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トスカニーニとの会話、トスカニーニのワーグナー

2009年02月24日 00時11分36秒 | クラシック(一般)
 先週末(2月15日)にNHKBS2でオンエアされたドキュメンタリー。この番組の目玉としては、隠遁後のトスカニーニのもとに訪れた来客や子供達と会話を、息子ワルターがひそかに録音していたものを基にドラマ風に再現したところにある。なんでも息子ワルターは150時間にも及ぶテープを残していたようだが、ここに再現されたドラマがある日(ここでは大晦日の設定)の会話を忠実に再現したものなのか、150時間のテープの中から再構成されたものなのかどうかは不明だが、結果的にトスカニーニの幼児期から引退までをクロノジカルに語る内容になっている(なお、たぶんかなりレアと思われる動画も多数登場する、50年代中盤くらいになるとカラーフィルムも出てくるが、一部だが動くトスカニーニがカラーで観れるというのも、けっこう凄いことなのではないか)。

 内容だが、何しろトスカニーニ自身が語る彼の歴史だから、やはりおもしろい。一番最初に指揮台に立った時だとか、ヴェルディに教えをこいにいったときの話などは、それが100%真実ということもないだろうが、やはり本人自ら語るというのは説得力がある。当然ナチだのファシズムも出てくる。また、ストコスキーやフルトヴェングラー、あとプッチーニ、ついでにマリア・カラスまでこき下ろしているのは笑ってしまった。こういうのは伝聞で聞くと、いやな感じしかしないが、好々爺なおじいさんが語るドラマとしてみると、その毒舌も愛すべきキャラクターのように感じてしまうから不思議だ。NBC交響楽団のメンバーから匿名の手紙をもらったエピソードなど、晩年のトスカニーニの老いと覇気の葛藤を象徴しているかのようで、けっこう泣かせる。また、大衆を愚かさを糾弾するような発言なども(これなど聴衆というより、ファシズムにあっけなくのってしまった大衆という感じなんだろうな)、彼の心の深淵をのぞかせて興味深かった。

 引き続き放映された「トスカニーニのワーグナー」は、彼がNBC交響楽団を指揮した映像からワーグナーのものばかり集めている。こうした映像がまとまって残されていること自体驚きだが、映像付きでみる彼のワーグナーは、半ば予想とおりでもあったのだが、クリアで筋肉質なオケがキビキビとしたダイナミズムで、ストレートにかつな壮麗に歌い上げるもので、「タンホイザー」や「ローエングリン」のまさにイタリア的としかいいようがない灼熱するような高揚感に気宇壮大さ、早めのテンポで一気に進む「トリスタン」の燃え上がるような情感など、やはりトスカニーニらしさがよく伝わってくる素晴らしい演奏だ(しかし、これだけ貧弱な音質でここまで伝わるのだから、せめてステレオ録音だったどんなに聴き映えしたことだろう)。ちなみに最後には、ヴェルディがイタリアの解放を祝って1862年に作ったという「諸国民の賛歌」が収録されていて、トスカニーニは第二次大戦下ということで、自身が原曲に手を加え、英・仏国歌や「星条旗よ永遠なれ」やなんと「インターナショナル」まで入っている非常にレアな演奏である。ベートーベンとワーグナーっぽい曲だが、合唱団まで加わって全15分なかなか盛り上がる。

 それにしても、トスカニーニという人の指揮振りは、撮影された時期が晩年だったせいもあるだろうが、手を振り上げ、体を揺すり、髪を振り乱して演奏しているかと思ったら、意外に端正ですっきりとして、ある意味生真面目な職人の極致みたいなスタティックさあったのは驚きであった。それとこの人指揮していてちっともうれしそうでないし、忘我の境地で陶酔するような表情もあまりない。ドラマの方では「音楽は苦悩の源泉」みたいなこという場面があったけれど、おそらく彼の心中はオケを指揮しつつ、「こんなもんじゃない、ワーグナーの音楽はもっと、もっと」みたいなことを常に考えていたんじゃないと思う。映像を観ていると、なんだか全く満足していないトスカニーニがよく伺えるのである。
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