鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

マダラウミスズメ(その1) <em>Brachyramphus perdix </em>1

2012-10-02 21:34:00 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて マダラウミスズメ 2012年7月下旬 北海道十勝沖)


 一連の写真はすべて同一個体。属名は「短い嘴の」、種小名は「ヤマウズラ」をそれぞれ意味する。以前は北太平洋に分布するものを1種として、アジア側をB.m.perdix、アメリカ側をB.m.marmoratusとして別亜種扱いすることが多かったが、1990年代中期以降は各々を別種として扱うのが一般的となっている。その場合の英名は、marmoratusがMarbled Murrelet(大理石模様のウミスズメ類)、perdixがLong-billed Murrelet(嘴の長いウミスズメ類)となる。perdixmarmoratusに比べて翼長、嘴峰長、体重が明らかに大型である。カムチャツカから千島列島、サハリン、日本海北部、オホーツク海周辺に分布し、日本へは主に冬鳥として北日本の海上に渡来する。太平洋側では東北南部~関東地方、日本海側では能登半島沖くらいまでが主な分布域だが、博多湾や奄美大島、久米島からも記録がある。

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 本種の北海道における繁殖記録としては、1961年6月の小清水町藻琴山におけるものが有名だ。繁殖羽の成鳥が採集されているのは確かだが、巣卵に関しては巣の位置や卵の数等疑問の残る記録である。とはいえ、少なくとも1980年代までのオホーツク海沿岸では夏期の観察や採集の記録もあり、少数が繁殖していたのは確かだろう。知床半島では1990年代に幼鳥も観察されているが、2000年代以降記録は激減する。道東太平洋でも、1970年代頃までは厚岸や釧路の沿岸で夏期の記録が散見された。人知れず北海道から繁殖個体群が消失してしまったか、その手前である可能性が高い。「日本鳥類目録」では第6版(2000年)、第7版(2012年)とも北海道での扱いを、Former Breeder(過去に繁殖)としている。



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 海鳥としては非常に変わった繁殖習性を持ち、沿岸から主に20km、時に55~70km離れた針葉樹林や混交林の枝上に巣をかけて繁殖する。北米のmarmoratusは樹齢200年を超えるシトカトウヒ、ベイツガ、セコイアなどの老齢林で繁殖し、伐採による環境変化には敏感で、老齢林の伐採されたオレゴン州やカリフォルニア州からは姿を消してしまった。伐採による影響は、営巣木の喪失という直接的な影響にとどまらず、林縁が増えることによって捕食者からの襲撃の機会を増大させている。生態的にはほとんど同じという本種において、北海道で同様の圧に晒されたことは想像に難くない。
 繁殖個体群だけでなく、越冬鳥もおそらく減っている。1990年代には冬の十勝海岸から海上を眺め、1~数羽の本種を探すのは難しくなかったが、近年ではなかなか出会えない。更に遡ると、1920~30年代の東京湾では、採集記録から、比較的普通の海鳥だったようである。極東の個体群は恐ろしい勢いで衰退しているかもしれない。北米のmarmoratusでは、10~20年で40~50%もの減少が知られている。
 24~26cmという全長はウミスズメにほぼ等しいが、横長な体型と細長い嘴のためか、より大きく見える。上面は褐色で、夏羽ではこのように胸から腹、下尾筒にかけて鱗模様で覆われ、全体的に茶色っぽく見える。本個体の喉は冬羽同様白っぽい。個体や齢による差を把握し切れていないのだが、これまで夏の北海道で出会った個体は、喉の白い個体が多い。翼下面は暗色で、ウミスズメやカンムリウミスズメとは異なる。また、エトロフウミスズメやその近縁種に比べると、翼は細長く、先端の丸みを欠く。遠くで大きさが判定しづらい状況では、細長い嘴がケイマフリのように見えることがある。


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 翼上面は暗褐色で目立つ白斑等はない。肩羽は夏羽、冬羽とも白色のラインを形成する場合が多いが、本個体ではほとんど認められない。腰のあたりに虫食い状に白い部分が見えるが、これが羽色そのものなのか、風等でめくれ上がってそう見えているのかは不明。


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 後下方から見ると、側面から見た時より一層黒っぽく見える。翼はウミスズメ類の中では細長く、ケイマフリやウミガラス類に近いプロポーション。一連の写真を見ると嘴を開いて鳴いているようにも見えるが、残念ながら声は聞こえなかった。


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 真後ろからのカット。喉の白色部は隠れ、全身黒褐色の鳥に見える。このアングルからだけでは、識別は難しいかもしれない。
 本種を日本から最初に記載したのは、函館近郊での記録に基づくブラキストンである。


(2012年10月2日   千嶋 淳)



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