All Photos by Chishima,J.
(サケを捕食中のオオワシ若鳥(周囲はカラス類) 以下すべて 2011年12月 北海道十勝川中流域)
10時33分:朝は冷え込んだが風も無いこの時間には、遠くの空気が揺らぐ暖かさだ。ワシ達の多くは川原での朝の食事を終え、樹上での休息に移行している。こちらも帰りかけたところ、中州に15羽ほどのカラスに囲まれた、食事中のオオワシ若鳥を発見。ワシは全身黒っぽいが翼には新旧の羽が混在しており、2年目以降らしい。採餌中のワシに、おこぼれ目当ての数羽のカラスが付いているのは普通だが、これほどの数は珍しい。若鳥ゆえ隙がありそうなのか?
10時35分:画像を確認したところ、嘴の下側が赤く染まっている。ワシが食べているのは、新鮮なサケだったようだ。秋以降に遡上したサケが死に、初冬のワシ達の腹を満たすこの川原でも、餌となるのは大抵、干からびたり凍結した魚であり、血が滴り落ちるほどの新鮮なものは一級品だろう。道理で取り巻きのカラスが多いはずである。
10時37分:何羽かのカラスがワシの隙をついて、サケに挑みかかり、1羽のハシボソガラスが赤い肉塊をくわえて飛び去った。それでも食べる部位はまだ十分に残っているとみえ、ワシはすぐに食事を再開。
サケの肉片をくわえて飛ぶハシボソガラス
10時44分:カラス達が一斉に舞い上がり、上空を見上げてワシが「カッ、カッ、カッ、カッ…」と声を発した。オジロワシの成鳥が降りて来た。緊張感が走るが、オジロワシはオオワシから数m離れた場所に降り立ち、特に何もしない。オオワシはじきに食事を再開。オジロワシは黙ってそれを見ている。
オオワシ若鳥(左)の近くに着地したオジロワシ成鳥
オオワシ若鳥がサケを食べるのを後ろで注視するオジロワシ成鳥
10時49分:オジロワシはじわじわと距離を縮め、オオワシの真後ろにいるが、オオワシは構わず食べ続けている。大きなサケも半分近くまで消費された模様。
オオワシの成鳥が1羽、上流より飛来。この鳥は先ほどのオジロワシとは異なり、若鳥めがけて脚を出し、明らかに攻撃的な姿勢で突っ込んで行く。若鳥も軽くジャンプして応戦。繰り返すこと数回、成鳥は若鳥の傍らに着地した。
サケを食べるオオワシ若鳥(左手前)に襲いかかる同成鳥(背後はオジロワシ成鳥)
10時50分:オオワシ成鳥が、若鳥に対して翼を広げて威嚇すること数回。必死に防戦していた若鳥だが、どこかで隙が生まれたらしい。再度上流へ飛び立った成鳥の脚には、かなり大きなサケの「切り身」ががっしりと握られていた。とはいえ、サケの本体は若鳥の下にあり、すぐに採餌を再開した。
10時51分:オジロワシの若鳥が飛来したが、10mほど離れた川原に降り立った。サケの近くにいる2羽のワシとの干渉は、特に見られなかった。
10時53分:上下流含め、夥しい数のカラスが飛び立ったと思ったらオオタカの幼鳥が1羽、上流方向へ飛んで行く。カラスたちの執拗な攻撃を受けながら去って行った奥に見える日高の山並みは、いつの間にか真っ白だ。
10時56分:これまでの流れを整理している内に「何か」が起こったようだ。オオワシ若鳥の傍らにいたオジロワシ成鳥が飛んでいる。その嘴には案の定サケの一部(鰭?)がくわえられている。飛翔中に嘴から脚へと、サケを持ちかえたオジロワシ成鳥は、数羽のカラスを伴って数百m下流の川原に降下した。黙ってオオワシの食事を見物しているように見えたオジロワシ成鳥も、実は虎視眈々と略奪の機会を待っていたのである。
サケの一部をくわえ去るオジロワシ成鳥
10時58分:オジロワシの若鳥が、先程まで成鳥のいた、オオワシ若鳥の傍らにいる。オジロワシ成鳥の初期と同じように、微妙な距離感を保って食事中のオオワシ若鳥を注視している。
11時1分:上空から「ピー」と高い声。タンチョウ幼鳥の声だ。見上げると今年この近くで繁殖した家族3羽が、下流方向へ飛んで行く。途中、下流から飛来したオオハクチョウと入り混じり、白くて大きな鳥の大乱舞となる。それにしてもオオワシ、オジロワシを観察している上をタンチョウ過ぎゆくとは、何たる贅沢なのだろう。
11時2分:タンチョウに目を奪われている間に、オジロワシの若鳥が2羽になっていた。1羽の時よりもオオワシへの距離を縮め、食事を続けているオオワシも気になるようで視線はオジロワシに注がれている。
サケを食べるオオワシ若鳥(左)を背後から注視するオジロワシ若鳥
11時5分:ついに闘いの火蓋が切られたようだ。オジロワシが何度も攻撃し、オオワシ若鳥は右脚にサケを持ったまま防衛する。しかし、この回はオオワシに軍配が上がり、オオワシは再びサケを食べ始め、オジロワシ2羽はそれを見守っている。
オジロワシ若鳥(右)の攻撃に応戦するオオワシ若鳥
11時6分:すぐにオジロワシの再攻撃。今度は先ほどよりいくぶん高いところから攻撃しているようだ。組んず解れつの格闘で、詳細はよくわからない。オジロワシの1羽が飛び立った。おそらく後から飛来した個体。その脚にはやはりサケの鰭らしきパーツが握られている。
サケの魚体を持って飛び去るオジロワシ若鳥(左;周囲はオオワシ、オジロワシ、カラス類)
11時7分:残されたオオワシとオジロワシの若鳥は、川原に立ったまま特に何をするわけでもない。サケはなくなったようだ。カラス類の動きが活発になったように見えるのは、石に付着した肉片や血を啄んでいるからだろうか。
川原でたたずむオジロワシ(右)とオオワシの若鳥(周囲はカラス類)
11時10分:先刻から何度か翼を開閉していたオジロワシの若鳥が飛び立ち、カラスに追われながら下流方向へ去った。次いで、オオワシの若鳥も飛び立ち、上流へ飛去。そのうはかなり膨らんでいるように見えるから、三度の同種、異種による略奪を受けながらも、それなりに食べられたのではないだろうか。ワシ達のいなくなった川原では、相変わらずカラスが忙しなく動いている。浅瀬ではコガモの一団が、これまた小鳥のように忙しなく採餌している。陽もすっかり高くなった。
(2011年12月5日 千嶋 淳)
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