無知の知

ほたるぶくろの日記

某雑誌のことについて

2011-07-04 00:36:25 | 日記
7月になりました。もう、梅雨は明けたのかな、とおもうようなかんかん照りの東京です。一昨日、氏神様には鳥居に茅の輪が設えてありました。昨年は気づくのが遅くて、くぐれなかったのですが、今年は仕事帰りにくぐらせて頂きました。この半年、いろいろなことがありました。それでもこうして生かされていることに感謝をいたしました。氏神様も石灯籠がたおれたり、あちこち被害があったようですが、例大祭も無事におこなわれました。今年の後半も無難にしたいものです。

さて、放射線による遺伝子の傷が話題になっています。さる雑誌の表紙に、某生命科学研究者がいわれたことの一部が切り取られて載せられました。
「放射線によって傷ついた遺伝子は、子孫に伝えられていきます。」
この言葉は何も説明がなければ非常に深刻な誤解をうむとおもいます。これをいわれたY先生はきちんとした、大変優秀な女性研究者のかたです。記事を読んでいないのですが、この方は誤解を招く危険もお分かりだったと思います。Y先生がこのような表紙になると事前に知らされていれば、ご意見をされたことと思うのですが。

ひとつめの誤解は「放射線があたって傷ついた遺伝子はなおることなく、ずっと傷が残るのか?」という点です。これは傷のできる速さ、量、個人の修復能力によって決まります。今問題になっている、年間20ミリシーベルトを超えるかどうか(もっと言ってしまうと~500ミリシーベルトくらいまで)の「低線量放射線」でできるDNAの傷は、普通の方でしたら何の問題もなく修復されるレベルです。もちろん遺伝的なご病気でDNA修復能力の低い方は気をつけられた方がよいでしょう。

二つ目の誤解は、われわれの持っている遺伝子は「正常」である。ということです。批判的なTwitterのつぶやきを見ていますとどうも「きれいなものが放射線によって傷付けられる」というイメージをお持ちの方がいるのかと思いました。普通の五体満足な状態はたしかに「正常」です。しかし、遺伝子レベルで見た場合、全ての方が平均して数個の遺伝子変異を持つと言われています。それゆえ近親交配による劣性遺伝病の心配がでてきます。それはさておき、つまりわれわれはXY染色体上以外の遺伝子は二つずつ持っているわけですが、そのうちの一つはけっこう変異をもっていたりもする、ということです。遺伝子を細かく調べていきますと、何が「正常」か?という問題につきあたることさえあります。われわれは、変異を既に持っています。それがどのくらい増えるのか?とくに生殖細胞系にどのくらい増えるのか?が重要な問題です。しかし、それについても低放射線量を照射したマウスの実験ではかなり頻度は低いようです。

今、ほとんどの方がCs-137に被爆しているわけですが、遺伝子の傷は修復されています。生物はやわではありません。DNA修復にかかわる分子、その遺伝子に関しては大分理解が進んでいますが、それでもなお、細かい点では未知の部分も多いです。以下に分かっていることをごく簡単に書きます。放射線でできるDNAの傷は大体DNA鎖の切断です。これは放射線が直接切ることもありますし、放射線が他の分子に当ってラジカルをつくり、これがDNA鎖を切断することもあります。ここでラジカルを消去する酵素分子がSODをはじめいろいろあります。これらの酵素は必要がある場合は増産をできる仕組みになっています。

さて、切断されたDNAはすぐさま検知され修復に必要な分子群が集まり元通りに修復されます。この際にいろいろな遺伝子変異を起すこともあります。切れたものをつなぐときに、1塩基ぶんなくしてしまった、とか余計なものをいれた。大きな範囲を二重にしてしまった、あるいは失ってしまった。ひどいときには隣の染色体とくっついてしまった、などです。これらの異常が代謝に必要な分子の遺伝子を壊していれば、その細胞は異常を示します。その異常さはすぐさま周りの細胞に検知されます。異常の度合いが(これも実に曖昧です)ひどければ、その細胞は自ら解体することもあります(アポトーシス)。周りの細胞が破壊してしまうこともあります。また、異常になってまわりとの連絡がとれなくなり、増殖分裂のブレーキが利かなくなった場合、がん細胞になります。このがん細胞が免疫系に検知されますとNK細胞などが集まってきて、集中的に破壊されます。

以上、簡単に書いてみましたが、これだけの仕組みを生物はもっています。低線量被爆ではどれだけの傷が遺伝子におこるか?はほとんど問題にならないくらい低いですし、修復がなされます。したがって、それが次世代に伝わることもほとんどないでしょう。数字をだせ、といわれたとしても現在さまざまなデータがあって、ヒトに関しては誰も明確な数字を出せていないと思います。唯一確実な数字はマウスにおける実験でしょう。以前ご紹介しました、「放射線と健康を考える会」内の『低線量放射線の不思議な生体作用ーラドン温泉が効くわけを探るー』をご覧ください。このHPは背景の団体がちょっとな部分もありますが、書かれている記述はうそではありません。これらの実験的事実をどう受け取り、将来への選択をどのようにしていくのかは、それぞれの方によります。

私自身は原発はなくしていくしかないと思います。この装置は地球を破壊する装置であるからです。経済がどうこうという問題ではありません。地球自体の存亡にかかわっているからです。