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~サッカーを中心に日々の雑感など~

日めくり万葉集(231)

2008年12月24日 | 万葉集
日めくり万葉集の放送はすでに終了したが、ここでは!あともう少し。まだ最後の歌に向かって続行中。231は巻18・4109、大伴家持の歌。選者は染色家の吉岡幸雄さん。

【訳】
鮮やかで目立つが紅花(べにばな)で染めたものは色が褪(さ)めるものだぞ。ドングリで染めた着慣れた衣に及ぶだろうか。かないはしない。

【選者の言葉】
《紅》(くれない)というのは高貴な人の衣装の色。《つるはみ》というのはドングリなどの木の実。庶民的な人の衣類。この歌は染色の技術と庶民的な色、高貴な人のための色とをうまくうたの中で表現している。

浮かれて調子に乗るな、つるばみ(古代はつるはみ)の衣を着ていたような普通の生活というものを考えようと言っているのではないか。それがまさに普段着のつるばみの衣。

(染めるときに)よく洗うので花粉が一緒に流れる。流れていく排水溝に花粉がいっぱい溜(た)まるというのは、そういう技術を物語っている。花粉が流れていたと思うと自分の仕事と重なり合って、非常にいい心地がする。

こういう技術は古代エジプトから中国、そして日本。これは寸分狂いなく同じような技術。華やかなものというのは難しい。高貴な色であり、高価な色でもある。染める側からすると、紫、紅(くれない)というのは職人の腕の見せ所。

不思議と茶色、黒といった沈んだ色は出しやすい。だから歌の中のつるばみと紅というのは見事にそういう対比を詠っている。

【檀さんの語り】
この歌は大伴家持(おおとものやかもち)が越中の国司を務めていたときに単身赴任中の部下の浮気が目に余り、それをいさめるために詠んだ歌。浮気相手の女性と妻を色に例えた。

つるばみの茶色に比べ、うつろいやすい紅。古くから紅花で染められてきた。奈良県明日香村にある7世紀の遺跡(酒船石遺跡)から紅花の花粉が大量に発見された。

湧き水を導く施設のあるここで、紅花染めも行われていたと吉岡さんは考える。紅花は冴(さ)えた色を出すために気温の低い真冬に行われる。冷水で何度も洗い、もみを繰り返す手間ひまのかかる作業。この万葉の時代と同じ技術を試行錯誤を重ねて、吉岡さんは蘇(よみがえ)らせた。

【感想】
何度もこの番組に登場した吉岡さんは最後を意識してか、自ら織り上げた布地をデザインしたようなジャケットやマントを着てカメラの前に立った。この歌の中にあるような茶色の布地ということは、やはり万葉時代と同じようにドングリなどの木の実から染めたのだろうか。

吉岡さんを拝見して毎回思うのは、技術というのは嘘をつかないということだ。誰が見ていなくても工程を手抜きすれば、それはすぐさま作品に表れる。そのことは言われるまでもなく自分自身が一番よくわかること。

数分間のマネーゲームで巨万の富を稼げる現代にあって、これは対極にある根気の要る時間のかかる手仕事。そしていつの時代にも変わらない職人さんの誠実さは疑いのないものだ。

日本でもすべてがお金で価値を表すようになり、いつしかこういう手仕事の大切さを忘れたような風潮になった。しかし、このところアメリカの金融危機から世界中を巻き込んでいる不況の波。

ほんの一握りの誠実さを失った人間たちに富が集中する、というこの体制で果たしていいのか。これからは疑いを持ってそう考える人間も増えていくのではないだろうか。








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