OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

どっちもどっち?

2006-08-23 20:01:24 | Weblog

アナログ盤にはA面とB面があって、当然のことながら、片面ずつしか聴けないわけですから、その印象は面毎に違ってきますし、それゆえにアナログ盤独自の緊張感というものがあるのです。

例えばA面を聴いて気に入れば、そっちばかりを聴くことが多くなり、B面が粗略に扱われたりするのですが、ジャズ喫茶の場合、それが特に顕著で、リクエストするにしてもサイドを指定するか、店にお任せするかで、運命が別れたりするのです。

一番いけないのは、購入する前にどちらか片面を聴いて、それが自分の好みでなかったりすると、もう購買意欲はどこへやら……。

まあ、このあたりは、限られたお金でコレクションを増やそうとする者には避けられない厳しさではありますが、本日の1枚は私にとっても、それでした。

Pit Inn / Cedar Walton (East Wind)

当時からジャズ喫茶族を中心に人気が高いピアニストのシダー・ウォルトンが、来日した時の新宿「ピット・イン」公演から製作されたライブ盤です。

録音は1974年12月23日、メンバーはシダー・ウォルトン(p)、サム・ジョーンズ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という、オールスター・トリオですが、実は当時、ちゃんとレギュラーで活動していただけあって、纏まりは最高です――

A-1 Suite Sanday
 タイトルどおり、一応、組曲形式を目論んだ演奏で、ラテン、ゴスペル、フォーク、スローバラードなんかが、脈略無く連なっています。後半にはビリー・ヒギンズのドラムソロも仕込まれていますが、聴いている私には煮えきらず、熱くなれない展開でした。う~ん、???なのです。

A-2 Con Alma
 レイ・ブライアントの決定的名演があるモダンジャズ曲で、ラテンリズムも鮮やかに演奏されるのですが、これもイマイチ、ノリきれません。個人的には烈しい指使いの強烈なグルーヴを求めていたのですが……。
 サム・ジョーンズのベースも音色を含めて空々しく、ビリー・ヒギンズを中心としたリズムとビートの仕掛けも虚しく響くのです。
 決して演奏そのものがダメではないのですが、空ろな愛とでも申しましょうか……。

A-3 Without A Song
 楽しいはずの有名スタンダード曲ですが、これも燃えませんというか、現代ならば萌えませんと書くべき演奏です。
 最初はシダー・ウォルトンが全くのソロで曲を引っ掻き回し、ドラムスとベースを従えてからは懸命にスイングしようと試みるのですが、歌心はどこへやら……。しかもトリオの3者の思惑がズレているような演奏に終始しています。
 実はこのアルバムには、個人的にかなり期待していたので、もう、ここまでの3曲、つまりA面を聴いただけで、これは買うのや~めた! 状態です。

B-1 Suntory Blues
 ところが、そんな思いが霧散するのが、この演奏です。
 曲はシダー・ウォルトンのオリジナルで、もちろん某洋酒メーカーに捧げられたブルースですが、黒っぽいのに臭味が無いという、なかなか不思議な魅力があります。しかもグルーヴィなんですねっ♪ ジャズロック・ワルツみたいなビートも素敵ですが、全員がメロディを大切にした演奏に撤しているようです。
 ちなみにこのアルバムは発売された頃にジャズ喫茶で聴いたわけですが、最初にA面聴いてガックリ、別に店でB面聴いて歓喜悶絶という局面に、この演奏があったというわけです。もちろんアルバムは即お買い上げ♪

B-2‘Round Midnight
 モダンジャズではあまりにも有名なド定番曲ですから、生半可な演奏ではリスナーが納得しないということで、シダー・ウォルトン以下トリオの面々は、まずストレートにテーマメロディを出した後、テンポを上げてグイノリのハードバップに仕立て上げています。
 ただし無分別という事では無く、ちゃ~んと原曲のミステリアスな雰囲気が大切にされていますし、シダー・ウォルトンの弾き出すフレーズには先進性も感じられるのでした。

B-3 Fantasy In“D”
 これこそシダー・ウォルトンの代表作で、若手有望株としてジャズ・メッセンジャーズに在籍していた頃に「雨月」というタイトルでレコーディングも残されたモード曲です。
 それは幻想的な響きとハードバッブの楽しさが融合した素敵な演奏でしたが、ここでもその味は健在で、アップテンポでバリバリ弾きまくるシダー・ウォルトンは、全く爽快です。もちろんテーマメロディの変奏的な部分を含んだアドリブになっているので、どこまでもモードの中の歌心が楽しめます。
 またベースのサム・ジョーンズがキメのフレーズを入れてアクセントを強調すれば、ビリー・ヒギンズは例によって歯切れの良いシンバルと小刻みにグルーヴするスネアのコンビネーションで勝負していますから、演奏は何処までも高みの昇りつめん勢いに溢れているのでした。
 これこそ1970年代ジャズ、というよりもジャズ喫茶の音なんですねぇ♪

B-4 Bleeker St. Theme
 鳴り止まない拍手の中、このトリオのバンドテーマが楽しく演奏され、観客は手拍子で参加するというノリノリ大会です。
 それと言うのも前曲の出来が上出来だったからに他ならず、つまりB面全体のグルーヴィな雰囲気が、ここに終結する展開だと思います♪
 もちろん演奏中のメンツ紹介は観客から大歓声で盛り上がり、熱い雰囲気でアルバムも終了するのでした。

ということで、あくまでも個人的な感想ですが、どうしてこのアルバムはこんなに両サイドの印象が違うのでしょう。「印象」と言うよりも「出来」と言うならば、コンサート終盤を収めたB面が盛り上がっているのも当然の結果ではありますが!

ですから、私はB面ばっかり聴いていて、ある日、思い出したかのようにA面を聴いて???な気分に陥る繰り返しを、今日までやっています。

ある特定のアルバムについて、どちらの面を鳴らすによってジャズ喫茶の個性が現れるというのは、ジャズ者にとっては暗黙の了解ですが、この作品なんかどうなんでしょう……。

発売された頃に集中的に鳴らされて以降、ほとんど聴いた記憶が無いのですが……。おそらく大方の店では、レコード棚にひっそりと死蔵されているんでしょうねぇ、ちょっと淋しいなぁ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする