OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

新しいティモンズ?

2006-08-31 18:07:24 | Weblog

裏ワザという秘訣が最近もてはやされています。

あるいは隠し芸というのも、ここ一番で威力を発揮します。

こういう意外な一面を持っていると、その人の存在意義はグッと強くなるのですが、問題はそれをどういう形で発揮するかでしょう。嫌味になっては逆効果ですし、意図的にひけらかすのも……。

本日の主役は、それがとても上手い人でした――

Born To Be Blue / Bobby Timmons (Riverside)

ボビー・ティモンズと言えば、ジャズ・メッセンジャーズやキャノンボール・アダレイのバンドで活躍したファンキー派の黒人ピアニスト! 特に自作の「Moanin'」や「Dat Dere」等は永遠のファンキー・ヒットになっており、もちろん本人の大熱演も強烈でした。

ですから、どうしてもゴスペル&ファンキーな演奏に素晴らしさを求めてしまうのがファン心理! そういう私もそのひとりでしたが、このアルバムは目からウロコの1枚でした。

それはソフトな黒っぽさというか、都会的な感覚に満ちた部分です。もちろんファンキーな味はあるのですが、それがコテコテでは無い、とても洒落た感覚なのです。

録音は1963年9月、メンバーはボビー・ティモンズ(p)、コニー・ケイ(ds)、そしてベーシストはロン・カーターとサム・ジョーンズの2人が、曲毎に入れ替わって参加しています――

A-1 Born To Be Blue
 タイトルどおりにブルーな雰囲気に満ちたスタンダード曲を、ボビー・ティモンズは感情を抑え気味に弾き綴りますが、意外なほどに細かいフレーズを駆使して、全篇にホロ苦いような味が醸し出されています。
 また、ここでのベースはサム・ジョーンズで、その軋みの音色で見事な絡みを聞かせてくれます。

A-2 Malice Towards None
 私が大好きなモダンジャズの隠れ名曲で、トミー・フラナガンも切り札にしていますが、とにかく哀切のテーマメロディがグッときます。
 仄かなラテングルーヴも心地良く、ちょっと聞くとレイ・ブライアント? という雰囲気がありますねっ♪ もちろんボビー・ティモンズの個性は発揮されているのですが、何時ものゴリゴリ・ファンキーでは無く、小粋にスイングしつつソウルフルに盛り上げていく様が、私には新しい魅力に受け取れました。

A-3 Sometimes I Feel Like A Motherless Child
 有名なゴスペル曲なので、ついコンゴン・ゴリゴリを期待してしまうのですが、ボビー・ティモンズはそういうファン心理を逆手にとった魂の歌を聴かせてくれます。
 なにしろ最初から思わせぶりたっぷりにビアノの掻き回し、ベースとドラムスにも直線的なノリを要求していません。ちなみにここでのベースはロン・カーターですから、こういう展開はお手の物というか、淡々と絡みながら要所は締めるという懐の深さを披露しています。
 演奏は終始、そういうある種の裏切りに満ちていますが、それは次の曲への布石でもあるのでした。

A-4 Know Not One
 そしてA面最後は、お待ちかねの大ゴスペル・ファンキー大会です!
 前曲とは逆に、最初からガンガン攻めてくるボビー・ティモンズのピアノも凄いですが、グイグイとドライブするロン・カーターのベースが痛快! コニー・ケイのドラムスもシンプルながらジャズロック一歩手前のグループを秘めていますから、演奏は白熱するのでした。

B-1 The Sit-In
 B面ド頭も、ボビー・ティモンズ節が炸裂する強烈なゴスペル・ハードバップです。アップテンポでのドラムスとベースのグルーヴも素晴らしく、早弾き系のピアノフレーズへのツッコミも申し分ありません。
 また見事なソロと軋みのグルーヴを聞かせるサム・ジョーンズ、意外なガチンコぶりを発揮するコニー・ケイのドラムソロもジャズの醍醐味だと思います。

B-2 Namely You
 有名スタンダード曲を凝ったアレンジで聞かせてくれるボビー・ティモンズは、ファンキー節を隠し味にしながら、歌心優先の演奏に撤しています。確かに物足り無さはありますが、これはこれで不思議な魅力があるのでは……。

B-3 Often Annie
 ボビー・ティモンズのオリジナル曲で、冒頭から全くのピアノソロでスタートし、サム・ジョーンズの繊細かつ豪胆なベースソロにバトンタッチしますが、ここまでテーマメロディらしきものが出てきませんので、嫌な予感に満たされてしまいます。
 なんか自己満足に蠢いているだけというか、重苦しいテンポが支配的……。
 と思った次の瞬間、コニー・ケイの軽快なブラシが入ってきて、ようやくメロディがある展開となり、実は新主流派のゴスペル・ジャズ?
 もちろんボビー・ティモンズは十八番のフレーズを出しまくりなんですが、煮えきりません。しかし録音された1963年という時期を考えれば、これは新しいものを模索する表れかもしれません。

ということで、何時ものボビー・ティモンズを期待するとハズレるんですが、個人的には妙に愛着のある作品です。聴いていて飽きないというか……。もしかしたら録音の所為かもしれません。ブルーノートでは無い、リバーサイド独特の音が確かにあって、私は気に入っているのです。

ちなみにジャケットはタバコ物としては秀逸の1枚です。

コメント (2)
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