CD時代になって一番嬉しかったのは、ボーナストラックという存在、つまり、オマケの楽しみでした。
なにせ私は子供の頃から、オマケ付きのお菓子が大好きで、お菓子よりオマケ派でしたから! それで今でも食玩とか、つい買ってしまうという話は、まず置いて、本日はそのボーナストラックに歓喜したという1枚です――
■Big Band Modern / Gerald Wilson (Jazz Factory)
フルバン物が好きな人には避けて通れないのが、ジェラルド・ウィルソンという黒人アレンジャーです。
この人はトランペッターでもあり、ベニー・カーター(as9 のオーケストラで活動した後に独立し、1950年代からは西海岸を中心に、とてもモダンなアレンジを駆使したビックバンド演奏を聴かせて高い評価を得ています。そして自己のバンド以外でも映画音楽やあらゆる歌手のバンドアレンジでも、今日まで活躍し続けているのですが、我国では知る人ぞ知るの存在でしょう。なにしろ素晴らしいアルバムのほとんどが、日本で発売されていないのですから……。
まあ、そのあたりは本国アメリカでも、残された多くのアルバムが廃盤状態なので不満は言えないのですが、このCDは、その中でもマイナーレーベルの Audiolab に吹き込まれた幻の超レア盤の復刻とあって、私は勇躍入手したものです。
しかもボーナストラックとして、ワーデル・グレイ(ts)、スタン・ゲッツ(ts) 等々が参加したジャムセッションが入っているとあっては、ワクワクするなと言うほうが無理というものです。
まず復刻された「Big Band Modern」は、原盤(Audiolab AL1538)が1954年製作で、メンバーはクラーク・テリー(tp)、ブリット・ウッドマン(tb)、ジェリー・ドジョオン(as)、テディ・エドワーズ(ts)、フランク・ヘインズ(ts) 等々の名手を含むオーケストラで、以下の曲が演奏されています――
01 Algerian Fantasy
02 Bull Fighter
03 Lotus Land
04 Theme
05 Mambo Mexicano
06 Black Rose
07 Romance
08 Since We Said Goodbye
残念ながら原盤を聴いたことが無いので、あくまでも推測ですが、4曲毎にAB面が別れているものと思います。
演目はいずれも色彩豊かなでビート感も満点なアレンジが素晴らしく、曲調もミステリアス・ラテンな「Algerian Fantasy」では、我国の菊池俊輔が大きな影響を受けているのは確実という具合です。なにせ途中が完全に「キイ・ハンター」していますから♪
また「Bull Fighter」は、後にハープ・アルパートが多用するアメリアッチの先駆けですし、「Mambo Mexicano」はヒューゴ・モンテネグロのソフト&メロウになっているのです。
そして「Lotus Land」や「Black Rose」は小型エリントンの趣で自己のルーツを明かし、「Romance」では正統派ビバップ・ビックバンドとしての力量を、たっぷりと開陳しています。
う~ん、やはり名盤であったか……! と独り満悦していると、続けて始まったボーナストラック部分で、ド肝を抜かれました。
それは何と、1950年のライブ録音であるにもかかわらず、完璧なリアルステレオであり、音質も全く普通に聴けるのに加え、力演に次ぐ大力演の連続なのです。
基本メンバーはソニー・クリス(as)、ジェラルド・ウィギンス(p)、レッド・カレンダー(b)、リー・ヤング(ds) を含むジェラルド・ウィルソンのオーケストラですが、そこへワーデル・グレイ(ts)、スタン・ゲッツ(ts)、ズート・シムズ(ts) がゲストで加わっているのですから、強烈至極です――
09 Hollywood Freeway
最高に景気の良いアップテンポのビバップ曲で、どうやらバンドの十八番のようです。アドリブソロは2人のアルトサックス奏者が登場し、一方はソニー・クリスに間違いありませんが、もうひとりを付属解説書ではウィリー・スミスとしているのは???です。かなりモダンなプレイヤーなんですが……。
