鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ホオジロガモ餌付く

2007-02-04 20:44:18 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
岸近くで餌をもらうホオジロガモのオス 2007年1月 北海道河東郡音更町)


 モール温泉で名高い十勝川温泉に隣接した十勝川では、冬期に飛来するオオハクチョウやカモ類への餌付けが行われており、観光の目玉にもなっている。しかし、餌付けによる鳥への影響や鳥インフルエンザの発生可能性を考慮して、十勝川温泉観光協会では2004年12月より餌を小麦だけに切り替えて外部からの持込を禁止し、さらに餌量や時期を規制して、水鳥たちの餌付けへの依存度を減らす試みが始まった。
十勝川温泉・白鳥護岸(オオハクチョウほか)
2007年1月 北海道河東郡音更町
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 実際、餌付け時には800羽ほどもいたオオハクチョウは半分以下まで減少し、カモ類も種、個体数ともに減少するなどの餌付け依存解消の効果が表れ始めている。オオハクチョウに関しては、川で餌をもらえなくなった分、小麦畑で見る機会が増加した気がするので、近い将来農業との軋轢が問題になるかもしれない。それでも、餌付けによる生態系への悪影響や感染症の問題が議論されながらも水鳥に対する餌付けが全国的に野放図に行われている状況の中では、画期的な取り組みといえる。


オオハクチョウ
2007年2月 北海道中川郡幕別町
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 そんな流れに逆行するかのように、この冬になって十勝川温泉で急速に人間に接近してきた水鳥がいる。それはホオジロガモである。ホオジロガモは以前からこの場所で越冬しており、多い時には数十羽を数える普通種だ。ただ、これまでは流れの速い本流部分にいたり、餌付けの行われている人工的な入り江に入っては来ても、岸からやや離れた水面の、餌付けされた水鳥を取り巻くような位置にいるだけだった。それが、どうしたわけか昨年の12月頃から、人間の与える餌に群れ集まるマガモやオナガガモとともに汀まで寄って来るようになった。ホオジロガモはマガモやオナガガモより体は小さいが、潜水という技能を巧みに生かして沈んだ餌を拾ったり、密集しているカモの中に突如浮上してそれらを蹴散らし、したたかに餌を食べている。人間をよく観察しており、餌を持った人が来ると集まって来るが、その人が陸上にしか餌を撒いていないと、彼らには手の届かない餌であることを悟り、一瞬にして去ってゆく。


ホオジロガモのつがい(右がメス)
2007年2月 北海道帯広市
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餌付け群中のホオジロガモ・オス(中央)
2007年2月 北海道河東郡音更町
オオハクチョウ・マガモ・オナガガモ・ヒドリガモとともに岸近くで餌をもらう。
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 どうして突然このような行動を示し始めたのだろうか?現在、多い時で10羽前後が人に極度に餌付いているが、そのほとんどはオスである。メスは専ら本流の方にいて、餌付けの入り江にはたまに1、2羽が入って来るが、いかにも居心地が悪そうであり、汀まで寄ることはまずない。オスとメスの行動に根本的な差があり、それが今回のような行動の発現に関与しているのかもしれない。いずれにしても推論の域を出ないわけだが、ついでにもう一つ推測するなら、餌付け用の餌の小麦への変化が関係しているかもしれない。餌付け規制以前、観光客の持ってくる餌のかなりの部分はパンであった。パンは水面に浮くため、体の小さなホオジロガモにとって、より大型の他種と争って食べることは厳しいだろう。これに対して、餌付け規制後は現地にある小麦のみを与えることになった(無論意識の低い餌やり人は、パンやスナック菓子を持ち込んでいるのではあるが)。水面に向かって撒かれた小麦は、空中か水面で素早くキャッチされなければ即座に水中に沈む。ここでは、キンクロハジロやホシハジロ、カワアイサなどはいない、もしくは餌付いていないので、水中はホオジロガモの独断場である。そのことに気付いた「勇敢な」個体がこの方法を取り始め、雪崩を打って他個体に普及したのかもしれない。


潜水中のホオジロガモ・オス
2007年1月 北海道河東郡音更町
汀近くの浅瀬で潜水するため、その様子を見ることができる。
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 このホオジロガモの、言ってみれば「文化」は今後この集団中に広まっていくのか、あるいは一時のブームで終わるのか、観察の楽しみは尽きなさそうである。


羽づくろい(上)、そして伸び(ホオジロガモ・オス)
2007年2月 北海道帯広市

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(2007年2月4日   千嶋 淳)