新八犬伝を読みながら－その６

ついに、新八犬伝ノベライズ、３冊全部読みきりました！

最後の方は、行徳や国府台を戦場とする合戦で、八犬士をはじめとする里見方が、関東管領扇谷定正軍を打ち破り、めでたしめでたし。

行徳や国府台といったローカルな地名が文中に踊るので、横浜に住んでいた頃には感じなかった不思議な気持ちになった。少なくともここ行徳は江戸時代に塩で栄えた地ではあったけれども、古戦場になったというような話は聞いていない。八犬伝のフィクションだろう。だが国府台は確かに戦場になったことがある。

国府台合戦というのがそれで、北条氏と里見氏をはじめとする房総諸将との間で戦われた合戦である。里見とは行っても、八犬伝の描く里見義実の時代よりあとの里見 義堯（さとみ よしたか）の時代、1538年と1563～4年の二回にわたって戦われている。この人は上杉謙信、佐竹義重等と結び後北条氏と関東の覇権をめぐって争い続けたが勝敗はつかず、房総半島に勢力を拡大し、里見氏の全盛期を築き上げたという。八犬伝はこうした合戦の記録からネタを拝借したのかもしれない。

二度にわたる国府台合戦の後半には里見軍は苦境に陥った様子。古戦場となった国府台城址は「里見公園」として整備されていて桜の名所らしい。こことは別に市川真間の弘法寺というところには伏姫桜という樹齢400年のしだれ桜があるという。折角春なのだから、新八犬伝読了記念に、ここいらの花見にでも行くか？

・・・・・・・

新八犬伝のエンディングについても一言書かねば・・・。空飛ぶ円盤のように八犬士が犬になって空をとんでどっかに行ってしまうエンディングは、子供ながらに？？？と思ってはいたが、まああのころはまだ空飛ぶ円盤だのＵＦＯだのと騒いでいた頃だから、わからなくもないな。今だったら受け入れられないだろうな。それから丶大法師がラストで切腹する理由が何だったか忘れていたが、玉梓が怨霊の供養のためだったのだな。納得。新八犬伝では玉梓は女囚ということになっており、一度は里見義実が命を助けようとしたのに丶大法師（金碗大輔）の反対で死刑になったことを根に持ってたたり続けたという設定。「悪いのはすべてワシなんじゃぁ」と丶大法師が切腹することで玉梓は成仏するのであった。

で、玉梓って、死刑になるなんてどんな悪いことした人だったの？と新たな疑問が沸いてきた。新八犬伝では何も書いてないので、原作での設定をWikipediaで調べてみた。

------------------------------------------------------------------------
玉梓（たまずさ）
神余光弘の愛妾であったが、山下定包とも密通しており、神余の死後は山下の正妻となった。滝田落城時に彼女を捕らえた里見義実は一度は助命を約束しながら金碗八郎の言に従いこれを翻した。玉梓は「児孫まで、畜生道に導きて、この世からなる煩悩の、犬となさん」との呪詛の言葉を残して処刑された。その怨霊は里見家に仇なすことになる。
------------------------------------------------------------------------

う～ん、悪女というよりも妖婦の類か。里見義実が結城合戦に破れて安房まで逃げた時に、安房の滝田城は城主であった神余光弘が逆臣山下定包に殺されてぐちゃぐちゃの状態。玉梓はこの二人の間を渡り歩いてイイ思いをしてただけ？　山下定包は里見の軍勢が迫る中、部下に離反されて殺害されたわけだが、その後にまんまとおさまったのが里見義実。さて捕まえた玉梓をどうしよう・・・。そんなに殺さなきゃいけない女だったかどうかは、この説明だけじゃわかんないけど、少なくとも子供向けの人形劇に持ってくるには難しい設定だね。原作だって史実じゃないんだから、単に「悪い女」ということにしたって大差ないだろう・・・。

八犬伝に出てくるもう一人の有名な悪女は「船虫」。この女は原作をはじめ、どの創作モノ八犬伝でも憎たらしい悪女。でも新・八犬伝に出てくる船虫って目元すずやかで、憎たらしいというよりも、「おヌシようやるのう」と思ってしまうほどの大活躍。結構好きなキャラだったのだが、ノベライズでは彼女の魅力があまり表現されてなかったな。

八犬伝に去来する思いは沢山あるけれど、とりあえず６回に分けて、思いのたけは書けたかな。物心ついた時にこの作品に出会えたこと、そしてダイジェストではあるけれど新八犬伝のノベライズ本が読めたこと。あらためて感謝感謝である。

かくいう私が八犬伝ゆかりの行徳の地に住んでいるのも、めぐる因果は糸車～♪