それよりも、このオーケストラのアレンジと演奏力は最高で、シャープなアタックのリフと膨らみのあるソリが素晴らしい限りです。
こうして盛り上がりきったところで登場する正体不明のテナーサックスが大力演! ここはクレジットが無いのです。
それにしても、繰り返しますが、このバンドのアレンジは最高です♪
10 Sea Breeze
一転して緩やかなテンポの演奏ですが、豊かな音使いのアレンジが、ここでも冴えています。
11 Nice Work If You Can Get It
さて、ここからいよいよゲストが参加しての盛り上がり大会です。
まずこの曲はワーデル・グレイがメインで、軽快なリズム隊に乗せられて正統派ビバップテナーの真髄を聴かせてくれますが、それはレスター・ヤング(ts) の影響にチャーリー・パーカー(as) を混ぜ合わせ、ワーデル・グレイだけの「泣き」のフレーズとして完成させた唯一無二の素晴らしいものです。
3分に満たない演奏ですが、その完璧な出来に観客からは万来の拍手が♪
12 Indiana
さらに続けてアップテンポで演奏されるこの曲でも、ワーデル・グレイが大活躍です。曲はもちろん、ビバップ創成の源になったコード進行ということで、モダンジャズそのものという展開からワーデル・グレイの流麗なテナーサックスが存分に楽しめます♪
私はこの人が大好きなので、もう歓喜悶絶ですねっ!
13 It Had To Be You
そして次に登場するのはズート・シムズですが、残念ながら不完全テイクになっています。それでも上手くテープ編集が施されているので、短いながらも演奏がきちんと楽しめようになっています。
肝心のズート・シムズは快調そのもので、流れるようなキーワークと絶妙なドライブ感がたまらないだけに、全く惜しいことです。
14 Out Of Nowhere
続けて万来の拍手で登場するのが、スタン・ゲッツ! もちろん素晴らし過ぎる演奏を存分に聴かせてくれます。
あぁ、この歌心と緩やかでいて強烈なタイム感覚には、思わず腰が浮くというか、心底シビレまくりです。これは完全なる天才の証明でしょう♪
15 Hollywood Freeway
最後は再びビックバンドが登場し、3人のゲストが入っての大爆裂演奏が繰り広げられます。
それは猛烈なアップテンポの中で地獄のリフが炸裂し、その間隙を縫ってまず登場するのが、スタン・ゲッツです。もちろん全くのマイペースながら、吹くにつれて熱いフレーズが奔流のように溢れ出る様は、最高です。
そして続くワーデル・グレイは、黒人らしいハードアタックなフレーズと豊かな歌心でグイノリの熱演です。バックから襲い掛かってくるリフ地獄との対決を鮮やかに乗り切るあたりは、ゾクゾクしますねぇ~♪
さらにズート・シムズが登場する頃には演奏も白熱しきっていますので、リズム隊もかなり意地悪に仕掛けてきますが、全く問題ありません! 否、むしろズート・シムズにとっては待ってましたのプレ・ハードバップというか、異常にモダンなノリを聴かせてくれるあたりは、実はジェラルド・ウィルソンの魔法にかかった証拠かもしれません♪
こうして向かえるクライマックスは3人の天才テナーサックス奏者による、丁々発止の大バトル大会です! 本当に入り乱れる3者は誰一人脱落する者が当然無く、地獄の釜の熱気のようなオーケストラのバック演奏とゴッタ煮状態で、本当に手に汗握る他は無いのでした。
ということで、これは全く嬉しい誤算というか、意想外に欲しかったオマケが出たような強烈なプレゼントでした。
それはもちろん、後半に収録されたジャムセッションの部分で、普通この年代のライブ録音は音質劣悪なものが多いのですが、これは例外と言える高音質ステレオ録音でした。しかもワーデル・グレイ、スタン・ゲッツ、そしてズート・シムズという偉大なサックス奏者がバトルを繰り広げるという恐ろしさです!
ジェラルド・ウィルソンその人は我国では無名に近い存在ですが、ディジー・ガレスピーのオーケストラとか好きな皆様ならば、気に入ってもらえるでしょう。
そしてこれはもう、個人的には今年の発掘大賞ベストテン候補になっています。機会があれば、ぜひとも聴いてみて下さい。必ず悶絶します。