All photos by Chishima,J.
(ハジロミズナギドリ 以下すべて 2006年9月大洗~苫小牧航路)
この聞きなれない名前の海鳥は、南半球のオーストラリア東方にあるロードハウ島というこれまた聞きなれない名前の孤島で繁殖する。200年前には、ニュージーランド北方のノーフォーク島でも繁殖していたそうだが、こちらは流刑囚やブタ、ヤギなどの捕食によって絶滅した。島嶼の生物が外部からの捕食者に対して、いかに脆弱であるか示している実例といえる。繁殖期後や非繁殖鳥は北方に分散し、北西太平洋やベーリング海の陸棚縁に達するものもある。
日本におけるこの鳥の記録は、意外と新しい。南大東島における1931年の採集記録が長年日本初の記録とされてきたが、これはよく似たカワリシロハラミズナギドリであることがわかった。その後、日本近海の外洋域での記録はあったが、日本国内での初記録は1982年になる。しかし、研究や観察が進むにつれ、北太平洋では一年を通じて飛来し、北太平洋北西部に集中分布すると考えられる8~10月頃には、三陸沖などで決して稀ではないことが明らかになってきた。私も9~10月の東北~北海道南部沖で何度か観察したことがある。それでも、そう多い鳥ではなく、一回に観察されるのは1~数羽が普通である。
ハジロミズナギドリ
9月28日。前日の夕方に大洗を出港した苫小牧行きのフェリーは、夜明け時にはすでに宮古の沖に達している。まだ薄暗いのでしばらくは船室の窓からの観察を行なう。季節がら出現する海鳥の大部分はオオミズナギドリであるが、たまにハイイロミズナギドリやヒメクロウミツバメなども飛んでいる。船が八戸の沖に達したあたりの午前7時30分すぎ、日も高くなってきたので、甲板へ上がる。
オオミズナギドリ
初夏~秋にかけての本州沿岸では最優占種だが、繁殖分布は日本周辺だけである。
しかし、昨日から今日にかけてこの海域を通過した発達した低気圧のせいだろう、風がものすごい。まともに立っていることができないくらいだ。「ダメだこりゃ」と船室に戻ろうとした時、1羽の黒っぽいミズナギドリが船のすぐ横を飛翔しているのに気付いた。「ハイイロ?」とりあえず脇に抱えていたカメラで数枚を撮影すると、鳥は遠方へ流されていった。確認すべく画面を見ると、風のためブレブレだが、翼下面には2つの白斑がしっかりと映し出されていた。ハジロミズナギドリである。これは幸先がいい!もう少し強風と闘ってみようか。
波しぶきとともに(ハジロミズナギドリ)
結局、強風との闘いはこの後3時間以上に及ぶこととなった。北海道の恵山沖くらいの海域まで、非常に多くのハジロミズナギドリが出現し続けたからである。強風と撮影もしていたので正確な数はわからないが、500羽は優に超えているはずである。おかげで今まで翼下面から他種と識別するくらいの観察しかできなかったこの鳥を、じっくり堪能することができた。大きな群れを形成することもあるオオミズナギドリやハシボソミズナギドリなどとは異なり、大抵の出現は1羽で、時に2~3羽が近接して飛翔していることもあったが、それもたまたま近くに居合わせただけという雰囲気であった。また、船の横や後ろを船に付くように飛ぶことがあり、そうした時にはじっくり観察できた。丸っこい体型はフルマカモメにやや似ており、はばたきの軽快さも似ている。ソアリング時の高低差は非常に大きく感じたが、これは強風のせいかもしれない。識別上の特徴としては、翼下面のほかには嘴基部の白色やくさび形の長い尾のほか、体型も参考になろう。
2羽で飛翔(ハジロミズナギドリ)
翼上面の初列風切の内側が白く、手ブレや遠方などの悪条件ではカワリシロハラミズナギドリのように見える個体が少なからずいた。このような個体は換羽中のようであった。もしかしたら初列風切内弁の基部が白く(カワリシロハラミズナギドリではそうなっている)、換羽で最内側の羽が抜けているためにその部分が見えていたのかもしれない。洋上での識別には注意が必要であろう。
翼上面の初列風切の内側が白く見える個体(ハジロミズナギドリ)
何か一生分のハジロミズナギドリを見てしまった感があるが、低気圧が当該海域を通過したため本来外洋性の本種が、大挙して沿岸近くまでやって来ていたのだろうか。こういうことがあると、海はつながっていて鳥には翼があるのだなぁと改めて感心したりする。そして当たり外れが大きく、オオミズナギドリしか出ないようなことがあろうとも、航路での探鳥は止められそうにない。
ハジロミズナギドリの上面
くさび形の長い尾も特徴。
大洗~苫小牧航路2006年9月28日:クロアシアホウドリ ハジロミズナギドリ カワリシロハラミズナギドリ(1) オオミズナギドリ ミナミオナガミズナギドリ(1) アカアシミズナギドリ ハイイロミズナギドリ ハイイロウミツバメ ヒメクロウミツバメ ウミウ ハイイロヒレアシシギ オオトウゾクカモメ トウゾクカモメ クロトウゾクカモメ セグロカモメ オオセグロカモメ ウミネコ キジバト ハシボソガラス 往路(21日)ではこのほかにアオサギ トウネン ミユビシギ アカエリヒレアシシギ アジサシ セジロタヒバリ?を観察
イシイルカの水しぶき
英語では「ルースターテール」(おんどりのとさか)と呼ばれる。
クロアシアホウドリ
大洗港の黄昏
(2006年10月3日 千嶋 淳)
10月中旬は渡りの最盛期 調査は疲れるが楽しいね
>10月中旬は渡りの最盛期 調査は疲れるが楽しいね
鳥の動きといい、葉の色や朝の空気の変化など、一年でもっとも季節の動きを感じることができる季節だと思います。