日本
2005年04月15日 | 詩
その木の葉には、熱帯の逞しさはなく、寒帯の厳しさもない。
透き通るような花びらを持った花々。
季節の温度を敏感に感じ、その想いを色に現す葉。
数センチにも満たない、風に揺れる高い山に咲く花。
そういう自然の中でぼくたちは育まれた。
谷川の水。
木漏れ日。
水穂。
腰の曲がった、豊かな皺を刻んだ老人たち。
何の不足もない天と地の間に、生まれ育った。
水と地熱とが豊かに巡り、四季が踊り、人が微笑む豊かな大地に、
ぼくらは生まれ育った。
甘酸っぱい山葡萄を食べ、
枯葉の匂いを胸一杯に吸いこみ、
金色の木漏れ日を浴び、
雪に覆われた遠くの山の頂きを見る。
春の風が沈丁花の香を運び、
夏の宵には蛍と蛙が小川で協奏し、
熟れた柿が夕日に赤く染まり、
しんしんと降る雪の日には息を凝らして炭火を見つめた。
薄っぺらになった時代が、
灰色のコンクリートが、
次から次へと川原を、小川を、鎮守の森を覆ったが、
人々の心は森の奥を、泉を、しわくちゃな笑顔をいつまでも求め続ける。
時代の深層には深い森から流れてくる清冽な水が流れ続け、
こだまが響きあい、
嘆きも、恨みもせず、
微笑み続けている。