勝負の世界には所謂「夢の対決」というものがあります。
そしてジャズの世界にも、これがあるんですが、するとジャズは勝負事なのか?
なんていう疑問も出てまいりますが、私にとって一番聴きたかったのが、キャノンボール・アダレイ(as) 対リー・モーガン(tp) でしょうか。残念ながら叶わぬ夢だったわけですが、それならばと期待したのが、このアルバムでした――
ベーシストのポール・チェンバースのリーダー盤ですが、私の狙いはキャノンボール・アダレイ対フレディ・ハバードというハッスル対決でした。なにしろキャノンボールは、ほとんどが弟のナット・アダレー(cor) を相方にした演奏ばかりですからねぇ~。せっかくの爆裂アルトサックスが、他のトランペット奏者とならばどうなんだろぅ? という疑問になかなか答えてくれないのです。
で、録音は1959年2月2&3日、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、キャノンボール・アダレイ(as)、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds)、そして1曲だけフィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) がジミー・コブと交代しています。
ちなみにメンツからして、これは当時のマイルス・デイビス(tp) のバンドからボス抜きセッションという趣が強く、なにしろデータ的には、もうひとつのボス抜き傑作盤「キャノンボール・イン・シカゴ(Mercury)」が録音された日でもありますから、ますます興味深々です――
A-1 Awful Mean (1959年2月3日録音)
ミディアムテンポのハードバップ・ブルースですが、初っ端からポール・チェンバースのベースを要にした展開の設定が抜群の上手さです。ここでのドラムスはフィリー・ジョーですが、簡素なテーマを導くワザは流石に上手く、キャノンボールのテーマ吹奏に続くアドリブパートでのウイントン・ケリーは、最初から、もう真っ黒なノリです。あぁ、このタメと飛跳ねが、死ぬほどファンキーなんですねぇ~♪ クライマックスでのブロックコード弾きに応えてフィリー・ジョーが入れるリムショットが、またまた最高です♪
そしていよいよ登場のキャノンボールは、最初のワンフレーズからファンキー節が全開です! もちろんその後は、猛烈なドライブ感で怖ろしいフレーズを吹きまくりですから、つい釣られてしまうリズム隊というわけで、倍テンポにツッコミそうになって自重する瞬間が妙に微笑ましくもあります。
演奏はこの後、バンドが一体となって盛り上がった後、ポール・チェンバースが得意のアルコ弾きとなりますが、それは好みの問題として、フィリー・ジョーのドラムソロが意外な小技を披露するのでした。
そして残念ながら、フレディ・ハバードは、お休みです。
A-2 Just Friends (1959年2月2日録音)
モダンジャズではお馴染みのスタンダードが烈しいアップテンポで演奏されます。
これ以降の曲は全てジミー・コブがドラムスを担当しますが、そのクールで熱いビート感覚は素晴らしいですねっ! 各プレイヤーが本当に気持ち良くノセられているのが分かります。
そのアドリブ先発はフレディ・ハバードが若さにまかせて突進し、ウイントン・ケリーにバトンタッチすれば、その瞬間に拍手が! どうやらスタジオに居た関係者が思わず、という展開でしょう。これがジャズですねっ♪
そして続くキャノンボールは、ここでも怖ろしいばかりの勢いです。もう、どうにも止まらないという山本リンダ状態で周囲を躍らせてしまうのです。これには冷静なポール・チェンバースも浮かれ気味というか、自分のソロパートでのアルコ弾きにも軽さが感じられますが、それはジミー・コブの躍動的なドラムスゆえかもしれません。最高です。
A-3 Julie Ann (1959年2月3日録音)
ウキウキするようなウイントン・ケリーのイントロが、まず最高という、ラテン調の楽しい曲です。書いたのはキャノンボールですが、ポール・チェンバースは最初からこの曲のツボを押さえて見事なソロを聴かせてくれます。
