3回目のお点前:裏方で一番中心になって働いている先生から、「今度は大物ばかりですお」と言われたが、初めにチラッと客の方を見ると柔和な顔をしたお年を召した方ばかりで、しかも面識の全くない人ばかりで、後見人も先の鎌田先生の息子であった為、何とか上手に出来そうな感じがしていた。
不思議なことに、柄杓が震えることなく、初め傾け、直ぐに平行にして動かした為に、湯も水も1滴もこぼれることなく上手に汲むことが出来たし、真の礼の仕方も考えながら教科書的にしたし、歩く時も自信を持って背筋を伸ばして歩き、自分でもこれは今までで一番満足のいくお点前だなあと思った。
しかし、人生とはそんなに甘いものではなかった。最後の方で、「建水のお作は?」と尋ねられて、よく見ると正客が自分の方を向いているではないか、後ろと振り向くと、命綱の後見人がいないではないか!「すみません」と言ったものだから笑われてしまった(この様な時には、「後ほど」と言えばいいとのこと)。
又、一番最後に礼をしようとしようとした時、替茶碗が平茶碗になっていて、穂先が大きい茶筅を選んでいたものだから、ポロッと茶筅が茶碗からこぼれてしまった。しかし、その時の自分はもう過去の自分ではなかった。慌てずにゆっくりとそれをと取って茶碗に入れ直して丁寧に礼をして奥に下がった。
襖越しに聞いていると、「先ほどの殿方のお点前は実に素晴らしかったですねえ」と言うのが聞こえ、自分でも、ヤッターって感じになってとても嬉しかった。わざわざ面識のない先生までが、後見人を通じて自分に挨拶に来てくれた。
*4疊半の「たはら小児科医院」の自分の院長室で、お茶を点てている所。