夜中に突然父親に起こされた。
何時くらいなのか見当もつかない。
一緒に起こされた2歳年上の兄とともに眠い目をこすっていたら、早くしろと父親に急かされた。
それまで聞いたことのない父親の声だった。
姉に服を着せてもらって、家の玄関を出た。
辺りは一面の雪だった。
次から次へと真っ黒な空から雪が舞い落ちてきた。
玄関の前にはトラックが横付けされており、荷台には家財が積まれ、その上に幌がかけられていた。
幌の上にも雪が積もっていた。
ふと振り返ると祖母がぽつんと玄関先に立っていた。
暗くて表情は見えなかった。
ぼくら三人兄弟は父親に急かされ、トラックの助手席にぎゅうぎゅうと乗り込んだ。
姉を挟んでぼくと兄が座った。
姉はぼくらの肩をしっかりと抱きよせた。
父親は淡々とエンジンをかけると、トラックを発進させた。
タイヤに巻いているチェーンがチャラチャラと鳴った。
ぼくは窓の外に祖母の姿を探した。
祖母はまだ玄関先に立っていた。
その姿が降りしきる雪の中で青い影のようになっていた。
表通りに出ると、アスファルトの上に10センチほど雪が積もっていた。
街灯が人気のない街を降りしきる雪を透かしてオレンジ色に照らしていた。
消え行く夕焼けのようなオレンジ色だった。
この町を出て行くことになったのはぼんやり分かった。
ただ、なぜなのかはさっぱり分からなかった。
父親の顔を見ると、青く無表情な顔を前方に向けていた。
姉の顔を見ると、目に涙を一杯にためていた。
明日は小学校は行かなくていいのだろうかとふと思った。
エンジンの音と、チェーンの音と、ワイパーの音ばかりが狭い運転席を支配した。
再び睡魔が襲ってきた。
降りしきる雪の中に立っていた祖母の小さい姿が目に浮かんだ。