もちろん背後で煽るジミー・コブとの息もぴったり♪
そしてフレディ・ハバードは溌剌として温か味も感じられる抜群のトランペットを披露していますし、ウイントン・ケリーも歌心がいっぱいです。
さらにキャノンボールはウネリとヒネリのダブルトリックで燃え上がり、途中には独特の痙攣フレーズまで繰り出して楽しませてくれるのでした。
B-1 There Is No Greater Love (1959年2月3日録音)
これもモダンジャズでは定番曲ですが、このバージョンこそ同曲のベストテンに入れても差し支えない素晴らしい出来栄えになっています。
その原動力はキャノンボールのテンションの高さ、歌心の豊かさ、グルーヴィなノリ等々に加えて、リズム隊の充実度にあります。
とにかくそのテーマ解釈と美メロだらけのアドリブパートは、何度聴いても飽きません。もちろんファンキー度も満点ですし、ポール・チェンバースのブンブンベースが存分に楽しめるバッキングやビシッとキメを入れるジミー・コブも強烈な存在感です。
そして、やっぱりこの人! というウイントン・ケリーは、地味~に出てジワジワと盛り上げ、山場で爆発するという王道路線の素晴らしさです。当然、中盤ではジミー・コブのリムショットが出ますから、このコンビネーションこそがハードパップそのものという楽しさです。
またポール・チェンバースもじっくりとアドリブを聞かせますが、それを待ちきれずにラストテーマに突っ込んでしまうキャノンボールの血の滾りが、憎めません♪ つまりキャノンボールの名演ワンホーン物になっているのでした。
B-2 Ease It (1959年2月2日録音)
スタジオのザワメキが妙に気になる演奏です。
フレディ・ハバードのミュートトランペットとキャノンボールのアルトサックスによるテーマ演奏が煮えきらず、続くポール・チェンバースのソロも迷いがあるという、ややトホホのスタートが、キャノンボールのアドリブパートで一転し、白熱のハードバップになるあたりが聞きどころでしょうか。それほどここでのキャノンボールは強烈です。
そしてそれに刺激されたか、フレディ・ハバードも烈しく完全燃焼を目指します。なにしろミストーンも出してしまうツッコミぶりですから、よほど血が騒いだのでしょうねぇ~♪
う~ん、それにしてもケリー、チェンバース、コブというリズム隊は素晴らしいですねっ! この演奏なんか、けっこうバラバラになる寸前なのに、これだけのグルーヴが溢れる展開に導いてしまうんですから、流石、当時のマイルス・デイビスが信頼しきっていたのが分かります。特にジミー・コブは、シンプルなシンバルでクールにリズムをキープし、ここぞっ! でビシッ、ドシ~ンっとキメるオカズの入れ方なんか、もう唯一無二の素晴らしさですね。
B-3 I Got Rhythm (1959年2月2日録音)
オーラスは猛烈なスピードでハードバップの真髄が披露されます。
テーマはモダンジャズでは必須のコード進行に基づくスタンダードですから、まずはキャノンボールがお手本というべき強烈なスイング感を発揮すれば、続くフレディ・ハバードも負けじと全力疾走です。
バックで煽るリズム隊も仕掛けと瞬発力を存分に聞かせてくれますから、全くが油断ならない雰囲気です。しかしジャズという娯楽の和みもちゃ~んと含まれているのですから、ほんとうに大したもんだと思いますねぇ♪
ということで、これはキャンボール・アダレイの好調さ、そしてフレディ・ハバードの若さがたっぷり楽しめる作品ですが、実はそれ以上にリズム隊の素晴らしさに驚愕させられる1枚でもあります。
放埓なフィリー・ジョーにクールなジミー・コブというドラマーの比較も楽しく、個人的には後者に軍配を上げてしまいますが、それもここでのリーダーであるポール・チェンバースの若さに似合わない懐の深さゆえに、素直に両者の持ち味を楽しめるという仕掛けなのでした。
ちなみにこのリズム隊+キャノンボールでは「キャノンボール・テイクス・チャージ(Riveside)」という名盤も存在しています。
またマイルス抜きのフレディ入りということで、これは擬似VSOPかもしれませんねっ♪