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日めくり万葉集(90)

2008年05月17日 | 万葉集
日めくり万葉集(90)は天武天皇の歌。選者は薬師寺管主の安田暎胤(やすだえいいん)さん。

【歌】
淑(よ)き人の
良しとよく見て
良しと言ひし
吉野(よしの)よく見よ
良き人よく見

   巻1・27  作者は天武天皇(てんむてんのう)

【訳】
昔のよい人がよいところだ、とよく見てよいと言った。この吉野をよく見なさい。今のよい人よ、よく見なさい。

【選者の言葉】
天武天皇の歌は少ないが、この歌は良しという字が8回も出てくる。吉野というものに深い気持ちがあって、詠った歌。天武天皇の発願(ほつがん)の寺の者として、この歌を選ばせていただいた。

良き人というのがたくさん出て来るが、最初は天武天皇と皇后、終わりは6人の子どもたちのこと。壬申(じんしん)の乱という争いがあり、これからそうした兄弟の争いをして欲しくないという、千年の未来へ向かっても仲良くしてくれという、強い願いを込めた歌。

(薬師寺には)二つの塔があり、東塔は天武天皇、西塔は持統天皇(じとうてんのう)をあらわすののか。金堂も屋根が4つ。大きな屋根が天武天皇、小さな屋根が持統天皇という理解も出来るか。それほどご夫婦愛が結晶となったお寺ではないだろうか。

(この時代を白鳳時代というが)白鳳(はくほう)時代というと、ぐっと伸びていく力強さと美しさと華麗さがある。建物、仏像を見ても、はちきれんばかりの美しさがある。この歌にも他にはない独特の調べで詠われている。万葉集の中でも際立って珍しい独創性に満ちた歌とあえて申し上げたい。

【檀さんの語り】
皇位継承を巡って骨肉の争いとなった壬申(じんしん)の乱は大海人皇子(おおあまのみこ)の吉野隠遁(よしのいんとん)に始まり、戦いに勝利した大海人皇子は即位して天武天皇となった。その聖地、吉野に皇后や皇子たちとともに行幸(ぎょうこう)したときに詠んだ歌。

薬師寺はこの歌が詠まれた翌、天武9年、680年病に倒れた皇后の回復を祈って、天武天皇が発願したのがはじまり。天皇の祈りが通じたのか、皇后は治るが、その数年後、天武天皇は崩御(ほうぎょ)する。薬師寺は亡き人の遺志を継ぎ、即位した持統天皇と孫の文武天皇(もんむてんのう)によって完成した。

天武天皇と持統天皇が国を治めた7世紀後半は文化史や美術史の上で【白鳳時代(はくほうじだい)】と呼ばれ、活気に満ち、独創性があふれ、文化が花開いた。

【感想】
この間から、図書館へ行って借りてきた【梅原猛】著の【水底(みなそこ)の歌】上下巻、~柿本人麿論~を読んでいる。装丁を見ると普通の単行本扱いなのに、内容はといえば、人麿についての先人が繰り広げてきた今までの数々の仮説を片っ端から論破するという大作業。

研究する気がないもの?にとってはあまりに難しい。斉藤茂吉が仮説を立てた「鴨山考」から始まって、国学者、賀茂真淵の仮説、年齢、官位、古今集序文をめぐってなど。これではいつまでも終わらないと古文の原文は大幅にぶっ飛ばして、なんとか最終のページまでたどり着いたが。

梅原の執念ともいえるものが伝わってきた。この本を読んだショックで、どうも万葉集はただ愛や死や自然を歌った歌という風には捉えられなくなってしまった。梅原の論に寄れば、この歌が入っている巻1、巻2が【原万葉集】ともいわれる核になる歌。

雄略天皇から奈良時代までの、政治的人間、およびその周辺の人々を登場させ自由に歌わせているが、直接、間接に重要な政治的事件に関係している人々で、事件を詳細には語らないが、短い歌から多くの歴史的事実と無数の人々の哀感がこめられている、という捕らえ方だった。

この天武天皇の歌は即位した後で、語呂合わせのようにおおらかさが滲み出ているが亡くなった後が大変で、皇后は何とかして自分の腹を痛めた子ども、草壁皇子に引き継がせようと、有力は後継者候補、大津皇子を謀反の罪で殺したが、ためらっているうちに草壁皇子は亡くなってしまい、持統天皇が即位することになる。

一代飛んで草壁の息子、孫の文武天皇になんとか引き継がせたが、これも亡くなるという歴史が繰り返され、それに律令体制への過程で頭角をあらわしてきた藤原不比等が権力を拡大してくるなど、めまぐるしく変転する。

柿本人麿は、一時は持統天皇の行幸で歌を読むほどの宮廷歌人だったものが、勢力を増した藤原一門に対する反発があったのか、何らかの理由で流罪となり、ついには離れた島に流され、水死刑に処されて刑死したというのが、梅原の展開した人麿論だった。

【調べ物】
○ほつがん【発願】
①仏・菩薩が衆生を救おうとの誓願を起こすこと。
②神仏に願を立てること。

○ぎょうこう【行幸】
(キョウコウ・ギョウゴウとも)天皇が外出すること。みゆき。

                  







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