鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

海鳥を読む⑨「Flight Identification of European Seabirds」

2014-08-04 22:59:57 | 海鳥
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NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより184号」(2014年3月発行)掲載記事「海鳥を読む」を分割して掲載)


「Flight Identification of European Seabirds」(Anders Blomdahlほか著、234×156mm、374ページ、Christopher Helm、2003年)
 海鳥の飛翔に焦点を当てた図鑑で、海上を渡るのを見る機会の多い淡水ガモ類やガン・ハクチョウ類も含め、1種あたり2~11点の写真が用いられている。写真は複数角度からの個体写真だけでなく、群れの遠景や混群など、実際にフィールドで役立つものが多い。テキストではシルエット、飛び方や集群の仕方など、飛んでいる鳥の識別に重点が置かれており、「体の後半部に大きなウエイトのある印象を与える」(シノリガモ)、「盛り上がった背中と、下がった頭、首が特徴的な姿を示し」(アビ)といったJizzが多用されているのも、鳥をよく観察するヨーロッパのバードウオッチャーぽい。飛翔中の行動や光線による見え方の違いも細かく書かれており、日本の図鑑にはなかなか載っていない、そうしたセンスを磨くことで識別力は確実に向上する。科ごとに簡単な総論もあり、「アビ類の魅力のいくらかは神秘と原始のオーラがあって…(中略)…象牙色に輝く嘴のハシジロアビ夏羽があなたの前を、ディープブルーの海上低く、荘厳に飛んで行く光景は忘れられないものとなるに違いない」、「トウゾクカモメ類が視野内に飛んで来ると、渡る海鳥のルーチンなスキャニングは放棄され、seawatcherのグループ内に興奮が急速に増大し…(中略)…識別に関する議論は鳥が消え去るまで長く続く」などは思わず共感して頷いてしまう。対象地域はヨーロッパだが日本との共通種も多く、十分実用的。同様のコンセプトで最近出版されたのが「Peterson Reference Guide to Seawatching -Eastern Waterbirds in Flight」(602ページ、Ken Behrens and Cameron Cox著、Houghton Mifflin Harcourt Publishing、2013年)だ。北アメリカ東部の水鳥の飛翔識別ガイドで、大判で写真も鮮明なものが多い。カモ類やアビ類、トウゾクカモメ類など日本との共通種も多く、参考になる。これらの日本版が出れば、岬や海岸で海鳥の渡りを見守るseawatcher人口の増大に繋がるかもしれない。


(2014年3月   千嶋 淳)



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