。そのイブシ銀の音色と分かり易いフレーズの妙、さらに良い意味での安心感は流石です。
 こうして登場するデューク・ジョーダンは、当に生涯の名演ともいうべき最高のアドリブソロを展開してくれます。それは後年では聴くことの出来ない強烈なピアノタッチと張り切ったフレーズ、「泣き」と「哀切」が入り混じった絶妙の歌心、さらに思い切ったツッコミ! クライマックスでは感極まって、元ネタの「How High The Moon」まで弾いてしまうというノリノリですからねぇ~♪ 全く憎めないことを仕出かしてしまったデューク・ジョーダンに乾杯です!
 私はこの演奏、特にデューク・ジョーダンのアドリブフレーズは完全に覚えきって、不遜にもギターで演奏してしまうこともあります。もちろん完璧ではありませんので、ご容赦下さいませ。

B-1 Besame Mucho
 そしてB面に入っては、日本人が大好きなこの曲が待っています。なんか日本人向けに作ったかのような趣すらあるアルバムですね♪ もちろん演奏は期待を裏切っていません。
 まずデューク・ジョーダンが、この人にしか出来ない絶妙な「泣き」を含んだイントロを披露し、ラテンビートでケニー・ドーハムがテーマメロディをリードするあたりで、早くもグッときます。
 テンポも緩やかなので、その哀愁が一層滲み出るところも最高です。
 ところがアドリブパートでは強靭な4ビートが始まり、一転して力強いハードバップに方針転換! もちろん哀愁も増強されるのですから、たまりません。ケニー・ドーハムもその意図を大切にした丁寧な吹奏で、良いフレーズばかり聴かせてくれます。
 続くバルネ・ウィランは最初から倍テンポ狙いで、何となく若さを露呈したりもしますが、すぐに思い直して王道路線に復帰しますから、ご安心下さい。
 そしてデューク・ジョーダンは、少し調子が出ていないようにも聞こえますが、後半には甘さを排除したブロックコード弾き、さらに一転して「泣き」のフレーズを織り交ぜて山場を作ります。

B-2 Stablemates
 これもモダンジャズでは定番のハードバップ曲ですので、メンバー全員が息の合った快演を聴かせてくれます。
 ただしリラックスし過ぎという雰囲気も濃厚です。
 実はCD時代になってこの作品が復刻された時には、同時に録音された多くの未発表曲が公になったのですが、その中にはこれよりも良い演奏が確かに存在していますので、ちょっと???です。多分、アナログ盤ゆえの時間的制約の所為かもしれません。

ということで、これはハードバップの名盤と断言してしまいます。

オリジナルはフランス盤でしたが、幸いにも早い時期から日本盤が出ていましたので、多くのジャズ喫茶には常備してあったと思います。

そしてバブル期の日本では、ついにこのオリジナル盤が高値で取引されるようになり、私の知り合いのコレクターが大枚はたいて入手した時に聴かせていただいたのですが、失礼ながら音がイマイチ、薄くて拍子抜けした記憶があります。なにしろこのアルバムのカギは音色ですからねぇ……。

まあ聴くという姿勢からすれば、オリジナル盤も再発盤もCDも意味合いは同じなんですが、オリジナル盤に物凄く期待させられる魅力が、この盤には秘められていると思います。

そして最後に、デューク・ジョーダンに合掌です。

コメント (1)
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