山上俊夫・日本と世界あちこち

大阪・日本・世界をきままに横断、食べもの・教育・文化・政治・歴史をふらふら渡りあるく・・・

安倍所信表明、浮いた言葉のよせあつめ、その陰に社会破壊への野望

2014年09月30日 11時33分01秒 | Weblog
 安倍首相の所信表明演説(2014・9・29)の全文を読んだ。軽い、浮いた言葉の寄せ集め、テレビで紹介されたうまくいったエピソードで飾った作文だ。国民の苦しみを意に介さない、特異な政治家だ。それは国際オリンピック委員会総会の演説で、「状況はコントロールされている」「汚染水による影響は福島第1原発の湾内の0.3㎢の範囲内で完全にブロックされている」と平気でウソをついて世界をだましたことでわかる。
 所信表明で安倍氏は、「福島は今、実りの秋を迎えています。先日訪れた広野町では、復興を成し遂げた水田に、黄金色の稲穂が輝いていました」「不安を一つひとつ解消してまいります」という。しかし人々の意識とはかい離している。いまだに故郷に帰れない人が12万5千人もいる現実と、この妙な明るさとどちらが真実なのか。コントロールしているはずの汚染水の垂れ流しにはいっさい触れない。
 東北の復興では、農地の集積をすすめて、攻めの農業をつくり、壊滅的な大地から最先端の農業をという。震災をテコに農業の淘汰をすすめるのだ。何が復興だ、なにが地方創生だ。切り捨てが主要な側面で、ごく一部売れる農業ができても、全体としては荒廃がすすむ、これが安倍流の世界だ。
 地方再生の項では、観光や特産品の販売で伸びた例を陳列する。いずれもテレビでやったやつの寄せ集めだ。この項の最後で、「美しい日本を支えているのは、中山間地や離島をはじめ、地方にお住いの皆さんです。そうした故郷を、消滅させてはならない。もはや時間の猶予はありません」という。日本の地域という地域を荒廃させ、安倍氏の生まれ故郷でもない山口もシャッター街ばかり、安倍氏が官房長官ですすめた小泉市町村合併で疲弊は目を覆うばかりだ。すべて自民党政治の結果ではないか。「消滅させてはならない」などと、よくいうよと思う。オリンピック演説と同じだ。
 4項が「地球儀を俯瞰する外交」だ。東アジアの一番身近で協力関係を築かなければならない韓国、中国といまだ一度も会談できないで、地球儀を俯瞰するとはなんだ。就任以来49ヶ国を訪問したと胸を張る。手をつないで、莫大な金を使う。1回で2億円ほどの金を使って世界を行脚しているようだ。行った先の政府に大盤振る舞いの資金供与を約束する。外交では公表されない国際賄賂も提供する(これはわたしの常識的推測)。車の好きな政府要人には、高級乗用車を2機目の政府専用機に積み込んで提供することなど朝飯前、もっとも現金の方が普通だろうが。これはもちろん税金から支出。外交機密費だから領収書など心配なし。使い放題だ。それにしてもよく出歩いたものだ。1年10カ月で49ヶ国。これまでの最高の小泉首相は5年5カ月で48ヵ国だった。安倍首相は外遊で中国包囲網をつくることもねらっているようだが、そんなことできるわけがない。外遊で使いまくった金額を公表せよ!
 この項では、短い言葉ながら、TPPを戦略的に推し進めますといい、日本農業の戦略的破壊を放棄していない。インド首相から積極的平和主義=軍事優先外交に支持を得ることができたと誇る。米軍基地については、抑止力=軍事力を維持しつつ基地負担の軽減、民主党のような「言葉」ではなく「行動」で取り組んでまいります、という。沖縄県民の8割が強権的な工事に反対を表明している辺野古新基地建設だ。100年の負担を押し付けるのだ。
 成長戦略の5項は、女性が輝く社会をまずあげる。これは女性をいかにうまく利用するかという財界の政策であって、女性の要望に沿った政策ではない。成長戦略の中心が「岩盤規制改革」というやつだ。岩盤の様な社会規制(中小零細業者を保護した経済規制は大店法の廃止などでもはや跡形もない)にドリルで穴をあけ、ダイナマイトを仕込んで爆破する。社会規制は弱者保護だ。戦後、民主憲法の下で築いた労働者保護、女性保護、障碍者保護、老人保護などがそれだ。これを岩盤だといって、嫌悪する。何をいうか、人権ではないか。ここを打ち砕いて、大企業にとって自由な、野蛮な資本主義の再構築を目指すのだ。
 「岩盤規制改革」の最初に、「原発の再稼働をすすめます」がくる。つぎに「公立学校の運営を民間に開放します」という。おそろしい。公立学校をあらたな企業の市場にしようというのだ。医療、保育、教育すべてを市場化し、企業の投資先にするのだ。私立学校は資本主義企業ではない。学校法人だ。公立学校をの資金は税金から出して、運営を企業が請け負う。その学校は教育者ではない資本家が企業経営の論理で学校を壟断する。公立学校には経済的に恵まれない家庭の子や、学力に遅れを持った生徒もたくさんいる。彼らに寂しい思いをさせないように幾重もの配慮をしながら全体を引き上げる(学力も、体力も、人格も)努力を日本の公立学校はしてきた。そこを根底からくつがえす最悪の教育破壊だ。安倍氏のいう「グローバル人材育成」「個性に応じた教育」「多様な価値観に応じた教育」などの名前で児童生徒を選別し、財界にとって好ましい人材育成の場に、教育を組み替えようというのだ。戦後民主教育の根底からの破壊だ。
 安倍内閣が、今直接に狙っている「農業・雇用・医療」については具体的に言わない。だがここを打ち砕いて、財界の利益の源泉にしようという意図はみえている。農協破壊は農協が営んでいる金融、販売分野の取りあげをねらっている。この夏北海道の平和ツアーで交流した農家の皆さんは誰も農協解体を望んでいないといった、財界が狙っているだけだと言いきった。農業目的でない農地取得を自由にし、産業廃棄物の捨て場にされるだけだと言ったのが記憶に残る。
 雇用では、今国会にも労働者派遣法改悪案を再提出し、「生涯派遣、正社員ゼロ」を目指そうとしている。さらに残業代ゼロも。200年に及ぶ世界の労働運動の成果をゼロに帰そうというたくらみだ。歴史の逆転、反革命そのものだ。医療についても、命の沙汰も金次第の世の中にもっていこうというのだ。
 「安倍内閣の規制改革に、終わりはありません。この2年間で、あらゆる岩盤規制を打ち砕いていく。その決意を新たに、次の国会も、更にその次も、今後、国会が開かれるたびに、矢継ぎ早に提案させていただきたいと考えております」という。そのあっけらかんとした野蛮さは驚くばかりだ。
 この項の終わりで、この春、多くの企業で賃金がアップしたと自慢した。過去15年間で最高ですという。ならばなぜこれほど消費が落ち込むのか。実質賃金は13か月連続して落ち込んでいるのが実態ではないか。総務省の勤労者世帯の家計調査(6月)でも実収入が1年前より6・6%減っている。
 「6、おわりに」の項では、いっそう浮いた言葉がならぶ。オリンピック委員会演説並みの無責任なことばでしめくくる。安倍内閣の社会破壊のねらいを知らずに浮かれていては、生活基盤を根こそぎ押し流される。
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