All Photos by Chishima,J.
(以下比較画像のハジロカイツブリを除きすべて ミミカイツブリ冬羽 2012年2月18日 北海道幌泉郡えりも町)
道東へは冬鳥として10月以降に渡来し、11月後半以降に数が増える。渡来当初は海岸部の湖沼、それらが結氷する12月以降は沿岸部の海上で主に観察される。厳冬期にはハジロカイツブリより普通で、1~3月には漁港にもよく入るが、美しい夏羽に変わる4月以降は海上で1~数羽が観察される程度で、春の渡りピークはよくわからないまま5月中旬までに渡去する。稀に夏期にも観察される。内陸部での記録は、ハジロカイツブリよりずっと稀。
和名や種小名は、夏羽で目の後方から後頭部にかけて表れる黄金色の飾り羽に因んだもので、米名Horned Grebe(角のような羽毛を持つカイツブリ)も同義。英名Slavonian Grebeは、クロアチア東部の地名(Sava川、Drava川、Danube川に挟まれたスラヴォニア地方)に由来する。同一種に対する英名と米名は多くの種やグループで異なっており、国際鳥学会議(IOC)の支持を得た「世界の鳥-推奨される英名(Birds of the World. Recommended English Names)」のような本は出版されても、なかなか世界共通の英名が普及しない背景である。ちなみに上記のリストは基本的に米名寄りで、本種についてはHorned Grebeを「推奨される英名」としている。
全長31~38cmとハジロカイツブリより少し大きいが、冬羽では白黒を基調とした中型カイツブリ類という点ではよく似る。本種は総じて白っぽく見え、顔の下部や前頚で特に顕著。前頚が白く目立つのは、同部分が黒っぽいハジロカイツブリとの識別にそれなりの距離からも有用な特徴であるが、換羽中の本種は前頚まで暗色に見えることがあり、第1回冬羽でも暗色の羽が混じることがあるようなので注意は必要。全体的な印象としては、ハジロカイツブリはカイツブリにより近い、コンパクトでふっくらした体型で、本種はサイズこそ違えどアカエリやカンムリといった大型種に近い、スリムなプロポーションを持つ。
正面顔のアップ。虹彩は赤く、瞳孔は黒い。その間に淡赤色の部分があるが、これは余程の近距離でないとわかりづらい。正面から見た嘴は細長い三角形で、鼻孔は上嘴基部付近の左右で横長に開口する。嘴基部は淡色に見え、前頚がやや暗色なことと合わせて若鳥なのかもしれない。近距離では、ハジロカイツブリとの識別は頭部周辺に着目するとわかりやすい場合が多い。以下に比較画像を示す。
頭部周辺での両種の主要な識別点は、下記の通り。ハジロカイツブリの撮影データは画像中に示した。
①嘴:ミミカイツブリの上嘴は先端付近でやや下曲し、下嘴はまっすぐなため直線的に見え、ハジロカイツブリのそれは下嘴が膨らみを帯び、上に反って見える。ミミカイツブリの嘴先端は黄白色であるが、ハジロカイツブリにそれはない。
②顔周辺:ミミカイツブリの前頭部は緩やかに頭頂部へ向かい、通常目より後方にピークがあるのに対し、ハジロカイツブリは額が切り立っていて目かその前方にピークがある。ハシボソミズナギドリやシノリガモの頭部に近いイメージ。ただし、鳥の姿勢や羽毛の膨らませ方によって見え方は異なるので注意。
ミミカイツブリの目先から嘴基部にかけては赤色の裸出部が線状に顕著だが、ハジロカイツブリでは認められない(近距離でないとわかりづらい)。
顔の白黒の境界線はミミカイツブリでより顕著で、同種の黒色部は目のラインまでしか達しないが、ハジロカイツブリの目の下方まで達する黒色部は後下方へ伸び、顔の白色部はより狭く感じる。また、白黒の境界は不明瞭で褐色みを帯びた部分が存在する。
③前頚:ハジロカイツブリは首全体が暗色に見え(英名や種小名の通り)、ミミカイツブリは白黒がきっぱり分かれる。ただ、若鳥や換羽中の個体は多少不明瞭になり、本個体もそれにやや近い。この部分は距離や光線条件によっても見え方が変わる。
顔の白色部は後頚まで達するが、頭頂部からの黒色とは明瞭に区別される。ハジロカイツブリの白色部はもっと狭く、後方からはより暗色に見える。そこだけに着目すると本種は、アカエリカイツブリ夏羽やウミガラス冬羽のその部分にむしろ近い印象。
翼を使わず跳躍して水に潜り、潜水中も翼は使用しない。脇は白色で灰褐色の羽毛が散在し、腹は白い。
脚は体の最後方に位置し、陸上での移動は苦手。カイツブリ類の脚は、各趾ごとに幅広い葉状の弁膜が付着する弁足。画像では右脚内趾(第2趾)の弁膜が、外趾(第4趾)に外側から被さる形で見えている。
水中での弁足の見え方。脚は黒色だが外縁は黄色~白色。黄、白色部分は死後失われると思われ、標本では確認しづらいだろう。カイツブリ類の尾羽はごく短い綿羽から成り、体羽とほとんど区別しがたい。
左はウミアイサのオス幼鳥。サイズはずいぶん異なるが、潜水して魚類を捕食することに適応した細長い嘴や首、流線型の体等はアビ類やウ類等とも共通している。
(2012年3月14日 千嶋 淳)
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