鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

鳥の寿命

2009-11-09 22:31:53 | 鳥・一般
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All Photos by Chishima,J.
シジュウカラの幼鳥 2008年8月 北海道河西郡更別村)


 「鳥の寿命は何年くらい?」という質問を、観察会やメールでいただくことがある。すべての生物は、生を受けた瞬間から、死というゴールへ向かって突き進む宿命にある。同じ生きとし生けるものとして、その限界に興味を抱くのは当然のことかもしれない。しかし、このシンプルな質問は「○○年くらいですよ」と即答することのできない、難しい質問でもある。

 即答を難しくしている要因の一つは、鳥の寿命を調べることがそう簡単ではないことにある。鳥の寿命を調べるには、大まかにいって下記の3種類があるが、それぞれに長所・短所がある。まずは、出生から死亡まで飼育してその年月を記録する方法。これ「は一番確実な方法であるが、飼育下のため、天敵による捕食や飢餓、病気等による死亡のリスクは極端に低下させられているので、実際の寿命とはかけ離れた、生理的な寿命と考えた方が良い。次いで、足環等の標識を付けて、生体・死体の回収があったらその経過年月から明らかにする方法がある。これは野生下での寿命を明らかにできるが、長い年月を経た回収記録は種内での最高寿命であり、平均寿命を明らかにできない、標識の装着から回収までの期間が必ずしも生涯の時間と一致しないといった問題点がある。三つめに、二番目の方法と近いが、ある個体群の多数の個体に出生時からカラーリング等の目立つ標識を施し、それを長期に渡って追跡する手法である。野外における野生生物の寿命を推定する一番確実な方法であるが、多数個体を捕獲し、それを長期間追跡するのは非常に困難で、実践例もそう多くない。
 さらに、上でも若干触れたが、多くの個体が生理的な寿命近くまで生きる現代のヒトとは違って、野鳥では産卵の瞬間から天敵による捕食、低温や高温、風雨、飢餓などにより絶えず死の危険に晒され、その結果、平均寿命(生態的寿命)と最高寿命(生理的寿命)が大きくかけ離れることが、この質問に答えることを一層難しくしている。たとえば、オランダのシジュウカラで調べられた例では、卵の時点で平均寿命は約8カ月、巣立ちまでこぎつけた若鳥の平均寿命は約10ヶ月であり、多くの個体が生後1年未満で死亡する、野生の厳しさを見せつけられる思いがする。寿命が明らかにされている、他の多くのスズメ目の小鳥でも平均寿命はやはり1、2年程度のものが多い。その一方で、死亡率の高い若齢時を生き延びればその後かなり長生きする個体もいるようで、英国ではシジュウカラの近縁種のハシブトガラで10年、アオガラで21年生存した個体のいることが、標識調査からわかっている。なので、問いが小鳥についてであった場合、「卵やヒナ、幼鳥の段階でかなりの個体が天敵に食べられたりして死ぬので、平均寿命は1年くらいだが、10年以上生きる個体もいるようです」と答えるようにしている。


ハシブトガラ
2008年9月 北海道帯広市
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 余りにも短い平均寿命とは裏腹に、長生きする鳥もいることが最高寿命の記録から窺える。飼育下であるが、オウムの仲間のキバタンでは80年以上生きた個体が知られており、ほかにもアンデスコンドルで約70年、ソデグロヅルで61年8ヶ月の記録がある。野外での記録に目を向けると、シロアホウドリで58年、コアホウドリで53年、ニシツノメドリで31年11ヶ月、オオミズナギドリ、マガモ、ミサゴなどで26年前後の生存が標識の記録から得られている。平均寿命の短い小鳥類でも、ズアオアトリで29年、クロウタドリやホシムクドリで20年の記録がある。概ね大型の鳥の方が長生きする印象を受けるが、その中でも上位にランクインしているのは海鳥が多い。海鳥は性成熟までに一定の期間を要し、繁殖開始後も年1回少数の子供を生産する、r-K戦略理論におけるK戦略的な生活史を持つことに起因するものと思われる。南北の半球を毎年往復するハシボソミズナギドリも繁殖開始までこぎ着ければ、その後は20年以上繁殖することが知られている。


コアホウドリ
2009年10月 北海道釧路沖
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ツノメドリ(若鳥)
2008年7月 北海道目梨郡羅臼町
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オオミズナギドリ
2009年10月 北海道釧路沖
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マガモ
2008年2月 北海道中川郡幕別町
左がオス、右がメス。背後の頭の赤いカモはホシハジロのオス。
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(2009年11月9日   千嶋 淳)


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